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04

 
バン!

「えっ」
「え、何で黒尾いるの?」
「それはこっちの台詞なんですけど」

日直で遅れて一人部室で着替えていると、ノックもなしに乱雑にドアが開けられた。堂々と入ってきたみょうじと目が合って、俺は着ようとしいたTシャツを手に持ったまま固まった。

「いやあの……何でそんな普通なわけ」
「え?」
「男子高校生のパンイチ姿なんですけど」
「あー……うん、それしなむらのパンツ?」
「ウニクロですー!」

なんか普通に会話してるけど、今俺はパンツ一枚しか履いていない。裸も同然なこの姿にみょうじは恥じらう気配が微塵も無い。多分俺の方が動揺してる。だって好きな女子にパンイチ姿見られたんだぞ。ほんともう何なのコイツ。責任取ってほしいんだけど。

「じゃなくて、『キャー!』とかないの?」
「うーん……いい身体してるとは思った」
「……そりゃ鍛えてますからネ」

一応日々真剣に部活に取り込んでいるわけだからいい感じに筋肉は付いてると思っている。もし俺が女子で同じ状況になったら、多分赤面して「きゃー」と可愛い悲鳴をあげたことだろう。

「今から掃除するからエロ本隠すなら今のうちだよー」
「持ってませーん」
「黒尾って胸よりお尻好きそう」
「いや、強いて言うなら太腿……って言わすなよ」

どうやら部室の掃除をしに来てくれたらしい。確かに男しか出入りしないから今見渡してみてもかなり乱雑な状態だ。掃除してくれるのはありがたいけど、それでもノックはした方がいいと思う。
つーか今、部室に2人きりっていう状況については何も思わないんだろうか。こちとら意識しないように必死だってのに。エロ本なんてどうでもいいんだよ。どんなに綺麗な胸もお尻も、目の前の好きな女の子に敵うわけがねェんだから。

「ねえ黒尾、あれ取って」
「……おー」

そしてみょうじはもうちょっと意識してくれないものか。パンイチの男をコキ使うなよ。
みょうじが指さしたのはロッカーの上に置いてある掃除用具。確かにみょうじの身長じゃ手を伸ばしても届かない。

「さすが高身長! よっ!」
「……」

どこまでも通常運転なみょうじの態度に俺の中で何かが吹っ切れた。

「え……?」

俺は手に取った掃除用具は渡さず、ロッカーと自分の体の間にみょうじを挟んでぐっと距離を詰めた。

「何? 壁ドンの練習?」
「ちげーよ、本番」
「は……」
「みょうじ以外にする予定ねーから」
「!」

みょうじは鈍いってわけじゃない。頭の回転の速さなら俺といい勝負だと思う。ここまではっきり言ったら、俺がどういうつもりでこんなことをしているかは理解できるはずだ。
みょうじは目を丸くして俺を見上げた。そして徐々に顔が赤く染まっていく。やべェ、超可愛い。ようやく意識してもらえたってことでいいんだろうか。そんな可愛い反応されると期待しちゃうんですけど。

「っ、ヘイ!!」
「いってェ!!」

前髪をかき分けてでこちゅーでもしてやろうかと顔を近付けたら頭突きをされた。怯んだ隙にみょうじは部室を出て行き、みょうじに渡すはずだった掃除用具が床に空しく転がった。
さすがにパンイチで追いかけるわけにもいかず、ズキズキと痛む額に手を当てて立ち尽くす。ちょっとやりすぎたかと後悔はしたけど反省はしていない。


***(夢主視点)

 
何だったんだ、昨日のアレは。
昨日抜き打ちで部室の掃除をしてエロ本でも見つけてやろうと企んでいたら、黒尾に壁ドンされてでこちゅーされそうになった。思い返しただけでも意味がわからない。こちとら綺麗に割れた腹筋を直視しないように必死だったのに、パンイチ姿で迫られたらもう頭突きをかますしかなかった。
一晩経って冷静になってみたら段々と怒りと悔しさがこみあげてきた。黒尾にドキドキしてしまったことが悔しい。むかつく。
確かに私は1年の時黒尾のことが好きだった。けど、「女子と話してる感じしねー」って恋愛対象外宣言したのはそっちじゃん。なのに今更女の子扱いしてきたり思わせぶりな言動をしてきたり……許すまじ黒尾。あの一件があってから、黒尾とは一言も喋ってないし目も合わせていない。

