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02

 
『もちろん!!来週の金曜行ける?』

侑くんからの前向きなお返事を確認した瞬間、ビーズクッションに体を埋めた。断られたらどうしようという緊張は解けたけどドキドキは治まらない。むしろ大きくなっている気がする。
今日、もう二度と会うことはないと思っていた宮侑くんに再会することができた。その再会の仕方というのが、彼氏のフリをしてナンパから助けてもらうという少女漫画でよくあるパターンのやつで、なんかもう王子様みたいだった。
正確にはナンパではなく、元カレの友達に下心丸見えで誘われてイライラしてたところだった。多分私のことをすぐヤれる女だと認識していたんだと思う。侑くんの前で余計なことを言われないか心配したけど、侑くんのかっこよさに気圧されたらしくすぐにどこかへ行ってくれた。
その流れで侑くんがご飯に誘ってくれて、一緒にお茶漬け定食を食べた。お酒はなくても侑くんとのお喋りはとても楽しかった。仕事の話になった時、侑くんがプロのバレー選手だということを知った。ムスビイという社名は聞いたことがあったけど、ブラックジャッカルというチーム名は聞いたことがなかった。バレーボールには詳しくなくて「すごい」としか言えなかったのが少し悔しい。次に会う時までにはもう少し勉強しておこうと思う。
ご飯を食べた後は駅まで送ってもらって、21時前に解散した。万が一にそういう感じになったらどうしよう、なんて淡い期待もあったけどとても健全なお食事で終わった。それでいい。侑くんにはだらしない女だと思われたくなかった。
少しでも良い印象を与えたくて、帰宅してすぐにお礼の連絡を入れた。そしてこの流れで次に会う約束もとりつけたい。そう思って、話の中に出てきた双子の兄弟のおにぎり屋さんに一緒に行ってもらえないかと送った。送ってしまった。流されるがままに恋愛をしてきた私がこんな行動力を発揮するなんて。自分でも驚いた。
こうやって好きな人に対してちゃんと段階を踏むのは学生ぶりだ。断られたらどうしようと緊張したり、デートすることになったらどうしようとわくわくしたり、こんなにも心が動くのも久しぶりだ。恋をするってこういうことだったなぁと思い出してきた。

「……」

具体的な日時を提案してくれたってことは嫌われてはいないはず。好きかどうかは置いといて、侑くんも私にまた会いたいと思ってくれてるんだろうか。そうだといいなぁ。
ビーズクッションに埋もれながら、「ぜひよろしくお願いします」と返事を打った。


***


そしてデート当日。昨日の夕方くらいに侑くんからおにぎり宮には行けなくなっと連絡があった。双子の兄弟がインフルエンザにかかってしまったらしい。楽しみにしていたけど侑くんと一緒なら場所は正直どこでもいい。代わりの店は特に予約せず、街をブラブラして決めることになった。
ちょうど映画館の前を通った時にスクリーン広告に気になっている映画の予告が流れて、「これ一作目すごく面白かった」と溢したら「俺も観た!」と侑くんが言ってくれた。そのまま映画の話で盛り上がり、今上映されている二作目を観るために映画館の中に入った。
20時上映にギリギリ間に合って、エンドロールを最後まで見届けてから外に出ると22時半。ポップコーンだけではお腹は満たされず、そこから近くのファミレスでささっとご飯を食べて帰るつもりだった。

「あ、終電……」
「……あ!」

しかしさっき観た映画があまりにも良すぎて、感想と考察が白熱し気付けば日付が変わっていた。食後に頼んだアイスコーヒーは氷が溶けきって色がだいぶ薄くなっている。
以前にも終電を逃して流れでホテルへ行くということがあったけど、その時は終電に間に合うタイミングに気づいていながらまあいいかと帰らなかった。でも今回は違う。侑くんとのお喋りが楽しくて本気で忘れていた。
わざと終電逃したと思われたら嫌だなと思ったけど、侑くんの反応を見る限りそんなことはなさそうだ。そしてその焦り様から、侑くんも話に夢中で終電に気づかなかったんだとわかった。

