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01

 
「なーみょうじバレー部のマネージャーやんね?」
「は?嫌だけど」

長かった夏休みが終わって9月。海やらキャンプやらで充実した休暇を過ごして日焼けしたクラスメイト達の中、夏休み前の肌色をキープしている男、黒尾が突然そんなことを言ってきた。同じくほとんど日焼けをしていない私ははっきりとお断りした。

「いやね、可愛い後輩が女子マネージャーを渇望してましてね」
「へー。それならピチピチの1年生に声をかけるべきじゃない?」

マネージャーがいないのはムサくて可哀想だけど、そこで私に声をかけるのは人選ミスというやつだ。黒尾とずっと同じクラスで過ごしてきた私は高校3年生。ついこの間茶道部を華々しく引退したばかりだ。
それに、さっきも黒尾と話してたけどバレー部の引退は春高が終わってから。全国に行けば年明け1月までとのことだ。1月の2週目の土日にはセンター試験が控えている。志望校C判定の私に、そんな時期まで部活動に勤しむ余裕なんてない。

「みょうじじゃなきゃダメなんだ」
「いい声で言っても騙されないから」
「みょうじなら変に気を遣わずにコキ使えるなと思った」
「最低クソヤローだね」

低音ボイスで甘く囁かれたところで私の意志が揺らぐことはない。黒尾もそこまで期待していなかったのか、すぐに本性を出してきた。

「合宿と試合ある時だけでいいからさ。どうよ?」
「土日ほぼ潰れるじゃん。嫌だよ」
「どうせ家でゴロゴロしてるだけだろ?青春しようぜJK」
「受験生の青春とは勉学です」
「勉強なら俺が教えるから」
「黒尾の教え方うざいからやだ」
「なかなか折れねーな」
「嫌だもん」

黒尾程じゃないけど私だって少しは口に自信がある。そう簡単に乗せられる程バカではない。
まあ確かに最近強豪校の仲間入りしたバレー部にマネージャーがいないってのは大変なんだろうけど……私は私でこれから受験戦争を戦わなければいけないのだ。人助けができるような身分じゃない。たとえ高級チョコレートを貢がれようとも、私は決して頷かない。

「研磨の腹チラ見放題」
「!」

しかし次に出てきた黒尾の言葉は聞き逃せなかった。

「くっ……研磨くんを引き合いに出すとは卑怯な……!」
「合宿来れば研磨の寝起きとか風呂上りとか見られるのにな〜」
「ッ……!!」

研磨くんというのは黒尾と幼馴染の1つ下の男の子だ。これが猫ちゃんみたいでものすごく可愛い。私が構い倒すとすごく嫌そうな顔するのがたまらなく可愛くてついついウザ絡みをしてしまう。そんな研磨くんの腹チラに、寝起きに、お風呂上りなんて……!

「が、合宿だけ……」
「ん?」
「合宿だけ、手伝ってあげてもいいヨ」

研磨くんといろいろなものを天秤にかけた結果、研磨くんの圧勝だった。

「お前のその研磨贔屓何なの」
「だって……かわいい……研磨くん……」
「妬けるわー」
「はいはい」

こうして私は今月末の合宿だけ男子バレー部のお手伝いをすることになった。結果的に黒尾の思惑通りになってしまったのは癪だけど、合宿だけだしかわいい研磨くんのためなら土日を捧げても構わないと思った。
後日、バレー部はかわいい後輩の宝庫であることが発覚した。


***(黒尾視点)


「黒尾部活行こー」
「おー」

帰りのHRが終わってすぐにみょうじが俺の机に寄ってくる。3年間同じクラスで過ごしてきてこんなの初めてだ。ダメ元でみょうじをマネージャーに誘ってよかった。好きな子と放課後も一緒にいられることに喜ばない男子高校生はいないだろう。
マネージャーを頼んだ時、みょうじは最初こそ渋っていたものの研磨の腹チラで釣ったらあっさり引き受けてくれた。そして合宿だけと自分で言ったくせに結局は春高まで付き合ってくれることになった。基本的に無気力で出不精なみょうじが何故こんなにやる気を見せてるのか……その理由はバレー部員にある。

