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03

 
「あかーしくんおっすおっすー」
「どうも」

梟谷グループの合宿に私が参加するのもこれで2回目だ。合宿なんてめんどくさいって思ってたけど、研磨くんの寝起き姿とか芝ちゃんのおねむ姿とか見られるから本当に最高。引き受けて良かった。そんなことを昼間、梟谷の赤葦くんにこぼしたら真顔でドン引きされたことを私は一生忘れない。

「さっきそこでさ、お風呂上がりの木兎に会ったんだけど別人すぎてわかんなかった!」
「でしょうね」

赤葦くんは梟谷の2年生。わんぱくな木兎と対照的にものすごく落ち着いている。人生2回目なんじゃないかってくらいの落ち着きっぷりだ。

「みょうじさん、動かないでください」
「え?」
「肩にバッタついてます」
「え!? やだやだ取って!」

一方ひとつ年上である私は肩にバッタがついてると言われただけで取り乱してしまった。飛ぶ系の虫はほんと無理。
赤葦くんはテンパる私とは対照的に何食わぬ顔でバッタを掴み、窓からぽいと投げてくれた。安堵して感謝を伝えると同時に、この後輩は何があれば心を乱すんだろうかと思った。

「……フ」
「え、何で笑ったの?」
「いえ……虫が苦手なんて、可愛らしいなと思って」
「!」

初めて見た赤葦くんの笑顔に不覚にもときめいてしまった。何だろう……この子は将来、とんでもない年上キラーになりそうな気がする。
普段笑わない人の笑顔ってこんなにも破壊力があったのか。もう真顔に戻ってるけど、黒尾とは正反対の爽やかスマイルだった。それで「可愛らしい」とか言われたら「え、私のこと好きなの」って勘違いしちゃう女子はいっぱいいると思う。けしからん。

「おっ、赤葦とみょうじじゃん!」
「ちょっと木兎……おたくの後輩どうなってんの!」
「え? 赤葦はいい奴だぞ!」
「危うく悩殺されるところだったわ……何というテクニック……!」
「えっ、赤葦みょうじのこと好きなの!?」
「みょうじさん、ややこしくなるようなこと言わないでください」

直属の先輩に文句を言ってやったら変な誤解をされて赤葦くんに怒られてしまった。


***


「赤葦のこと好きなの?」
「は?」

翌朝、朝食の席で唐突に黒尾に聞かれた。それ「おはよう」より先に言うこと?

「何でそうなるの?」
「木兎が騒いでた」
「あー……昨日ちょっとときめいただけ」
「何で?」
「ん?」
「何でときめいたの」

いつもは木兎の話なんて軽く聞き流しているくせに真に受けるなんて珍しい。私がいつ誰にときめいたとか興味あるのかな。「干物のくせにときめく心なんてあるのか」みたいな皮肉くらい言われると思ったのに、やけに食い下がって聞いてきたのが気になった。

「いやね、久しぶりに『可愛い』なんて言われちゃってつい舞い上がってしまいましたよ」
「は? 可愛いなんて俺は毎日思ってるんですケド」
「……は?」
「何でもねーよバーカ」

ゴニョゴニョと動いた黒尾の口が何を言ったのか、全部は聞き取れなかった。「可愛い」「思ってる」という単語だけ断片的に聞こえて変に気になってしまう。何て言ったのかもう一度聞きたいのに、黒尾がなんとなくイライラしてるのを感じとって、いつもの調子で追求することができなかった。

そんなことが朝からあってモヤモヤしながら食器を片付けていたら監督に買い出しを頼まれた。渡されたメモにはよくわからないものがズラり。「荷物持ち一人持ってきな」って言われたから誰にしようか真剣に悩んでいる。
研磨くんや芝ちゃんと一緒に買い物できるなんて役得だけど、重たい荷物を持たせるのは気が引ける。リエーフくんや虎くんは多分おつかいをちゃんとこなせない。

「みょうじ買い出し行くだろ?俺も行く」
「えー……」
「え、そんな不服?」

悩んでいたら黒尾が自ら名乗りを上げた。いやまあ別に申し分ないんだけど、新鮮味が無いとは思った。
黒尾によると、メモに書いてある物は全部徒歩10分圏内の薬局で揃えることができるらしい。

「私が3日かかったステージ、研磨くん2時間でクリアしたんだって」
「ふーん」

黒尾と他愛もない話をしながら歩く。クラスでも部活でも一緒にいるのに、よくもまあ会話が尽きないなぁと自分でも不思議に思う。一番自然体でいられるってことなんだろうか。そのうち鼻ほじったりしちゃいそう。女子としてというか、人として気をつけないと。

「でさ、研磨くんに教えてもらったんだけど……」
「ん、ストップ」
「!」

ゲームと研磨くんの話題で勝手に盛り上がる私を、突然黒尾の腕が通せんぼしてきて足を止めた。その後すぐに私達の前を結構なスピードを出す自転車が通り過ぎてその理由を理解した。黒尾が止めてくれなかったら危うく事故に遭うところだった。

「……ありがと」
「おう」

護られたことに不覚にもきゅんとしてしまった。目の前に出された黒尾の腕の血管にグッときてしまったのも否めない。それはもう生き物として仕方のないことだ、と自分に言い聞かせていつものテンションを維持するように努めた。

「で?研磨に何教えてもらったの」
「あ、うん、あのね……」

いつも通り、と思えば思うほどに『いつも通り』がわからなくなってしまう。黒尾と話す時の声ってこんなに高かったっけ?何でさっきまでスラスラ出ていた言葉が詰まってしまうんだろう。
一度そっち方面に思考がいってしまうとなかなか抜けられない。さっきから車道側を歩いてくれていることとか、私の歩幅に合わせてくれてることとか、急に目についてしまうのが嫌だ。考えないようにしてたのに。こんなの、女の子扱いされてるみたいじゃん。



( 2018.12-2019.1 )
( 2022.5 修正 )

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