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01

 
高校2年生になるタイミングでお父さんの転勤が決まり、家族で東京に引っ越すことになった。私が編入したのは音駒高校。初日はすごく緊張したけどクラスのみんなは温かく私を迎え入れてくれて安心した。
こっちに来て2週間。都会ならではの人の多さに戸惑うことはあるけれど、少しずつ馴染めてきていると思う。

「来週までに部活決めるようにな」
「はい」

先生から渡された入部届の紙を片手に職員室を後にする。
部活、どうしようかな。一応前の学校ではバレーをやっていたけど、そんなに上手くないし途中から入るのは少し気が引ける。強制ではないみたいだから部活には入らず勉強を頑張るっていうのもありだ。

「おっと」
「あっ、すみません」

ぼんやりと階段を下りていたら人とぶつかってしまった。倒れずに済んだのは相手の人がさり気なく背中を支えてくれたからだ。私がバランスを取り戻したらすぐに離されて、それだけの所作でスマートな人なんだろうなと第一印象が決まった。

「いーえ。……1年生?」
「いえ、2年です。最近編入してきました」
「へー……」

1年生と間違われたのは、ぶつかった拍子に落としてしまった入部届の紙を見たからだろう。拾ってもらったそれを受け取る時に、しっかり相手の顔を確認する。目が合ってニコリと笑われて、どうしていいかわからず意味のよくわからない会釈をした。先輩かな。だとしてもひとつしか違わないのにすごく大人っぽい人だと思った。

「じゃ、気をつけてね」
「ありがとうございました」

***

週が明けて月曜日。まだ入部届は提出できていない。あれこれ迷っていたら期限まであと一週間しかなくなってしまった。

「おっ」
「あ……」

月曜日の気怠さも相まって重い足取りで教室に向かっていたら、廊下に見覚えのある人が立っていた。この前ぶつかってしまった人だ。一緒に話してるのは同じクラスの孤爪くんだ。目が合ってしまってなんとなく立ち止まってしまった。

「いやー、ちょうど名字さんの話しててさ」
「え?」

名乗ってないはずなのに名字を呼ばれて驚いた。多分孤爪くんから聞いたと思われる。孤爪くんとはあまり喋ったことがないのに、何故私の話題になるのか意味がわからなかった。

「名字さん部活もう決めちゃった?」
「まだですけど……」
「良かったらバレー部のマネージャーやってみない?」
「え……」

まさかの部活の勧誘だった。この口ぶりからしてこの人はバレー部なんだろう。確かに背が高い。

「バレーわかる? あ、わかんなくても大丈夫」
「前の高校ではバレー部でした」
「お、ちょうどいいじゃん!」

この微妙なタイミングでバレー部に入ることに迷っていたわけだけど、この人の言う通り選手じゃなくてマネージャーっていう選択肢もアリかもしれない。

「人足りなくて困ってんだよね。ぜひ前向きに検討してくれると嬉しい」
「……嫌なら無理しなくていいから」
「いや研磨、お前も勧誘しなさいよ」

孤爪くんもバレー部なんだろうか。物静かであまり運動をするイメージがなかったから意外だ。孤爪くんは多分コミュニケーションがあまり得意ではなくて、こうやって話している時も私となかなか目を合わせてくれない。

「何か聞きたいことあったら俺か研磨に聞いて。あ、俺3年の黒尾です」
「はい、わかりました」

勧誘と言ってもしつこく誘われることなく、爽やかな笑顔を残して黒尾さんは去っていった。取り残された孤爪くんは、私と目が合う前に素早く自分の席へ行ってしまった。
マネージャーか……どうしよう。

***
 
色々考えた結果、私は男子バレー部のマネージャーをやることにした。せっかく誘ってもらえたし、バレーはやるのも観るのも好きだし。
音駒高校の男子バレー部は最近強くなってきたらしく、この前の春高では惜しくも全国大会は逃したものの都内ベスト4の成績を収めたらしい。
私をマネージャーに誘ってくれた黒尾さんは部長として色々気にかけてくれるし、夜久さんもよく話かけてくれるし、海さんは菩薩並に優しい。孤爪くんはようやく私を目を合わせてくれるようになったけど山本くんは未だに目を合わせてくれない。福永くんは無言で見つめてくる時があって少し困る。それから、リエーフくんは人懐こくて可愛いし、犬岡くんは元気いっぱいで可愛いし、芝山くんはとても優しくて可愛い。マネージャーを始めてあっという間に3ヵ月が経って、私もだいぶ部に馴染めてきたと思う。

