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after1

「北もみょうじのこと好きやったんかー!」
「うん」

俺とみょうじが付き合ったことは、翌日には部員のほとんどが知ることになった。部室という狭い空間で話しているから当たり前だし、別に隠すつもりもないから問題はない。
昨日俺が体育館の施錠をアランに任せたことは、「何事や」とみんなの関心を集めたらしい。全てを察して「任せえ!頑張れよ!」と見送ってくれたアランには昨日のうちに俺から報告した。

「いつから好きやったん?」
「いつやろ……去年の夏くらいかな」
「そんな前から!?」

入部したてのみょうじはリベロが何かもわからないしよく流れ玉くらってるし、コイツ大丈夫かと危なっかしくて目が離せなかった。そうやって視界に入れているうちにみょうじの良いところをたくさん知ることになって、去年のインターハイくらいには好きだと自覚していた。
引退したら告白しようと決めて、それまで意識的に毎日声をかけるようにした。みょうじも俺に懐いてくれていて、好かれている自負もあった。俺の好意が全く伝わっていなくて変に拗れた感じもだったけど、昨日無事にお互いの気持ちを確かめ合えた。

「お前らも世話焼いてくれたみたいでありがとな」
「「いえ!」」

後ろで着替えの手が止まっていた双子に礼を伝えると、ふたりして「何でわかったんや」と言いたげに視線を泳がせた。聞き耳立ててるのはバレバレや。
2年達がみょうじの世話を焼いてくれていたのは、なんとなく察していた。

秋頃、袖のボタンをみょうじに引きちぎられた時に自分が直すとやけに食い下がってきたことがあった。多分誰かに「女らしさをアピールせぇ」とかそんなことを言われたんだと思う。
別に裁縫ができようができまいが俺の気持ちは変わらないけど、あまりにも必死だったからお願いした。部室に入ってワイシャツを脱ぐと、みょうじは顔を真っ赤にしてジャージを貸してくれた。肌着くらいで何赤なっとんねんと思いつつも、そんなみょうじがめちゃくちゃ可愛いしジャージはいい匂いするし部室にふたりきりだしで、あの時はけっこうドキドキした。絆創膏巻かれながら目を瞑るみょうじがあまりにも無防備で、何かしてやろうかと思ったけど思いとどまった。

それから2週間後くらいに、もじもじと好きなお菓子を聞かれた。おそらく「胃袋を掴め」的なことを言われたんだろう。それを察しながら正直に「煎餅」と「干し柿」と答えるとわかりやすくがっかりされて少し面白かった。別に料理が上手でも下手でもどっちでもええのに。
家の干し柿が食べ頃になってきた11月初めのある日、みょうじが家に来ていた時はかなり驚いた。「可愛いお嬢さんと干し柿を食べるの」とテンション高めのばあちゃんに呼ばれて行くと縁側にみょうじが座っていた。みょうじは別に干し柿が好きそうな感じではなかった。聞いてみると、「北さんが好き言うてたから」と言われた。なんかもう可愛すぎて意味がわからなくて、「そうか」としか答えられなかった。
好きな人の好きなものがどんなもんか知りたいっていう気持ちは俺にもよくわかる。俺がみょうじの好きなグミを食べてみたいと思ったのもそういう理由だった。
みょうじとばあちゃんと3人で縁側に座って干し柿を食べる時間は幸せだった。みょうじが俺の家族と同じ空間にいるという事実がむず痒くて、嬉しかった。何年後かに、この光景が日常的に見られるようになったらええなと、まだ付き合ってもいないのに思ってしまった。
いろいろと察したらしいばあちゃんが「楽しみやねぇ」と呟いたけど、みょうじの前で反応するわけにもいかず、熱くなった顔はお茶の湯気で誤魔化した。

それから、いつも括っている髪をおろしてきたことがあった。寝坊してきたのかと思ったけどどうやら違うらしい。みょうじに微妙な反応をされて、もしかしておしゃれをしてたんじゃないかと遅れて気づいた。何かフォローをすべきか悩んで午前中を過ごし、購買に向かう途中の渡り廊下から、みょうじが知らない男子と窓越しに話してるのが見えた。みょうじが鼻にティッシュを突っ込んでいるのはさておき、男子の方からはただならぬ雰囲気を感じた。洞察力はある方だと自覚している。ふたりが"そういう話"をしているんだと、直感も告げてきた。
気づけば俺は保健室に向かっていた。行ってどうしようだとかは考えていなかった。みょうじが誰かと付き合うのを想像したら、購買なんて行っている場合じゃなかった。この時初めて、思考より先に体が動く人間の気持ちがわかった気がした。
会話が聞こえないのを確認して保健室に入るといつもと変わらないみょうじがいて安心した。「顔まわり見せた方がかわええ」と言って髪に触れたらみょうじの耳がブワッと赤くなった。その反応が、俺はみょうじにとって特別なんだと自信を持たせてくれた。
春高が終わったら……なんて悠長すぎたかもしれない。誰かに取られてしまう前に今この場で告白してしまおうか……そんなことを思ったけど踏みとどまった。衝動的に行動するのはらしくない。

