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01

 
井闥山の男子バレー部は全国的にも有名な強豪で、地元東京で大会が開催されることが多いから毎回多くの生徒が応援に駆けつけてくれる。バレーに興味がない人でも自分の学校が日本一になる瞬間に立ち会いたいんだろう。俺も逆の立場だったらそう思う。
多くはないけど練習試合まで見学に来る人もちらほらいる。見学者の大体はOBか部員の彼女か恋する女子の三つに分類できる。今日は去年卒業した先輩が3人、女子が3人だ。

「今休憩っぽくない?声かけてきなよ!」
「い、いいよ無理だよ……」

そして更に体育館の入り口からこそこそと中を覗き見る女子2人を見つけた。そのひとりには見覚えがあった。同じクラスのみょうじさんだ。あまり目立つタイプではなくて授業態度は真面目。些細なことにもお礼を言える良い子で恋愛の噂は聞いたことがない。
ほんのりと頬を染めたみょうじさんが見つめる先を見て全てを悟った。聖臣は決して愛想の良い奴ではないけど昔から一定数の人気はあるのだ。聖臣への好意の視線に俺が気付くのはこれが初めてではない。
みょうじさん、聖臣みたいのがタイプだったんだ。正直ちょっといいなって思ってたから残念と言えば残念だ。

「もう行こ」
「えー、どうせだし見学してこうよ」
「いいよ、バレーわからないもん」

結局みょうじさんは少し覗いただけで帰ってしまった。


***


それから2ヵ月経ったけど、みょうじさんは相変わらず聖臣を影から見つめるだけだった。奥手なタイプなんだなぁ。まあ、アイツは人一倍話しかけにくいし差し入れも受け取らないからアプローチのしようがないよなと同情はする。

「オイ。英語の教科書」
「あーゴメン、忘れてた」

昨日借りてそのままだった英語の教科書を聖臣が取りに来た。机から教科書を出して渡すとペラペラとチェックし始めた。失礼な奴だな、落書きなんてしてねーし。汚されてないことを確認したら聖臣はさっさと自分の教室へ戻った。

「みょうじさん」
「え、なに?」

その背中を見つめる、斜め前の席のみょうじさんに声をかけた。

「佐久早のこと好きでしょ」
「え……ち、違うよ!」

図星をつかれたのか、みょうじさんの顔がみるみる赤くなっていく。必死に否定すればする程怪しいのに。

「顔赤いよ」
「これは……!本当に違うからね!?」
「はいはい」
「古森くんわかってない!」

顔を真っ赤にして「もう!」と怒るみょうじさんはすごく可愛かった。今まであまり話したことなかったけど、こんな表情も見せてくれるんだな。何でもっと早く気づけなかったんだろう。少しだけ後悔した。


***


「ほらみょうじさん、佐久早いるよ」
「む、ムリムリムリ……!」
「えーー」

俺が協力してあげるって言ってるのにみょうじさんは相変わらずこの通りだ。何度も「好きじゃない」と否定されて「伝えたいことがあるけど話しかけられないだけ」と弁明されたけど、それってつまり好きじゃんってことでもう聞き流すようにしている。伝えたことがあるんだったらまず認識してもらわなきゃ話になんないのに。

「練習見にくればいいじゃん。そしたら佐久早も顔覚えるかも」
「いいよ。バレーよく知らない私がいたら邪魔でしかないじゃん」
「ルール知らないなら教えようか?」
「ううん、いい」
「いいのかよ!」

好きな人がやってるスポーツに詳しくなりたいとかは思わないらしい。意外と冷めてて笑ってしまった。バレーのルールを教えようかと提案したのはみょうじさんと話す口実を作りたかったからだったのに。残念。
こうやってみょうじさんと話すようになって、自分がみょうじさんに惹かれていっているという事実はもう否定できなかった。聖臣のことを好きな子を好きになるなんて、我ながら不毛な恋をしてしまったものだと自嘲する。

「あ、次移動教室じゃん」
「あ! 行こう古森くん!」
「おー」

おそらくみょうじさんの恋は報われない。それを知りながら相談相手というポジションに居座ろうとする俺は卑怯な男だと罵られて然るべきだ。と言っても聖臣にフられたみょうじさんにつけ込むようなことをする気はない。良き相談相手として終わるんだったらそれはそれでいいと思う。自分でもどうしたいのかよくわからない。ただ、みょうじさんの悲しむ顔を見るのは嫌だと思った。


***


「!」

数日後、体育館近くの自販機の前で聖臣と話すみょうじさんを見かけた。思わず物陰に隠れて盗み見する。いったいいつの間に会話する仲になったんだ。いや、今が初めて対話した瞬間なのかな。みょうじさんの笑顔がぎこちない。聖臣の方はめんどくさそうではあるものの嫌そうな感じはしない。
俺が盗み見を始めて1分も経たないうちにふたりは別れてしまった。会話の内容は聞こえなかった。

「みょうじさん、やったじゃん」
「古森くん」

とりあえず俺はみょうじさんの方に駆け寄って声をかけた。聖臣とはいつでも話せるし。

「見てたんだったら来てくれれば良かったのに……緊張したー」
「はは、頑張ったなー」

ほっと胸をなでおろしたみょうじさんが可愛くて無意識に頭を撫でていた。馴れ馴れしすぎたかとハッとしたけど特にお咎めはないみたいだから謝りはしない。

「来週インターハイの試合あるんだよね?」
「うん」
「応援しに行ってもいいかな」
「もちろん!あ、でも佐久早差し入れは受け取らないよ」
「……うん」

みょうじさんはようやくバレーを観る気になったみたいだ。きっとバレーをする聖臣を見たらますます好きになっちゃうんだろうな。一見インドアな聖臣がスポーツで活躍するというギャップにやられた女子を、俺は今まで何人も見てきた。聖臣に「かっこよかった」と頬を染めて伝えるみょうじさんを想像して、明確に嫌だと思った。



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