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01

 
高校2年生に進級するタイミングでお父さんの転勤が決まり、家族で宮城県に引っ越すことになった。私が編入した青葉城西高校はなかなかのマンモス校で、友達ができるか不安だったけどクラスのみんなは温かく私を迎え入れてくれて安心した。
こっちに来て2週間。学校にも近所にも少しずつ馴染めてきていると思う。

「そういえばなまえちゃん部活どうする?」
「部活かー……」
「前の学校では何やってたの?」
「バレーだよ」

部活については先生から「強制ではないけどまだ2年生だしやりたいことがあれば入った方がいい」と話があって、未だに決められないでいた。
前の学校では女子バレー部に所属していた。中学で友達に誘われるがままバレー部に入って、特別うまいわけでもないなりに高校でも楽しく続けていた。

「じゃあバレー部入る?」
「ううん、そんな上手くないし、春に足痛めちゃったから……やめとく」
「そっかー」

そういえば青城は女子か男子、どちらかのバレー部が強いって聞いた気がする。私程度のレベルの選手が途中で入っても卒業するまで応援席で声援を送るばかりになるだろう。別にそれでもいいんだけど、どうせだったらマネージャーとして入って選手をサポートしたいっていう気持ちがある。

「マネージャーやろうかなぁ」
「えっ」
「え?」

独り言のように呟いたら優子ちゃんの表情が曇った。

「男子バレー部のマネージャーはやめといた方がいいかも……」
「ううん、女子バレー部のマネージャー」
「あ、なんだそっち?」

知り合いが全くいない状況で男子バレー部のマネージャーをやる勇気は流石に無い。ただ、何でわざわざ優子ちゃんが「やめた方がいい」と言ったのかは気になった。

「何で男子バレー部はやめた方がいいの?」
「3年生に及川さんっていうかっこいい先輩がいるんだけどね、その人がバレー部の部長で……けっこう女子から人気あるんだ」
「へえー」

どの学校にもかっこよくて人気のある男子はいるものだ。前の学校にもテニス部にすごく人気な先輩がいて、テニスコートはいつも女子達に囲まれていた。
私だってイケメンは人並みに好きだけど、遠目に見てるのが一番だと思ってる。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。

「だから、もしかしたらその……悪く言われちゃうかもって思って」
「なるほど……教えてくれてありがとう」

確かにそんなイケメンがいる部活に新参者が入ったら色々言われてしまうのは予想できる。私の知らない事情を教えてくれた優子ちゃんは優しい子だ。
とりあえず『及川さん』の存在は知れて良かったと思う。今度遠目にチラっと見てみよう。


***


3日間くらい考えた結果、私は女子バレー部のマネージャーをやることにした。女子バレー部は去年の3年生が卒業してから一気に人数が減ってしまい、ちょうど人手が不足していたらしい。同じクラスとバレー部の子に相談したら目を輝かせて「ぜひ入ってほしい」と懇願されて、単純な私は簡単にその気になった。
昨日仮入部で体育館を訪れた途端に熱烈な歓迎を受けて、あれよあれよとマネージャーとして本入部することになった。プレーヤーとしての未練が無いと言ったら嘘になるけれど、プレーヤーの経験があるからこそ気付ける部分もあると思う。
クラス以外での友達や後輩との繋がりもできたし、部活に入るという選択肢を選んで良かった。

「……!」

そんなことを考えながら、浮かれた足取りで体育館へ向かっていた私はふと足を止めた。校舎裏のベンチで男子生徒が寝ていて、なんとなく見入ってしまう。伏せられた瞼の下に見える睫毛は男の子にしては長いと思った。目を閉じた状態でも顔が整ってるのがわかる。もしかして彼が噂の『及川さん』だろうか。

「……あ」

寝ているのをいいことにジロジロと見ていたら、男子生徒の膝の上に置いてあったスマホが落ちる瞬間を目撃した。スマホは衝撃で半回転してベンチの下に入り込んでしまった。これじゃあ起きた時にきっと気付かない。今やスマホは必需品だ。1日無いだけでものすごく不便だろう。彼を起こさないように拾ってあげようと私はベンチに近づいた。

「……何すか」
「あっ……痛!」

地面に膝をついてベンチの下を探っている最中に男の子が起きてしまった。このタイミングはよくない。人が寝てるベンチの下を覗き込むなんて変な人みたいじゃん。
慌てて顔を上げたらベンチに頭をぶつけてしまって更に恥ずかしい。少し下がって改めて見上げると、怪訝な顔をした男の子が私を見ていた。

「ち、違っ……あの、スマホ、落ちて……!」
「……どうも」

拾ったスマホを差し出して弁明する。ちゃんとした日本語にならなかったけど理解はしてもらえたようで、スマホも受け取ってもらえた。「どういたしまして」と去ろうにも、感情の読めない視線をじいっと向けられてなんとなく動けない。

