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03

 
赤葦くんの意味深な発言を知ってしまってから、木兎さんから貰った赤葦くんの写真を見返しながら赤葦くんのことばかりを考えてしまうようになった。ちょっと仲良くなれて、思わせぶりなことを言われたぐらいでこんなにも意識してしまうなんて私はちょろい女なのかもしれない。
夏休みの終盤の合宿は森然高校で行われる。ここは虫が多いんだと雪絵さん達が言っていた。

「ヘイヘイヘーイ! 久しぶりだなー!」
「1ヵ月も経ってませんよ」

私達が到着した頃、梟谷の人達も来たばかりのようで校舎前で荷物の整理をしていた。いち早くこちらに気づいて駆け寄る木兎さんの後ろに赤葦くんの姿が見える。2週間ぶりの生の赤葦くんだ。私は憧れのアイドルに会うかのように緊張してしまって、まともに顔が見られなかった。

「……」
「!?」

恥ずかしくて近づけずにいた私と目が合うと、赤葦くんはにっこりと優しく笑うものだから私の心臓は跳ね上がった。何でこのタイミングで笑ってくれるの、ずるい。

***

その後、赤葦くんとは挨拶を交わした程度で特に会話はしていないものの、どうしても目で追ってしまっていた。
この前は単なる好奇心だった。でも今は違う。これは興味ではなくて好意だ。本当に単純な自分が嫌になる。頭ではわかっていても赤葦くんを視界に入れると私の心臓はドキドキした。こんな調子で赤葦くんの連絡先を聞くことができるんだろうか。自分で聞くと黒尾さんに言ってしまった手前、今更教えてくださいなんて言えない。
そうこうしているうちにあっという間に晩ご飯の時間だ。準備を終えて私はゴミ捨てに向かうことにした。場所は前もって聞いてあるから今度は大丈夫。

「名字さん」
「!」
「持つよ」
「あ、ありがとう」

3つのゴミ袋を持って歩いていると、通りかかった体育館から赤葦くんが出てきて私が持っていたゴミ袋を2つ持ってくれた。この前と同じだ。
赤葦くんの奥、体育館の入り口から黒尾さんと木兎さんがニヤニヤとこちらを見ている。なんか恥ずかしい。赤葦くんはそんな2人の視線にわざと気づかないフリをしてるのか、何食わぬ顔で歩き出したから私も少し後ろをついていく。

「あの……黒尾さんが、最近私の写真を撮ってくるんだけど……」
「うん、俺が頼んだからね」
「!」

カマをかけるつもりで言ったのに、赤葦くんはあっさりと事実を認めた。疑ってたわけじゃないけど黒尾さんにからかわれたわけではないことがわかった。

「何で……」
「ん? 仕返し」
「!」

ニヤリと笑って言った赤葦くんは心なしか楽しそうだ。クールに見えて、黒尾さんみたいに人をからかうのが好きなんだろうか。
相変わらず赤葦くんの隣はドキドキするけど少しずつ慣れてきた。この流れでさらっと連絡先を聞いてしまいたい。

「連絡先教えて」
「わ、私も今言おうと思ってた」
「うん、言いたそうな顔してたから」
「え!?」
「フフ、嘘だよ。俺が知りたいだけ」
「!?」

私は赤葦くんの言葉全てに過剰に反応して振り回されていた。いったいどこまで本気なんだろう。それに、あんなに見たいと思っていた笑顔をこんなにたくさん見せてくれるなんて、心の準備ができてないから心臓に悪い。赤葦くんは黒尾さんとはまた違う意味でタチが悪いと思った。

***
 
「腹減ったー!」
「飯食いに行こうぜ〜」

合宿が終わり、電車で帰る私達はみんなでご飯を食べにいこうという話になった。私はどうしようかと迷っていたけれど、木兎さんに誘われた赤葦くんが頷いたのを見て行くことにした。ゲンキンな奴だって思われてもいい。もう少し、赤葦くんと一緒にいたいと思った。

話し合いの結果、ラーメンを食べることになった。
音駒は黒尾さんと夜久さんとリエーフくんと私、梟谷は木兎さんと木葉さんと赤葦くんと雪絵さん、計8人でラーメン屋さんに入った。入ってすぐに券売機があって、他の人がどんどん食券を買っていく中、私はなかなか何を食べるか決められないでいた。

「名字さん悩んでるの?」
「うん……チャーハンも食べたいんだけど、半チャーハンセット食べきれるかなって思って……」
「食べきれなさそうだったら俺食うよ」
「本当? じゃあセットにしちゃおうかな」

優柔不断な私の背中を押してくれたのは赤葦くんだった。こういうところも優しくて、いいなって思う。先に食券を買ったみんなはもう席に座っていて、私と赤葦くんは空けられていた席に向かい合って座ることになった。赤葦くんの前でラーメン食べるの、緊張しちゃうな。

