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- ナノ -
02

 
「赤葦くんって結構大食いなんだね」
「男ならこのくらい普通じゃないのかな」
「うちの弟は全然だよ」
「名字さん弟いるんだ」
「あ、うん」

今日は赤葦くんにご飯に誘われて、一緒にハンバーグを食べている。大盛ご飯と一緒にハンバーグをもぐもぐ食べる赤葦くんは少し幼く見えて可愛い。
あんな宣言をされた上でふたりきりの食事をするなんてデート以外の何でもない。でも予定空いてたし、断る理由も特になかったから流されるままに今日来てしまった。

「そういえば、この前オススメしてもらった本読んだよ」
「え、早いね。どうだった?」
「うん、面白かった」

赤葦くんとお喋りするのは普通に楽しい。小さい頃から煩い感じの男の子に免疫がなかった私にとって、赤葦くんの落ち着いた話し方は心地良いし本が好きという共通の趣味もある。

「共感するところがたくさんあった」
「うんうん」

私が先日赤葦くんに勧めた作家さんは恋愛系の小説をメインに書いている人で、日常の何気ないきゅんきゅんを描写するのが上手い。恋をするとこういうこと考えちゃうよね、っていうのがすごく共感できるのだ。

「好きな人の笑顔を見たくてつい足が動いちゃうとか」
「うん」
「好きな人が俺を目に映してるだけで嬉しいとか」
「う……ん」
「こうやって一緒の空間にいられるだけで幸せだと思う」
「……えっと……」

赤葦くんから次々と出てくる感想は確かにどれも本に描写されていたものだ。でもなんか、だんだんただの感想には聞こえなくなってきたというか……赤葦くんの主観が入っているような。「俺」とか「こうやって」とか言っちゃってるもん。どうしよう、反応に困る。

「……ごめん、浮かれて変なこと言ったよね」
「いや……うん」

パッと見浮かれてるようには見えないけど、今赤葦くんは浮かれているらしい。だとしてもそれを公言しちゃうのはどうなんだろう。

「あ、赤葦くんはいつもどういうの読むの?」
「何でも。よく読むのはミステリー系かな」
「東野さんとか?」
「うん」
「私も東野さんのは何冊か持ってる!」

恋愛小説の話題は避けた方が良さそうだと思ってミステリー系に方向転換した。私もミステリー小説はよく読むから話にはついていける。

「……あ」
「ん?」
「この前映画化されたよね」
「あ、そうだね」
「……」
「……」

先月東野さんのヒット作が有名俳優陣によって映画化されて話題になっていた。わかりにくいはずの赤葦くんだけど、今この瞬間だけは赤葦くんが何を考えているのかがわかってしまった。

「一緒に観に行かない?」
「……うん」

少し考えて、断る理由がない私は頷いてしまった。いったい私は赤葦くんとどうなりたいんだろう。少し先のことを想像してみたら心臓がドキドキした。

***

「展開わかっててもやっぱ面白いね」
「うん。映像があると分かりやすいよね」

映画デートはすぐに実現された。話にあがったその日のうちに赤葦くんから日程調整の連絡が来て、私も断る理由がないからそれに応じた。
元々好きな作品だったこともあって映画は普通に面白かった。文字を読んで場面を想像するのも好きだけどやっぱり映像があって俳優さんに演じられるとより一層作品が活きてくる。私的にキャスティングも大当たりだった。
映画の感想を言い合っていたら帰り道はあっという間だった。赤葦くんは当たり前のように私を家まで送ってくれた。赤葦くんの家はどの辺なんだろう。反対方向だったら申し訳ないな。

「じゃあ……送ってくれてありがと……」
「名字さん」
「え……!?」

家の前で立ち止まると、赤葦くんは私の手をぎゅっと握ってきた。優しい赤葦くんのイメージとは裏腹にその力は結構強くて、油断していた私はなすがまま赤葦くんの胸に飛び込んでしまった。慌てて離れようとしても背中に赤葦くんの手がまわっていて動けない。

「え!? あ、あの……」
「帰したくない」

抱きしめられたと言うよりは包まれてるって感じだ。振り解こうと思えば振り解ける程度の力なんだろうけど、耳元で聞こえた赤葦くんの熱っぽい声にうまく力が入らなかった。

「どうしたの? は、放して……」
「やだ。付き合ってくれるまで放さない」
「!」

さっきから赤葦くんらしからぬ言動だと思ったら……これ知ってる。私がオススメした恋愛小説のワンシーンだ。台詞まで全く一緒だから、赤葦くんが意図的に再現したってことになる。

「赤葦くん……!」
「名字さん、こういうの好きなんでしょ?」
「!」

そりゃあまあ、好きだ。女の子であれば強引に攻められたいっていう願望は少なからずあると思う。確かに読んでる時はきゅんきゅんした。でもそれは主人公のS属性というキャラクターが根本にあってのもので、赤葦くんがやるには違和感を感じた。だってこんなの赤葦くんのキャラじゃないもん。無理してるのは真っ赤な耳を見ればわかる。

「好き、だけど……現実でやっちゃダメだよ……」
「そうか……ごめん」
「ううん」
「迷惑だった?」
「……ううん」

現実でやっちゃダメだと伝えると赤葦くんは素直に放してくれた。
迷惑じゃない。正直言うと小説を読んでる時よりドキドキしている。常識的にはちょっとアレかもしれないけど、赤葦くんが一生懸命考えてとった行動だと思うと嬉しい。

「できれば……赤葦くんの言葉で伝えてほしい」
「!」

無理なんてしなくていい。ありのままの赤葦くんに私は惹かれているんだから。綺麗に整えられた物語の二番煎じよりも、不器用でも赤葦くんの言葉がいい。

「名字さんのことが好き……です」
「うん」

真っ赤な顔で伝えられたのはシンプルな文章だったけど、一番私の胸の奥に届いた気がした。

「名字さんの笑顔を一番近くで見ていたい。俺が名字さんのことを考えてるように、名字さんの中に少しでも俺の存在があってほしい」
「え、お、おおう……」
「名字さんを幸せにしたい」

あれ、おかしいな……なんか結局どこのドラマですかって程恥ずかしいことを言われてる気がする。突っ込んだ方がいいのかな。でも赤葦くんは見る限り大真面目だ。

「それから……」
「ちょ、ちょっと待って! あの、もう十分だから……!」
「いや、まだ足りない」
「えええ!」
「絶対幸せにするから、付き合ってください」

今度はちゃんと好きになった人と付き合う……前回の恋愛から学んでそう決めた。赤葦くんからの告白を断る理由はない。でも、"とりあえず付き合ってみる"ではない。

「はい。よろしくお願いします」

ちょっとアプローチの仕方や距離感が変だったけれど、赤葦くんは今まで読んだどんな恋愛小説よりも、私をきゅんとさせてくれた。頷く理由は明確だった。



( 2020.5-6 )
( 2022.7 修正 )

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