「それも、俺のっす」

よく見たらその視線は私の足元に向けられていて、そこに凹んだ箱が落ちていた。お菓子の箱だろうか。多分私がしゃがんだ時に潰してしまったと思われる。

「ご、ごめんなさい……!」
「……別にいいっすよ。食べれるし」

男の子はベンチから立ち上がって潰れた箱を拾い上げた。座ってた時はわからなかったけどけっこう身長が高い。エナメルバッグを持ってるから多分運動部。もしかしたら本当にバレー部の『及川さん』なのかもしれない。

「1個あげます」
「えっ……」

男の子は潰された箱の中を確認して、入っていたものを1つ私にくれた。キャラメルだ。潰れたものを人にあげるなんてと一瞬思ってしまったけど、潰した張本人は私だ。文句を言える立場ではない。なんだか申し訳ないと思いながら、今日購買でお昼と一緒にチョコを買っていたのを思い出した。

「じゃあ、チョコと交換で」
「……どうも」

キャラメルを貰った代わりにチョコを渡すと、男の子はきょとんと不思議そうな顔をした。嫌いだったかな?いや、キャラメルが好きならきっとチョコも大丈夫なはず。

「スマホ、ありがとうございました」
「いえ!」

チョコを受け取った男の子は最後に軽くお辞儀をして部室棟の方へ向かった。その背中を見送ってからキャラメルを口に含む。
……塩キャラメルだった。


***


翌日、あの時潰してしまった塩キャラメルの箱と同じパッケージのものをコンビニで見つけて衝動買いをしてしまった。
塩キャラメルは別に嫌いってわけじゃないけど、買ってまで食べたいと思ったことはなかった。でも実際に5粒くらい食べてみて、この塩っけがクセになるっていうのは少しわかるような気がした。
放課後、キャラメルを口に含みながら昨日と同じ校舎裏を通って部活に向かう。意識的に目を向けたベンチに昨日の男の子はいなかった。

「……!」

代わりに私の目に入ったのは、渡り廊下で男の人と話している女子バレー部の部長、みさきさんだった。相手の男の人がかなりかっこいい人だったから、私は見てはいけない場面に遭遇してしまったのかと思って咄嗟に息を潜めた。
みさきさんは綺麗でスタイルが良くて気さくで面倒見も良い。モテるんだろうなって思ってたけど、こんなに素敵な彼氏がいるなんて。正に絵に描いたような美男美女カップルから目が離せない。眼福だ。

「あ、なまえちゃん」
「ごっ、ごめんなさい!」
「え、何で?」

ドキドキして覗き見していたらみさきさんに気付かれてしまった。反射的に謝るとみさきさんは不思議そうに首を傾げた。

「ちょうどなまえちゃんの話してたんだけどさー……」
「え!?」
「どうもー」

この二人の会話に私の話題が出るなんて何事だろうか。面識のないイケメンさんをチラッと見上げたらニコッと笑顔を向けられて、どうしたらいいのかわからず会釈しかできなかった。

「ちょっと及川、うちの部員に色目使わないで」
「挨拶しただけじゃん!」
「及川さん……?」
「初めまして。男子バレー部部長の及川徹でーす」

この人が噂の『及川さん』だった。フレンドリーに自己紹介してくれた及川さんを見て確かに人気がありそうだと納得した。塩キャラメルをくれた人はイケメンと言うより美形って感じで、愛想が良い印象はなかった。

「いやー女バレにマネージャーが入ったって聞いてね」
「羨ましいんだって」
「は、はあ……」
「そりゃそうだよ、こっちは男ばっかでムサくてたまんないんだから」
「自分もムサいに含まれてるってわかっての発言だよね?」
「え??」
「は?」

そしてこの二人、付き合ってる感じではないのかな……?仲良しなのはわかるけど恋人みたいな甘い雰囲気は微塵もない。

「それでね、今週末だけなまえちゃん貸してほしいってお願いしてたとこ」
「本当図々しいよね」
「……え?」

美男美女の漫才のようなやりとりをポカンと眺めていたら話に置いていかれていた。
改めて聞いてみると、今週末の連休に男子バレー部は2泊3日の合宿を行うらしい。そこで裏方の仕事をする人手が足りなくて女子バレー部のマネージャーの私に来て欲しいということだった。

「いいでしょ?合宿中はどうせこっちが体育館貸し切るんだし」
「私はなまえちゃんの意思を尊重する。どうする?」
「えっ」

意思を尊重すると言われても、及川さんの笑顔からはなんか圧を感じるし、断ったらみさきさんの顔に泥を塗ってしまうかもしれないと思うと断れるわけがなかった。

「わ、わかりました。」

こうして私は、期間限定で男子バレー部のお手伝いをすることになった。



( 2019.3-4 )
( 2022.5 修正 )

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