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「みょうじさん」
「赤葦くん!」

今日はブラックジャッカルとEJPライジンの試合。ベストポジションを探してうろうろしている私に声をかけてくれたのは赤葦くんだった。

「もしよければ一緒に観ませんか?」

こんなこと少し前にもあったなあと懐かしく思ったけど、まだ一年も経ってないのかと気付いて過ごした時間の濃厚さを再確認した。今回も赤葦くんはおにぎり屋さんの袋を持っている。

「あ、おめでとうございます」
「あ……ありがとうございます」

そういえば光太郎と付き合うことになってから赤葦くんに会うのは今日が初めてだ。なんだか少し照れくさい。きっと私の知らないところで赤葦くんは暗躍してくれていたんだろうと思うと本当に感謝しかない。

「関係者席で観ないんですか?」
「光太郎もそう言ってくれたんだけど……バレーに関しては私はファンだから」
「……そうですか」

今日の試合も今まで通り、私は一般チケットを買って自由席で観戦する。選手の関係者は専用のスペースが用意されてるらしいけど、それでも私は木兎光太郎選手のいちファンとしての姿は貫きたい。Vリーグのために少しでも貢献できたらとも思うし。

「赤葦くんだってそうでしょ?」
「そうですね」

それはきっと赤葦くんも同じのはず。僭越ながら私は赤葦くんに対して"同志"に似た感情を、勝手に抱いているのだ。

「ユニバに行ったんですよね」
「え、何で知ってるの?」

今月の頭に光太郎とユニバに行った。付き合うことになった日は本当に勢いで大阪に行ってしまったから木葉くんからチケットを貰ったことは伝えてなくて、後日話したら早速行こうということになった。付き合って初めてのデートがユニバだなんてヘビーじゃないかと心配したけど、まず軽く映画からという考えは光太郎にはなかったみたい。実際とても楽しくて何も心配することはなかった。

「先週梟谷の飲み会があったんですけど、そこで自慢してました」
「自慢って……」
「髪型がいつもと違って可愛かったとか手が小さくて可愛かったとか、はしゃぐ姿が可愛かったとかあと……」
「もういいです……!」

先週梟谷の飲み会があったことは知っている。すごく楽しかったと教えてくれたけど、そんなこと言ってたなんて聞いてない。全然知らない人ならまだしも赤葦くんと木葉くんにそういうことを伝えられるのは恥ずかしかった。

「あとお土産もらいました」
「あ!百味グミだよね?本当に美味しくないらしいから一応止めたんだけど……」
「初めて食べる味ばかりで面白かったです」
「そ、そっか」

梟谷のみんなにお土産を買うんだと光太郎が選んだのは、魔法使いの映画に出てくるいろんな味のするグミだった。草味や石鹸味などなかなか忠実に再現されているらしく、お世辞にも美味しいとは言えないと聞いていたからもっと無難なチョコとかクッキーにした方がいいと言ったんだけど……赤葦くんに限っては杞憂だったみたいだ。

「来年には結婚して、結婚式は盛大にやりたいと言ってました」
「!?」

一瞬何のことを言ってるのかわからなかった。少し考えて、まだ飲み会での光太郎の話が続いてるんだと気付いた。私「もういいです」って言ったのに。しかも「結婚」だなんて。結婚を視野に入れてのお付き合いのつもりだけど、来年は早すぎる気がする。

「結婚の時期はみょうじさんの仕事の都合も考慮すべきだし準備には時間がかかると言っておきました」
「はは、ありがとう……」
「それから、子供は3人以上で老後は夫婦2人で海の見える町でのんびり暮らしたいそうです」

赤葦くんの暴露話は止まらない。そういうこと、私に言っていいものなのかな。

「齟齬があるようならそれとなく伝えておきますが」
「……ありません」

結婚できたらいいなと思ってるのはもちろん私も同じだし、光太郎との子どもがたくさんいたら楽しいと思う。老後に最愛の人とのんびり余生を満喫できるのなら、私の人生は最高だったと胸を張って終えられる。告白の時に思わず洩れてしまった「木兎くんと家族になりたいし死ぬ時は笑顔を向けてほしい」という言葉をしっかり受け止めて実現してくれようとしてるんだ。
気付いた途端、とても赤葦くんにはお見せできない顔になってしまって両手で隠して俯いた。

「楽しみにしてますね」

指の隙間から覗き見た赤葦くんは満面の笑みだった。



( 2022.5 100万hit企画リクエストより )

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