「あ、研磨くんだ。やっほーやっほー」
「……」
「聞いてよ昨日超レアな装備見つけたんだよ」
「……何?」
「メタルのやつ!」
「ああ……それ守備力は高いけど壊れやすいよ」
「マジか!」

まずは研磨。幼馴染の研磨とは去年から面識がある。無駄にコミュ力の高いみょうじに対してもちろん研磨は人見知りを発揮した。どんなに塩対応をされても変わらないテンションで絡みに行けるのはもはや才能だと思う。みょうじがマネージャーをやるとわかった時の研磨の表情はなかなか面白かった。
めんどくさそうにしてはいても心の底から嫌だったら相手なんかしない。部活で関わることが多くなってから、今ではゲームの話ができる程に仲良くなっていた。

「ふああ……」
「おねむ研磨くん可愛い!」
「ちょ、近い……」

距離が近いのはNGらしい。そういうところもみょうじに言わせれば「猫ちゃんみたいで可愛い」だそうだ。解せぬ。

「あ!黒尾さん研磨さんみょうじさんちわ!」
「うーす」
「リエーフくんちわー」
「あれ、みょうじさん前髪の分け目変えました?」
「おっ、よくわかったね!アメちゃんをあげよう」
「あざっす!」

次にリエーフ。リエーフとはこの前の合宿が初対面だ。お互いコミュ力が高いから仲良くなるのに時間はかからなかった。
みょうじにとってリエーフは孫みたいなもんらしく、何かにつけて褒めてはお菓子を渡している。小腹が空いた時用と後輩を餌付けする用に、いつもポケットにアメやチョコレートを常備しているんだと自慢げに言っていた。俺貰ったことないんだけどって言ったら「黒尾を餌付けしても意味ない」と言われた。研磨には「いらない」と一蹴されていた。
ちなみに、みょうじの前髪については俺もわかってた。誰よりも先にわかってたから。俺が言ってもアメはくれなかったんだろうけど。

「みょうじさんちわ!」
「虎くんちわー」
「今日も麗しいっす!鞄持ちましょうか!?」
「あ、お構いなく」

そして山本。山本はマネージャーが欲しいと懇願してきた張本人だ。そのくせ女慣れしていないものだから、みょうじが来た時は緊張しまくって視線も合わせられない程だった。それが今ではこの懐き様だ。まるで舎弟のように見える。

「お前ら固まって歩くと目立つなー」
「やっくんかわいー」
「可愛いって言うな!」
「怒った顔もかわいー」
「……」

夜久に対しては常にこんな感じだ。本人曰く、「可愛い」じゃなくて「かわいー」って言うのがミソらしい。よくわからねェ。
最初こそ夜久もムキになって返していたけど最近ではもう諦めたのかスルーすることが多くなった。

「あ、芝ちゃんだ! おーい!」
「あ、みょうじ先輩こんにちは」
「ぎゃんかわ!」

そして一番のお気に入りが芝山だ。みょうじは芝山の姿を見つけるなり駆け寄って頭をわしゃわしゃと撫でた。嫌なことは嫌って言っていいんだぞ芝山。

「……」

まあ何が言いたいかっていうとね、俺が意を決して誘ったみょうじがマネージャーになってくれたのは嬉しいけど、あまりに早く部に馴染みすぎて黒尾さんちょっと寂しいわけですよ。
3年間同じクラスのみょうじと俺は気の置けない仲だ。みょうじもそう思ってくれてると思う。みょうじは男友達以上に話しやすいし一緒にいてすごく楽だ。
だけど自分の中に芽生えた恋心に気付いた時、この距離の近さはしがらみでしかなかった。自覚した時にはもう仲良くなりすぎていて、男女としての段階を踏もうにも分岐点は遥か前に通り過ぎていた。それなりにアピールはしてるつもりなのに俺の真意はみょうじに1ミリも伝わっていない。俺はとっくの昔にみょうじの恋愛対象から外されてしまっているらしい。

「……ドンマイ黒尾」
「……」

芝山に構い倒すみょうじを遠目に眺めていた俺を、唯一事情を知る夜久が同情の目で見上げてきた。
ほんとね、困っちゃいますよね。



( 2018.12-2019.1 )
( 2022.5 修正 )

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