***(赤葦視点)

『ラーメン食べる女子っていいよな』
『わかる!!』

合宿帰りに音駒と梟谷の数人でラーメン屋に行くことになり、いつぞやの黒尾さんと木兎さんの会話を思い出した。

『ヘアゴム置いてあるラーメン屋ってマジ天才だと思う』
『それなー! 食う時だけ髪結ぶのいいよな!』
『そう! これだからロングの女子は可愛いんだよ!』
『は? ショートヘアの女子がラーメン食べる時に髪の毛耳にかけるのとか超可愛いじゃん!』
『俺、ミディアムくらいの女子が手で押さえて食べるのが可愛いと思います!』

どうやらラーメンを食べる女子の仕草のことで盛り上がっているらしく、途中から夜久さんと灰羽も入ってきた。それぞれの髪の長さでそれぞれの魅力があるみたいだけど、俺にはよくわからなかった。
名字さんはどうやって食べるんだろうか。髪の長さはミディアムで結ぶことも可能だ。

「わ、美味しそう!」
「ねー!」

ラーメンが到着すると名字さんは隣の白福さんと一緒に喜んだ。可愛い。白福さんは早速豪快に麺をすすり始め、名字さんはというとサイドの髪を耳にかけてふーふーと麺を冷ますところから始まった。髪を耳にかける仕草よりも、尖った唇に目がいってしまう。

「……!」

不躾にラーメンを食べる名字さんを見ていたら、耳にかけられた髪の毛がひと束ハラリと落ちて、ラーメンをすする口の中に吸い込まれてしまった。それを慌てて直した名字さんは恥ずかしそうに正面に座る俺を見上げて、目が合うと赤面した。
それを見てすごくいいと思った。ラーメン食べるの下手な女の子、可愛いな。

***(夢主視点)
 
夏休みがもうすぐ終わるという頃、部活帰りに地元の花火大会にみんなで行こうという話になった。山本くんが「夏休みもっときゃっきゃうふふなことしたかった」と嘆いたことがきっかけだ。いざ女子を目の前にすると固まっちゃうくせに。
部活が終わった後一度解散して18時に現地集合になっている。シャワーを浴びて何着て行こうとクローゼットを開けたタイミングで黒尾さんから連絡がきた。

"めいっぱいお洒落してきてね"

語尾にハートの絵文字までつけてくるとは絶対何かある。その何かを、私は現地で理解することになる。

「あー! 偶然ダナーーー!!」
「!」

現地にて梟谷の人達と遭遇した。うちと同じように部活帰りにみんなで来たらしい。梟谷からはちょっと距離があるからそのまま来たのか、みんなジャージ姿だ。もちろん赤葦くんの姿もある。

「ここで会ったのも何かの縁、みんなでお祭り楽しみましょうよ」
「そうだなー! これはもう運命かもしれないなー!」

多分これは黒尾さんと木兎さんが仕組んだことに違いない。こっち見てニヤニヤしてるし、木兎さん演技下手だし。まったく、お節介な先輩達だ。もちろんこのチャンスはありがたく堪能させてもらうけど。こんなことだったら黒尾さんの言葉を間に受けて買ったばかりの服で来ればよかった。

「おー木兎と木葉じゃん!」
「おー!」
「お前らも来てたのかー!」
「かき氷食いたい!」
「俺も!」
「あれ、研磨どこ行ったー」

みんなで歩き始めたはいいけど、木兎さんと木葉さんは友達に遭遇して話し込んでしまって、リエーフくんと犬岡くんはかき氷屋さんに走っていって、黒尾さんは行方不明の研磨くんを捜しにフラフラと行ってしまった。みんな自由すぎる。

「名字さん、何か食べたいのある?」
「あ……綿菓子、食べたいな」
「あっちにあったよね。行こうか」
「う、うん」

ぼんやり歩いていた私に声をかけてくれたのはやっぱり赤葦くんだった。綿菓子屋さんは通ってきた道中にいくつかあった。今ここで引き返したら赤葦くんとふたりで別行動をとることになる。それを理解した上で私は頷いた。

「赤葦くんは何か食べたいのある?」
「……あんま腹減ってないかも」
「そっか」

部活終わりなのにお腹空いてないのか。少食なのかなと一瞬思ったけど、合宿では何でももりもり食べていた気がする。それに木兎さん情報によれば部活前にでっかいおにぎりを食べてるはずなのに。もしかしたらもう何か食べてきたのかもしれない。
私だけ綿菓子を食べるのはなんだか気が引ける。かと言って綿菓子をシェアはできないし。私は赤葦くんの視線を感じながら綿菓子にかじりついた。

「……ふふ」
「え?」
「また髪の毛食べちゃってるよ」
「!?」

綿菓子を食べる瞬間に風が吹いて髪の毛を巻き込んでしまったらしい。ラーメンの時といい、赤葦くんの前でまた同じ失態を晒してしまってただでさえ恥ずかしいのに、巻き込まれた私の髪を赤葦くんが優しく指ですくってくれたものだから余計に恥ずかしい。

ドーン

「!」
「……ちょうどいいし、ここで見てこうか」
「……うん」

内蔵に響く大きな音が聞こえて夜空を見上げてみればキラキラと花火が散っていた。ちょうど私たちがいたところから綺麗に見える。ここで見るってことは、みんなとは合流しないで赤葦くんとふたりで過ごすということ……それを理解した上で私は頷いた。



( 2019.4-6 )
( 2022.7 修正 )

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