夏の時期には毎年昔から交流のある学校を集めて合宿を行うらしい。梟谷学園高校と森然高校と生川高校と音駒高校の4校が梟谷グループで、今年は宮城から遥々烏野高校という学校も参加して、5校が東京に集まった。
選手のみんなはなかなかハードな練習メニューをこなしている。マネージャーの私も人数が多い分仕事量はいつもと比べ物にならない。けれど他校のマネさんと和気あいあいと作業できるからすごく楽しい。

「本当に一人で大丈夫?」
「はい、任せてください!」

晩御飯の準備が終わって、大量に出たゴミを捨てに行けば今日の仕事はひと段落だ。ゴミ袋3つは確かにちょっと重いけど美人の潔子さんにゴミを持たせるわけにはいかない。潔子さんには配膳をお願いして、私は一人でゴミを出しに行った。
いくつかある体育館の電気はどこもついている。練習時間は終わったにも関わらず、ほとんどの部員が自主練に励んでいる。日中あれだけ動いたのによく動けるなあと思う。男の子ってすごい。

「……あれ?」

ゴミ捨て場が見当たらない。確か第3体育館の裏あたりって言ってたと思うんだけど……それらしいものはない。合宿の開催地である梟谷学園高校は学校自体がすごく大きくて体育館もいっぱいあるからよくわからない。いつまでもウロウロしてるわけにはいかないし、自主練で誰かしらいるのなら梟谷の人に場所を教えてもらおう。

「あ、名前ちゃんだ! どしたの?」

第3体育館の中を覗き込んだ私にいち早く気づいてくれたのは木兎さんだった。早速梟谷の人を見つけられた。

「ゴミ捨て場の場所を教えてもらえますか?」
「ゴミ捨て場な! ここ真っすぐ行って、右行って、それから左行けばあるよ!」
「え、あ、はい……?」

もしかしたら聞く相手を間違えてしまったかもしれない。木兎さんは親切に身振り手振りで教えてくれたけど、説明がざっくりすぎてよくわからなかった。

「木兎さん、それじゃあよくわかりませんよ」
「そーか?」

わからないと言えなかった私を助けてくれたのは赤葦くんだった。赤葦くんは梟谷の2年生でセッターで副主将。私と同い年なのにすごく大人っぽい男の子だ。

「説明してもわかりにくいから案内するよ」
「いいの?」
「うん。それ持つよ」
「あ、ありがとう!」

赤葦くんはゴミ捨て場まで案内してくれるうえにゴミ袋を2つ持ってくれた。さらっとこういうことができてしまう赤葦くんはきっとモテるに違いない。

「ヒュー赤葦男前〜!」
「惚れちゃう!」
「……行こうか」

黒尾さんや木兎さんの冷やかしも綺麗にスルーすることができる。大人だ。

「ごめんね、練習中に」
「いいよ、そろそろ抜けたかったし」
「本当? なら良かった」

こうやって普通に会話をしていても赤葦くんはあまり表情を変えないしテンションも変わらない。

「なんか黒尾さんがごめんね」
「別に名字さんが謝ることじゃないよ。いつものことだしね」

黒尾さんがからかってきても物怖じせず対応していてすごいと思う。私なんてすぐに焦ってしまうのに。赤葦くんのポーカーフェイスはいったいどうすれば崩れるんだろう。ちょっとした好奇心が私に芽生えた。赤葦くんの笑顔を見てみたい。どうやったら笑ってくれるのかな。

「ここだよ。届く?」
「あ、うん!」

赤葦くんとは会ってまだ日が浅い。私に笑いかけてくれる程心を開いてはいないだろうし、大して面白い話ができる自信もない。せめて卒業するまでに、笑顔を見せてもらえたらいいな。



( 2019.4-6 )
( 2022.7 修正 )

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