「タ、タクシーで帰り。出すから」

少しの間を挟んで侑くんはタクシーを提案してくれた。きっと侑くんの中でもいくつか選択肢があっての対応だったんだと思う。嬉しいけど、もしここで誘われたとしても私は喜んでついていった。

「も、もしよかったら……歩いて帰るから、家つくまで電話しててほしい……」

まだ侑くんと一緒にいたい。とはいえ私からホテルに誘うなんてことはできない。電話だったら嫌がられないかなと思ってお願いしてみた。ここから家までの30分間。もう少しだけ、侑くんの時間を貰ってもいいだろうか。

「そんなら一緒に歩くわ」
「でも侑くん、帰り困っちゃうよ」
「バレー選手の体力ナメんといて」
「夜遅いし」
「明日休みやから大丈夫。行こ」
「あ、うん」

お喋りできるだけで十分なのに、一緒に二駅分歩くと言ってくれた。流石に申し訳なくて遠慮していたら、痺れを切らしたのか侑くんは伝票を持って立ち上がってしまった。私も慌てて鞄を持って後を追う。さっき映画代を奢ってもらったから食事代は私が出すって言ったのに。これ以上奢られてたまるかと、会計中の侑くんにこっそり2千円を押し付けたら「賄賂か」と笑いながら突っ込まれた。

「終電逃して歩くのなんて久しぶりや」
「私も」

前に終電を逃して歩いて帰ったのは大学生の時だった。高校の同級生と久しぶりに会ってお酒を飲んだら楽しすぎて気づけば0時をまわっていた。田舎の二駅分は都会の倍くらいあって1時間くらい歩いたと思う。道中も会話は絶えず楽しかったけど、信号だけが点滅する薄暗い道や電灯が消えかかった自動販売機は少し異質な感じがして怖かったのを憶えている。

「石蹴りしない?」
「ははは、ええな」

くだらない会話をして歩く夜道。あの時とシチュエーションは似ているけど、侑くんの隣を歩く今は景色がキラキラと明るい感じがする。お酒も飲んでいないのに、私の熱を持った頬は冷たい夜風に負けていない。
ホテルに行ってセックスをするより、全然こっちの方が満たされる。映画の話以外にも侑くんの学生の頃の話や好きなものの話を聞いていたら30分はあっという間で、もうマンションに着いてしまった。

「ありがとう、侑くん」
「おん」
「また今度お礼するね」

一本映画を観てファミレスであれだけたくさん話したのに、まだ一緒にいたいと別れ難く思ってしまう私は欲深い。「お茶でも飲んでく?」という誘い文句が脳裏に浮かんだけどすぐに消した。侑くんの紳士的な対応に泥を塗ってしまうような気がして。それよりも「また今度」の約束が欲しかった。

