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03

 
モヤモヤした気持ちのまま5日間を過ごし、やっと月曜日がやってきた。その間みょうじさんとは普通に会話している。ただ、みょうじさんが何か言いたげにしてるのは何回か気付かないフリをした。
みょうじさんは放課後になるとすぐに教室を出ていった。聖臣とは特に待ち合わせはしていなくて、ひとりで向かったようだ。そして俺はというと、コンビニに行こうとしたはずの足取りは自然と佐久早の家へ向かっていた。

「来たな」

いつもの癖でインターホンを押さずに中に入ると、口角を上げた聖臣が出迎えてくれた。その滅多に見せない笑顔、女の子に見せてあげればいいのに。みょうじさん以外の。

「聖臣誰〜?」
「……元也」
「元也!? 久しぶりじゃん!」

みょうじさんの靴の隣に自分の靴を揃えて上がったところでリビングから高めの声が聞こえた。聖臣の姉ちゃんだ。確か仕事の関係で神奈川で一人暮らししてるって聞いてたけど、帰ってきてるみたいだ。

「えッ古森くん!?」

聖臣の姉ちゃんに催促されてリビングに入ると、驚いたみょうじさんと目が合った。俺もその姿を見て驚いた。何故なら制服のまま来たはずのみょうじさんが、白くてヒラヒラしたワンピースを着ていたからだ。

「どう? 可愛いでしょ〜」
「ちょうかわいい……」
「!?」

何故か自慢げな聖臣の姉ちゃんの問いかけに、ほぼ無意識で答えていた。何でワンピースを着ているのかとか、平常心だったら聞けたのかもしれない。しかし初めて見る好きな子の私服姿っていうのは、簡単に思考力や語彙力を奪っていった。

「っ、個人の感想です!!」

遅れて状況を理解したところでもう取り返しはつかない。俺は久しぶりにテンパってしまい、自分でもよくわからない文句を残してリビングから逃げた。

「どういうことだよ!?」

2階にある聖臣の部屋に駆け込んで、遅れてやってきた聖臣に説明を求めた。

「みょうじさん、姉ちゃんが家庭教師してた時の生徒だったらしい」
「は……」
「服あげたいから呼べって言われた」

聖臣は俺の質問に端的にわかりやすく答えてくれて、テンパった今の頭でも理解することができた。みょうじさんがここにいる理由は聖臣との約束じゃなくて、聖臣の姉ちゃんとの約束だったんだ。

「……付き合ってねーの?」
「古森の好きな奴と付き合えるわけねぇだろ」

本気で疑ってたわけじゃないけど、改めて事実確認ができて心の底から安心した。


***


「お、おはよ」
「お、おー」

結局月曜日はあのままみょうじさんとは会わずに帰って、一晩経った今日顔を合わせてぎこちない挨拶を交わした。

「早いね」
「日直だからね」

朝の7時20分。まだ教室に人はいない。みょうじさんが開けた窓から入ってきた風が俺の頬にあたって熱を冷ましてくれた。

「佐久早の姉ちゃんと知り合いだったんだね」
「うん。中学の時の家庭教師で、井闥山に合格した時に弟も同じ学校だから仲良くしてあげてって言われてて、でもなかなか声かけられなくて」

最初に言っていた「伝えたいこと」ってそのことだったのか。あんな照れた感じで言われたら普通に勘違いすると思う。勝手に報われない恋だと決めつけて身を引こうとした俺は本当に馬鹿だ。

「だから……佐久早くんのことが好きとかじゃ、ないから」

そんなことを真っ赤な顔で伝えてきて、いったいみょうじさんは俺をどうしたいんだ。その言動は俺に期待を持たせるには十分すぎた。じゃあ誰が好きなのか、気になるところではあるものの今ここで聞くのはやめておいた。例え俺にとって最高の返事が返ってくるとしても、このタイミングでみょうじさんに言わせるのはなんか違う気がしたからだ。

「あのワンピース貰ったの?」
「あ、うん」
「また今度着てるとこ見たい」
「!」
「超可愛かったから」

何の気兼ねもなく好きな子と接する期間を楽しみたい……なんて言ったら聖臣なんかには「調子乗ってんじゃねぇ」とか言われそうだな。でも言葉ではっきり伝える前に、行動で感じてほしいと思った。

