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04

 
あれから赤葦くんとは毎日ではないにしても連絡を取り合うようになって、次の日曜日にふたりで映画に行くことになった。もう、これはそういうことでいいんだろうか。早く赤葦くんに会いたい。楽しみで仕方がない。

「赤葦とうまくいってるみたいで先輩は嬉しいよ」
「!?」

何でもないやりとりをしてるトーク画面を見返してニヤニヤしているところに黒尾さんに声をかけられた。何も背後から音もなく近づかなくてもいいのに。

「赤葦とデートするんでしょ?」
「な、何で知ってるんですか!?」
「そんな顔してたから」
「!?」

見てわかる程私は浮かれた顔をしてしまっていたのかと思うと恥ずかしすぎる。合宿でみんなが練習を頑張ってる時にマネージャーが選手に対して色目使うなんて、褒められたことじゃない。

「アレだよね、名字ちゃんが興味本位でつついたら赤葦もその気になっちゃったって感じだよね」
「つついたって……」

言い方が引っかかるけど、いつもポーカーフェイスの赤葦くんの色んな表情が見たいって思って最初に近づいたのは私の方だ。その時は好きとかじゃなくて本当に気になっただけだったのに。実際に赤葦くんの照れた顔や笑顔を見ていいなって思うようになったのは事実だった。

「そしてまんまと赤葦にコロコロされてるわけだ」
「……」

図星で否定できなかった。
私は赤葦くんと違ってポーカーフェイスは得意じゃないから、多分本人にも私の好意は伝わっていると思う。花火大会の時だって、わざと私が恥ずかしがるようなことをして反応を面白がってるように見えた。

「からかわれてるだけですかね……?」
「名字ちゃんの反応を楽しんでる節はあるよねぇ」

勝手に一人で浮かれてしまっているけど、赤葦くんにその気がなかったらどうしよう。いやでも赤葦くんは人の気持ちを弄んで楽しむような人ではない。知り合って間もなくてもそれは断言できる。

「そういえばさ、花火大会の時赤葦何も食べなかったらしいじゃん?」
「え……はい」
「緊張してたかららしいよ」
「……えっ」

何で黒尾さんがそんなこと知ってるのかとか、そんな疑問はすぐにどうでもよくなった。お祭りの時、赤葦くんはお腹空いてないからと何も食べなかった。それが緊張していたからだったなんて、全然わからなかった。恋をして食欲が減ってしまうっていう経験は私にもあるからわかる。私の隣で赤葦くんがそんな気持ちでいてくれたとしたら、すごく嬉しい。

「いやー青春真っ盛りで羨ましい限りですよ」
「……ありがとうございます」

***(赤葦視点)
 
今日は告白するつもりで名字さんをデートに誘った。俺自身そんなに恋愛経験が豊富なわけではないけれど、きっと名字さんも俺のことを好意的に思ってくれてるっていう自信はあった。

「赤葦くん!」
「!」
「早いね」
「うん、早く目が覚めたから」
「そ、そっか!」

ほら、顔が赤くなった。
名字さんは俺の色んな表情を見たいって言ってくれたけど、それは俺も同じだ。こうやって照れた顔や笑った顔を見せてもらえるのが嬉しい。もっともっといろんな表情を見せて欲しいと思う。
Tシャツ以外の私服を見るのは初めてだ。スカート、可愛いな。木兎さんや黒尾さんだったら「その服可愛い」とかサラっと言ってるんだろうか。言おうかどうか迷ったけど考えてる時点でもう手遅れだった。

「何か見たいのある?」
「うーん……最近このCMよくやってるよね」
「そうだね。すごい感動して号泣したって木葉さんが言ってた」
「感動……」

チラっと横目で見上げられた。なんとなく名字さんが考えてることがわかる。大方感動する俺を見てみたいとか考えてるんだろうな。本当わかりやすくて可愛いと思う。感動系だろうがホラー系だろうが、名字さんが隣にいるのなら何でもいい。

「これにしようか」
「う、うん!」

***

「ずず……」
「……」

木葉さんの言う通り、話題の映画はとても感動的な内容だった。クライマックスあたりから隣に座る名字さんからは鼻をすする音が聞こえていて、映画が終わった後はもう涙腺崩壊って感じでハンカチで顔を押さえていた。

