×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
02

 
「え、なまえの好きな人って佐久早くんじゃないの?」
「違うよー」

私が佐久早くんのことが好きだと古森くんに勘違いされてるのはわかってたけど、まさか仲の良い友人にまでそう思われていたなんて。

「じゃあ誰?」
「古森くん……」
「えっ……あー……」

正直に打ち明けたら色々と察してくれたみたいだ。
元々古森くんのことが好きだったわけじゃない。佐久早くんのことが好きだと勘違いされてから古森くんと話す機会が増えて、私が佐久早くんと仲良くなれるように協力してくれる優しい古森くんに惹かれていった。

「何で違うってはっきり言わないの?」
「言ってたんだけど信じてもらえなくて……」

もちろんちゃんと否定はした。でも古森くんは「はいはい」と聞き流して一向に信じてくれないから、最近はもう特に弁解しなくなった。
それに、佐久早くんのことが好きな私じゃなければきっと古森くんは気にかけてくれなかった。そう思うと是が非でも誤解を解かなきゃとは思えなくて、勘違いされたままズルズルと古森くんへの想いを膨らませていくことになったのだ。

「どうすんの?」
「ねー……」

もちろんこのままじゃダメだとわかってる。先日ようやく佐久早くんに要件を伝えることができたから、これ以上佐久早くんとどうこうなりたいとは思っていない。
その現場をたまたま古森くんに見られていてまた勘違いをされてしまったのは不本意だけれど、「頑張ったな」と頭を撫でられて心臓が止まるかと思った。そしてこの瞬間、私ははっきりと古森くんに恋愛対象として見られたいと思った。いつまでも佐久早くんを口実にしてはいられない。私が好きなのは古森くんなんだから、別の接点を作らなくちゃ。


***


古森くんのことは今年同じクラスになって知った。佐久早くんの一件がある前も何回か話したことはあって、とても気さくな人で男女分け隔てなくフランクに話す姿が印象的だった。

「あの、古森くん」
「んー?」

放課後、古森くんが席を立った瞬間に呼び止めた。人当たりの良い優しい笑顔を向けられて心臓がぎゅっとなる。

「バレーのルール、教えてほしい」
「お! やーっとその気になった?」

好きな人の好きなもの……古森くんが打ち込んでいるバレーについてちゃんと知りたいと思う。私が心臓をバクバクさせて口にしたこの言葉も、古森くんにはまた勘違いされてそうだ。来週の土曜日はちゃんと「古森くんを応援しに来ました」って言えるだろうか。


***


初めて観に行ったバレーの試合は見応えがあって手に汗握って夢中で応援した。古森くんから簡単なルールを教えてもらったおかげで、スポーツとしてのバレー観戦を楽しむことができたと思う。
そしてリベロとして一人違う色のユニフォームを着た古森くんが想像以上にすごくて、いつもより輝いて見えた。好きな人が好きなものに打ち込む姿がこんなにもかっこいいなんて。私はいとも簡単に古森くんのことがますます好きになってしまった。
結果は井闥山の快勝。試合後、この興奮が冷めやらぬうちに話したいと思って古森くんを捜した。今のこのテンションなら「佐久早くんじゃなくて古森くんを応援しに来たよ」って伝えられる気がする。

「!」

エントランスで古森くんを見つけたけど、クラスの男の子達と楽しそうに話していたのに気付いて踏みとどまった。人に流されないように柱に寄りかかって待機して数分経つものの、お喋りはなかなか終わらない。

「古森に用?」
「!?」

私が古森くんを遠目に見ていると後ろから音もなく佐久早くんが近づいていて思わず背筋が伸びた。

「あ、いや、急ぎの用じゃないし……」
「古森のこと好きなの?」
「!!」

佐久早くんとはこの前初めて会話をしたばかりだというのに、こうも簡単に言い当てられてしまうなんて。そんなにわかりやすい態度だったのかなと、自分の言動を思い返してみて恥ずかしくなった。

「ご、ごめんなさい……」
「? 何で謝んの?」

佐久早くんの無機質な瞳に見下ろされると居心地が悪い。どう思われてるんだろう。たった一回観戦しただけで浮かれて滑稽な奴に見えてるのかもしれない。そんなネガティブ思考が止まらなくなってしまって、さっきまでの興奮はすっかり冷めきってしまった。


***(古森視点)


「おい古森聞いてる?」
「ん? 聞いてなかった」
「うっわ!」

同じクラスの佐藤が試合の感想を語ってくれてるけど途中から聖臣と話すみょうじさんが視界の端に映って、全然会話が耳に入らなくなってしまった。
応援に来てくれたんだ。今日の俺はなかなか調子が良かった。聖臣目当てのみょうじさんの目に、少しでも俺は良く映っただろうか。かっこいいとか思ってもらえただろうか。佐藤の話を聞き流しながら横目でチラチラと見るみょうじさんは浮かない顔をしている。もしかして聖臣に辛辣なことを言われたんだろうか。