「なら今度、試合観に来てくれん?」
「え、行きたい!」

侑くんは私の希望をすぐに具現化してくれた。バレーをしている侑くんを、私がまだ知らない侑くんの一面を見てみたい。侑くんのお誘いに私は間髪入れずに頷いた。


***(侑視点)


「別に来るのはええけど、俺に惚れてまっても知らんで」

好きな子を店に連れていっていいか治に聞いた時にこんなことを言われた。反射的に「そんなわけ……」と口から出たけど「ない」とは言い切れなかった。

「その子米好きなんやろ? 同じ顔やったらおにぎり握れる俺の方がかっこええやろ」

更に追い討ちをかけられて不本意ながら納得してしまった。実際に高校の時には俺にあしらわれて治に鞍替えした女子が何人かいたし、今までの彼女達は「バレー選手の宮侑」を元から知っていた。でもなまえちゃんは俺がバレーしてるとこを見たことがない。どうでもいい女はともかく、好きな子を兄弟に取られるなんて絶対イヤや。
前日に適当な理由をつけておにぎり宮には行けなくなったと伝えて、今日は街をブラブラして気になった店に入ることにした。ノープランなデートになってしまって幻滅されないか心配だったけど、なまえちゃんは「新規開拓したい」とノリノリだった。
あれだけネットでいろいろ検索したのに、最初に入ったのは映画館だったしその後はどこにでもあるファミレスで2時間くらいお喋りした。ネットで見たお手本デートコースとは程遠い結果になってしまった。それでもお互いに楽しければ別にええか、となまえちゃんとの時間を満喫していたら終電の時間が過ぎていた。話に夢中でマジで気づかなかった。ノープランなデートだったうえに終電までに帰してあげられないなんて、男としてどうなん。
嫌われたくない一心でタクシーを提案した。もちろんホテルに誘うという選択肢もチラついたけど、なまえちゃんに対しては紳士的な男でいたかった。少し考えたなまえちゃんがもじもじと「もしよければ……」と切り出した時、一瞬期待してしまった。しかしなまえちゃんの口から出たのは「家に着くまで電話していてほしい」という可愛すぎるお願いだった。ひとりで歩いて帰らせるわけにはいかないし、電話なんかじゃなくて直接話せばええ。遠慮するなまえちゃんを押し切って、歩いて家まで送ることにした。
少し前だったら終電逃した男女が行く場所なんてひとつしかないやろと思っていた。でも、こうやって石蹴りながら二駅分の距離を歩くのもなんかええなあとしみじみ思った。
マンションまで送り届けて別れ際に、次はバレーの試合を観に来てもらう約束をした。もうすぐシーズンに入るから今日みたいなデートはなかなかできなくなってしまう。会えなくなってフェードアウト、なんてことにはなりたくない。バレーやってるとこを見てもらって、あわよくばかっこいいって思ってもらいたい。

「……」

正直……ええ感じだとは思っている。嫌いな奴と終電忘れるくらい話し込むわけがない。でも今告白したとしても、「お友達で」と断られる可能性は全然ある。わからん……これは脈アリなんか。今までの女子からの好意がわかりやすすぎたせいか、マジでわからん。
深夜2時。ベッドで寝転んではいるものの全く眠れる気がしなくて、枕元に置いてあったスマホに手を伸ばした。そして開いてしまうのはやっぱり検索サイト。「脈アリサイン 女子」と入力する。いや、参考にするだけやし。ネットの情報が全て正しいわけじゃないってのは承知の上で、ちょっと見てみるだけやし。とりあえず一番上のリンクをタップした。
まずは『連絡の反応が早い』……これは確かに早い。基本的に10分以内には返事が貰える。そして『会話が広がる』……広がりまくって終電逃した。それから『常に笑顔を見せる』……俺の目に映るなまえちゃんはいつも笑顔でめっちゃかわええ。

「脈アリやん……?」

ほとんどの項目が当てはまってどんどん期待が膨らんでいく中、次の『ボディタッチをする』という項目で固まった。ボディタッチどころかキスしてる。めっちゃエロいキスしてる。ただ、あの時のキスは好きだからしたんじゃなくて、雰囲気に呑まれてしたに過ぎない。それに「へたくそ」というダメ出しをくらってるうえになまえちゃんは全く憶えていない。
キスで相性がわかるっていう人もいるらしい。俺はあの時のキス、めちゃくちゃ良かった。でもなまえちゃんはそうじゃないっぽい。好意的に思ってもらえていたとしても、いざ付き合ってキスして「やっぱ違う」ってなったらどうしよ。こんなになまえちゃんのことが好きな状態で、また「へたくそ」なんて言われたら立ち直れないかもしれない。そう思うと急に怖くなってきた。

「あー……」

好きな人との恋愛がこんなにムズいなんて知らんかった。



( 2023.12.30 )

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