「大丈夫?」
「ちょ、ちょっと待って……」

名字さんは泣いている顔を俺に見られたくないらしく、覗き込む俺の視線から身を捩って逃げてしまった。嫌がられると逆に見てみたくなる。好きな子に意地悪をしたくなる男心ってやつだと思う。

「ねえ、見せてよ」
「えっ!?」

ハンカチを持った手を強引に引き寄せると、目元を真っ赤にした名字さんと目が合った。この時初めて、自分は好きな人の泣き顔に興奮するタイプの人間なんだと気づいた。女子の泣き顔を見て、ほんの数秒でエロい妄想まで考えたのも初めてだった。

「……ごめん、行こうか」
「う、うん」

しかしこんな公共の場で発情してはいけない。見せてと言ったくせに、俺はそれ以上名字さんの顔を見れなくなってしまった。

***(夢主視点)
 
赤葦くんの感動した顔を見たくて話題の映画を選んだけれど、結局私の方が涙腺崩壊してしまった。涙でマスカラが落ちてないか気になって顔を隠していたら赤葦くんが無理矢理見てきたものだから気が気じゃなかった。多分酷い顔を見られただろうに、ちょっと強引で意地悪な顔をした赤葦くんにきゅんとしてしまった私はもう末期だ。

「こんなところに公園あったんだ」
「……ちょっと寄ってこうか」
「うん」

映画の後軽食をとったらだいぶ日も暮れてきて、赤葦くんは私を家まで送ると申し出てくれた。遠慮してみたものの、もう少し赤葦くんと一緒にいたいっていうのが私の本心だ。何気ない会話の流れで公園に寄ることになって、喜ぶ内心を赤葦くんに悟られないように必死に振る舞った。

「なんか懐かしいね」
「そうだね」

小さい頃に遊んだ遊具を前にして童心を思い出して懐かしい気持ちになった。夕方以降は小さい子の姿がないから遊具は貸切だ。私はパンプスを脱いで7年ぶりくらいにジャングルジムに足をかけた。

「あはは、小さい!」
「ちょ、大丈夫?」
「大丈夫、私ジャングルジム得意だったんだよ!」
「何だそれ」

赤葦くんとはだいぶ仲良くなれたと思う。最初に比べて喋り方もフランクになった気がするし、たくさん笑顔を見せてくれてると思う。嬉しい。
赤葦くんの色んな表情が見たいという当初の目標が叶った今、欲深い私はそれ以上のことを望んでしまっている。赤葦くんの素敵な表情を見られる女子が、私だけだったらいいのに……なんておこがましい。

「名字さんって、普通そうに見えてけっこう大胆なとこあるよね」
「えっ」
「普通の人は『笑顔が見たい』だなんてストレートに言ってこないよ」
「あ、あれは口が滑ったというか……」

今思い返してみてもかなり恥ずかしいことを言ってしまったと思う。確かにあの時は下心なんてなくてただ純粋に笑顔が見たいと思っていたけど、今は違う。

「名字さんにはけっこう色んな表情を見せてると思うんだけど……」
「そ、そうだね」
「もう満足した?」
「えっ……」

まるで私の考えを見透かすようなことを言われて心拍数が一気に上がった。満足するどころか、私の赤葦くんへの欲求は絶えない。そんなこと言ったら気持ち悪いと思われてしまう。怖気付いた私は言葉が出てこなかった。

「俺も名字さんの色んな表情見れて嬉しいけど……満足してないよ」
「!」

赤葦くんが色んな表情を見せてくれるように、私も赤葦くんに色んな表情を見られている。満足してないのなら、他にどんな表情を見せたら赤葦くんは喜んでくれるんだろう。

「できれば……今から俺が言うことに笑顔で頷いて欲しいんだけど」
「……うん」

私に出来ることなら、赤葦くんの望むことは全力で叶えてあげたい。

「俺と付き合ってほしい」
「……!?」

どんな言葉が来ても頷こうと準備していたのに、いざ私の望み通りの言葉が赤葦くんの口から出てくると固まってしまった。

「名字さんのことが好き」
「っ、うん……うん!」

笑顔で頷いて欲しいと言われたけど、必死すぎて笑えていたかどうかはわからない。私はとにかく肯定の意志を伝えたくて大きく首を縦に振った。

「赤葦くん、好き」
「うん、ありがとう」

幸せそうに笑った赤葦くんのこの顔を、私は一生忘れないように目に焼き付けた。



( 2019.4-6 )
( 2022.7 修正 )

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