「おーい古森?」
「……何でもない」

みょうじさんの悲しげな表情を見て胸がチクリとしたものの、本気で可哀想には思ってあげられなかった。聖臣なんてやめとけ……とは思ってない。聖臣を想い続けることは茨の道だからやめといた方がいいよ、その程度だ。
俺だったら超簡単なんだけどなあ。落ち込むみょうじさんにつけこんだら、俺は悪者になるんだろうか。そんなことを考えながら佐藤の話を切り上げ、もう一度目を向けたらそこにみょうじさんの姿は無かった。タイミングを逃してばかりの自分を自嘲的に笑った。


***
 

「月曜日は部活ないから」
「うん、わかった」

朝一で衝撃的な現場を目撃した。さっきまであくびが止まらなかった口を真一文字に結んで、俺は校舎の影に身を潜めた。
みょうじさんと聖臣が喋っている。この前も話してたし会話くらいするようにはなったんだろうけど、聞こえてきた内容がとても流せるもんじゃなかった。「月曜は部活ないから」って何だよ。その後に続く言葉なんて限られてる。いつの間にデートするような仲になったんだよ。先週の土曜日、あんな悲しそうな顔をさせてたくせに。

「みょうじさんと付き合ったの!?」
「はあ?」

ふたりが別れた後、確認せずにはいられなかった。もちろんみょうじさんではなく聖臣の方に。珍しく焦っている俺を聖臣の無機質な瞳が見下ろした。何を思われていてもいい、今はとにかく真実が知りたかった。

「来週の月曜日、みょうじさんうちに来る」
「は!? いきなり進展しすぎじゃね!?」

何がどうなればそんな展開になるのか、意味がわからなかった。デートするにしても普通最初は映画とか買い物とかだろ。初っ端家に来るなんて段階を飛ばしすぎだし、何より聖臣が人を家に呼ぶことが信じられなかった。

「気になんの?」
「!」

聖臣にニヤリと笑われてハッとした。こんなの、みょうじさんのことが好きだと言ってるようなもんだ。聖臣のことが好きな女の子を好きになるなんて、しかもそれが聖臣にバレてしまうなんてダサすぎる。

「お前は……昔から俺の世話やいてたけど……」
「世話やかれてる自覚あったのか」
「もっと自分のことに必死になっていいと思う」
「は……」

聖臣の口からボソボソと出てきた言葉は絶妙に嫌なところを突いてきた。確かに俺は昔から気苦労する争いは避けるクセがあると自分でも自覚している。喧嘩は極力したくないから一悶着が起こる前に笑って謝るし、リベロに転向したのも無意識に聖臣との衝突を避けようとしたからなのかもしれない。
みょうじさんに対する気持ちも、気を遣わせてしまうことになるくらいなら抑え込もうとした。でもいざ聖臣とみょうじさんの仲が進展するとそれはそれで気に入らないらしい。好きという気持ちは今までのように簡単にコントロールできないみたいだ。
自分がどうしたいかと聞かれれば、みょうじさんに聖臣じゃなくて俺を見てほしいと思う。そしてできることなら、俺の彼女になってほしい。


***


結局聖臣は月曜日のことを詳しくは教えてくれなかった。付き合ってはいない。けど家に来るのは事実。「気になるなら来ていいけど」という煽り文句まで貰って久しぶりにカチンときた。

「あ、古森くん聞いて!」

昇降口の近くで上機嫌なみょうじさんと遭遇した。正直今は会いたくなかった。機嫌が良い理由を説明してくれるんだろうか。聖臣と仲良くなれたと、みょうじさんの口から聞くのが嫌だと思った。

「今ね……」
「……」
「こ、古森くん?」

気付けばみょうじさんの髪に触れていた。こんなに簡単に触れるのに、みょうじさんの心に俺は届かない。どうやったら俺を見てくれるのかと考えるけど、出てくるのは卑怯な手段ばかりでそんな自分が嫌になるし、結果的にみょうじさんを悲しませてしまうとなると実行しようとは思えなかった。
俺を見上げるみょうじさんの頬は赤い。そんな可愛い顔を見せてくれるから、諦めきれないんじゃないか。

「ダメだよみょうじさん、そんな顔しちゃ」
「え……?」
「勘違いしちゃうだろ」
「!」

半ば八つ当たりのようなことを言ってしまった。みょうじさんの前では"優しくて気さくな友達"を演じてきたのに、きっと今ので台無しだ。目を丸くしたみょうじさんに今、何を思われているんだろうか。

「ごめん、忘れて」

もちろんそれを確認する勇気なんて無くて、コミュニケーション能力の欠片も無い別れ方をしてしまった。



[ 109/127 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]