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after1

( 治視点 )




「おっ、みょうじちゃんやん!角名のこと待っとんの?」
「う、うん」
「へー!」

土曜日の部活終わり、着替えて部室から出ると一人佇むみょうじさんがおった。角名のことを待っとるんだと気付いた侑がいち早く駆け寄って声をかけると、みょうじさんははにかんで頷いた。
みょうじさんと角名が付き合い始めたのは今週の月曜日から。聞いてもないのに侑が教えてきた。「俺がアシストしてやったんや」と武勇伝のように語っとったけど、多分そんなんなくても角名とみょうじさんは付き合うてたと思う。
平日の部活は夜遅くまでやっとるから、おそらく今日が初デートなんやろう。みょうじさんふわっふわしとる。

「おい角名ァーー!彼女待っとるからはよ来いやーー!!」
「侑くん!?」

侑が部室に向かって大声で叫んだ。まーた侑の悪い癖が出た。みょうじさんからかうとおもろいのはわかるけど、付き合いたてのカップルくらいほっといてやれや。

「……で、ちゅーしたん?」
「!?」

更にタチの悪い質問をされて、みょうじさんの顔がぼんっと赤くなる。さすがにコレはセクハラ言われてもしゃあないんやないか。

「おい」
「ええやんか!今が一番楽しい時やろ?なあみょうじちゃん!」
「う、うん」

やめたれやという意味を込めて俺は侑の足を蹴ったけどテンションの上がった侑は聞く耳なし。
一番楽しい時やからこそほっといたれや。みょうじさんもうざいならうざい言わんとダメやで。

「私と角名くんが付き合うてるなんて、まだ実感わかへん……」

俺の気遣いは不要だった。
みょうじさんもみょうじさんでふわっふわしとるから、侑のいじりもいつもより効いてないみたいや。色ボケとはこのことか。まあ、幸せそうで何より。

「お待たせ。侑にいじめられてない?」
「う、うん!大丈夫だよ!」

そこに現れた角名はクールを装ってるけど、急いで着替えてきたのが窺えた。チャックの隙間から見える鞄の中はグチャグチャや。
ぼんやり鞄を見ていたら角名の意味ありげな視線が俺に向けられる。……はいはい、みょうじさんには言うなってことやろ。

「人聞き悪いこと言うなや!みょうじちゃんが寂しないよう話し相手になってあげたやんか!」
「……何の話してたの」
「みょうじちゃん付き合うてる実感わかへんからもっとイチャつきたい言うとったで!」
「!? そ、そんなこと言っとらんっ!」
「……」

侑の大袈裟な言い方にみょうじさんが焦る。そういうつもりで「実感わかない」って言ったわけじゃないことくらい侑も、そしておそらく角名もわかっとる。

「じゃあ侑とあんまりじゃれないで」
「!」

侑の思い通りの反応をしてくれるみょうじさんに対して、角名は何枚も上手やった。普段からスルースキルの高い奴やし、侑の悪ノリの躱し方を心得とる。

「侑も、人の彼女にちょっかい出さないでくれる」
「!!」

そしてみょうじさんは角名の発言によって更にふわっふわになった。ニヤけが抑えきれなくて変な顔になっとる。多分角名の口から出た「彼女」ってワードを噛み締めて、まさしく実感しとるんやろなぁ。

「ちぇー!カラオケ行こかと思っとったのに!なあサム」
「はよ帰りたい」

幸せカップルをいじる趣味はない。それよりも俺ははよ帰ってプリン食いながら録画したお笑い番組を見たい。



( 2018.10 )
( 2022.5 修正 )

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