「黒尾と喧嘩したの?」
「……」

そんな私にいち早く気付いたのはやっくんだった。

「喧嘩じゃないんだけど今は距離を置こうと思います」
「熟年カップルかよ」
「違うし!」

 『カップル』という単語をムキになって否定したのが、なんだか黒尾のことを意識している証拠みたいだ。
いやでもあんなことされて意識しないって方が無理だと思う。いつもの調子で「冗談やめてよ」って笑い飛ばせなかったのは、黒尾の表情が真剣だったから。冗談か本気かは顔を見ればわかる。とりあえず今は距離を置いて考える時間が欲しかった。

「私ってまだ黒尾のこと好きだったのかな……」
「!」

諦めて吹っ切れたつもりでいたのに、結局は友達って立場に甘えながら未練タラタラだったのかもしれない。それを見抜いた上で黒尾はあんなことしたんだろうか。

「何かあったの?」
「いやでもさ、あの顔と肉体に壁ドンされてでこちゅーされたら普通ときめくでしょ」
「え、あいつそんなことしたの?」
「あ、でこちゅーは未遂」

黒尾がかっこいいってことは誰よりも知ってる自信がある。ちょっとバレー部が全国に行ったからって注目して、黒尾のことをかっこいいと持て囃す女子が出てきた時は正直面白くなかった。黒尾はもっと前から頑張ってたもん。なんて、古参ファンみたいな嫉妬心を誰にも打ち明けることなく心の中で燃やしていた。
多分黒尾は十人中7人くらいは「かっこいい」って言うイケメンだ。更に高身長で運動も勉強もできる。一見ふざけてるように見えても人のことをしっかり見ていて細かい気配りもできる。そして根は真面目だ。

「……好きなの?」
「……好きかも」

考えてみたらいいところしか思いつかなくて、私は自分でも驚くくらい黒尾のことが大好きだったことに気づいてしまった。


***(黒尾視点)


「研磨ァ〜〜」
「……クロどっか行って」

部室でのあの一件以来、みょうじに無視されるようになった。
いやまあ、自分でもやりすぎたとは思った。漫画やドラマじゃあるまいし壁ドンとかでこちゅーとかマジかよって、冷静になった今は思う。でもやっちまったもんはしょうがねェ。アイツ可愛かったんだもん。
1年の時からずっと近くにいたみょうじに無視されるのはなかなかキツいものがある。1日終わった後の虚無感が半端ない。クラスの奴らも部活の奴らも、俺らが一切話さないもんだから気になってる様子だった。中には「夫婦喧嘩かー?」なんてからかってくる奴もいた。「どうやったら夫婦以前に恋人になれますか?あん?」とウザ絡みしたくなるのをグッと堪えた。

「恋愛シミュレーションのゲームとかねーの?」
「は?」
「みょうじの攻略の仕方がわからん」
「……俺そういうゲームやんないし」

正直みょうじとは誰よりも仲良かったし、嫌われてるはずはないという自信はあった。それなのに俺の行動でこんな状態になってしまうとは。
あんなことしなけりゃ良かったんだろうか。でも、だとしたら一生俺らの関係が進展することはない。恋愛シミュレーションゲームでもこんな攻略難しいキャラいるかよ。どうやったら落ちるんだよ。

「近づくと舌打ちされる。リエーフを盾にされる。つらい」
「……本気で嫌がってるようには見えないけど」
「え、マジ?」
「……さあ」

研磨の言葉に一筋の希望を見出した。観察眼が鋭くて人の感情に敏感な研磨の言葉は信憑性が違う。

「じゃあもっと強引に行っていいってこと?」
「別にそこまでは……」
「嫌よ嫌よもなんとやらってやつか……」
(……俺は悪くない)

嫌がってないんだったら遠慮する必要はない。この状態が続くくらいならさっさと告白して彼女になってもらえばいいんだ。俺としたことが何でもっと早く気付かなかったんだ。



( 2018.12-2019.1 )
( 2022.5 修正 )

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