「き、機会があったら……」
「やった!」


***


……とは言ったものの、春高の地区予選が始まってワンピース姿のみょうじさんと会う機会はまだ訪れていない。ただ、放課後デートは3回した。おでんを食べたり買い物したり散策したり、バレー部のみんなとよくやっていることだけど、相手がみょうじさんっていうだけで全てが初めてのことのように新鮮に思えた。

「あれ?」
「……そこ代入間違えてない?」
「あ、ほんとだ。ありがとう」

今日の放課後は来週に迫ったテストのための勉強を一緒にしている。3階の空き教室で勉強すること2時間弱。他にもチラホラいた生徒は帰って今は俺とみょうじさんのふたりだけ。外もだいぶ暗くなってきたしそろそろ帰らなきゃだけど、真剣な表情で数学の問題に向き合うみょうじさんを見ているとなかなか切り出せなかった。ずっと見ていられる。髪を耳にかける所作も、シャープペンの持ち方も、丸みを帯びた文字も、全部が好きだと思った。

「みょうじさん」
「……あ、もうこんな時間だね」
「好き」
「……!?」

俺の告白に対してみょうじさんは遅れて反応した。さっきまで数字を追っていた視線が俺に向けられる。嬉しい。俺の言動でみょうじさんの表情がコロコロと変わるのもすごく嬉しい。

「と、突然だね」
「うん。今伝えたくなった」

今日告白しようと決めていたわけじゃない。正直いつでも良かった。みょうじさんへの気持ちはカンストして揺るがないし、みょうじさんはその想いを受け止めてくれるっていう自信もあった。それでも返事を待つ時間は異様に長く感じて、俺の心臓ばかりがうるさくはしゃいでいるような気がした。

「えっと……よろしくお願いします」
「マジ!? よかったー!」

みょうじさんの返事は思いの外あっさりしていた。というよりかは、語彙力を失ったっていう方がいいのかもしれない。どんな言葉であろうといい返事を貰えたのなら俺は万々歳だ。

「じゃあ帰るか。送ってくよ」
「あ、ちょっと待って。やっぱり……」
「エッ」

とりあえず今日はもう遅くなっちゃったし、帰って幸せを噛み締めようと立ち上がったらみょうじさんに引き止められた。この状況で「やっぱり」って言われると不安でたまらなくなるんですけど。「やっぱり今のなし」とかだったらどうしよう。

「あの、本当はもっと早く誤解を解いてれば良かったんだろうけど……なかなか言えなくてごめんね」
「あー、俺も決めつけちゃってたしな」
「佐久早くんのことが好きじゃないってわかったら、古森くんは私に優しくしてくれないんじゃないかって……接点が無くなっちゃうんじゃないかって思うと、言えなかった」
「……!」

一瞬不安になったけどどうやらそういうことじゃないらしい。確かにみょうじさんは、聖臣のことが好きだっていう俺の思い込みを最初こそ否定したけど、それ以上強く訂正することはなかった。その理由を聞かされて、せっかくかっこよくキメたつもりの顔面がどんどん緩んでいく。

「古森くんのことが好きです」

トドメにこの言葉である。彼氏になれた矢先にこんなだらしない顔見られたくなくて、みょうじさんの視線から逃げるように俯いて、ふにゃふにゃで真っ赤になった顔を片手で隠した。

「あーー……何だよその時間差攻撃……」
「ちゃんと言っておきたかったから」

前言撤回。みょうじさんへの気持ちがカンストすることなんてない。好きな気持ちは膨らんでいく一方だし、欲求も増えていく一方だ。

「……手繋いで帰りたい」
「うん。学校出てからでお願いします」

一分一秒でも早くみょうじさんに触れたくて、速足で廊下を歩いたら「速いよ」とみょうじさんに笑われてしまった。その顔が可愛すぎたから靴箱でフライングして手を繋ぐと、みょうじさんは「もう」と唇を尖らせながらもギュッと握り返してくれた。
俺が初めて「まあいいや」で済ませられなかった存在のなんと尊いことか。絶対放すもんかと、赤くなったみょうじさんを目に焼き付けながら勝手に意気込んだ。


( 2021.12-2022.11 )

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