そして昨日は明らかにみょうじの様子がおかしかった。声をかけたら泣きそうな顔をされて、「帰ります」と逃げられてしまった。部活の時間は終わっていたから何も悪いことではないけど、みんなの自主練に付き合うと言っていたのに。みょうじは一度宣言したことを簡単に投げ出すようなことはしない。明らかにおかしいみょうじの言動が気になりすぎて、俺はいつもやっている施錠をアランに任せてなりふり構わずにみょうじを追いかけた。
一緒に帰りながら話を聞いているうちに、悩んでいる原因が俺であることがわかった。みょうじは俺に嫌われる可能性があると考えていたらしい。毎日声をかけるという俺のアプローチは、みょうじにうまく伝わっていなかった。
嫌いな奴にわざわざ声かけないし、グミいつも食ってるとか知るわけない。そして女子に対して「かわええ」と言ったのはみょうじが初めてだ。そこまで言ってようやくみょうじは理解してくれたようだった。その後追い討ちをかけるように今までどれだけ俺がみょうじのことを見ていたか、事細かく説明した。
俺がはっきり「好きだ」と伝えた後、みょうじは泣きそうになりながらも一生懸命に俺のことが好きだと伝えてくれた。みょうじが絞り出した言葉ひとつひとつに相槌を打ちながら、みょうじをこの先ずっと護ってやれる人になりたいと思った。


***


そしてなまえと付き合うようになって2週間が経った。名前で呼び合うようになったし部活がある日は毎日手を繋いで帰っている。順調で幸せなことは間違いないけれど、ずっとこのままでいいとは思っていない。
そろそろキスをしたい。人と付き合うのは初めてだし普段女子ともあまり喋らないからよくわからないけど、こういうことは早すぎても遅すぎてもダメなんだと思う。
なまえの家は学校から徒歩15分くらいで着いてしまうから、話し足りない時は手前の小さな公園のベンチに座って喋ってから帰る。何回かチャンスはあった。でも全然そういう雰囲気にならなくてできなかった。俺の雰囲気づくりが下手なんだと反省していたけど、もしかして原因はなまえの方にあるんじゃないかと最近は思う。

「最近お母さんが唐揚げにハマってて、今日も唐揚げなんです」
「ええやん」
「白だしに漬けたやつがめっちゃ美味しくて!」
「ふーん」

なまえのお喋りが止まらない。興味ないとまでは言わないけど、今この状況で優先すべきはその話題なのかと思ってしまう。薄暗い公園に、俺となまえがふたりだけ。普通ちょっとくらい意識するものなんじゃないだろうか。

「なまえ」
「え……あ、はい!」

真剣に見つめて名前を呼ぶと、なまえは何を思ったのか俺の手を握ってにっこりと笑った。違う。可愛いけどそれじゃない。可愛いけど。

「はーー」
「!?」

どうやらなまえは全く意識していないようだ。俺はキスするための雰囲気とかタイミングとか、めちゃくちゃ考えたのに。少し恨めしく思う気持ちはあるものの、なまえの愛くるしさの方が圧倒的に優った。これが惚れた弱みというやつか、と深くため息をついてなまえを抱きしめる。さっきよりも近い距離から見つめると、なまえは身体も表情もめちゃくちゃ強張っていた。さっきまでほわほわしてたくせに。かわええなぁ。そういう俺も、今めちゃくちゃドキドキしてるけど。

「俺のしたいことわかるか」
「い、今わかりました……」

念のために確認してからキスをした。寒空の下にいたからなまえの唇は俺よりも冷たくて少し乾燥していた。それでも人生初めてのキスに、自分でも驚く程高揚した。
5秒くらい経って、唇を離すタイミングがわからなくてうっすら目を開けたら、なまえも同じように半目を開けていて笑ってしまった。

「なまえは俺とキスしたないんかと思った」
「したいに決まってます!! 毎日幸せすぎて忘れてただけで……!」
「……」

5秒で長すぎるかなと思ったけど、離したらすぐに物足りなくなった。更になまえが可愛いことを言うものだから2回目は勝手に体が動いた。自分はもっと理性が強い人間だと思っていたのに、案外そうでもないらしい。

「信介くんめっちゃ私のこと好きやん……」
「うん。好き言うたやん」
「うぐぅ」

今更なことを言われた。付き合う前のアプローチも全然気づいてもらえなかったし、どんだけ俺がなまえのことを好きか、いまいちちゃんと伝わっていない気がする。俺はなまえのように表情がわかりやすいわけではないから、意識的に言葉にした方がいいのかもしれない。

「めっちゃ好きやで」
「供給過多……!」
「需要ないんか」
「ありまくりです!!」

好きだと面と向かって伝えるのはやっぱり照れるし緊張する。でも、なまえが受け入れて喜んでくれることを知ったから、この言葉はこの先もずっと口に出していきたいと思った。



( 2023.12.17 )

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