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05

 
「みょうじさん!」
「あっ……宮くん……?」

月曜の朝、廊下でみょうじさんを見かけたから声をかけた。みょうじさんは治そっくりな俺の顔に一瞬驚いて、名字を呼んだ。何て呼んだらええか迷ったんかな。まあ話すの初めてやしな。

「試合見に来とったよね。どやった?かっこよかったやろ」
「うん、かっこよかった」
「!」

誰が、とは言わなかったけど俺はもちろん「治が」のつもりで言った。そんで、みょうじさんも誰がとは言わなかったけど間違いなく治に向けた言葉だとわかった。治を想って話すみょうじさんは誰がどう見ても"恋する女の子"だった。なんや、かわええやん。

「宮くんも……サーブすごかったね」
「どーも!」
「侑!」

やば、もう治に見つかってもうた。これからもっと突っ込んだ質問したろと思ってたのに。

「……何話しとん」
「別に?一昨日の感想聞いてただけやし」
「うん。思ってたよりずっとすごかった。誘ってくれてありがとう、宮くん」
「……おう」

こいつ、めし食ってる時以外でもこんな顔するんか。ほくほく顔。おもろいもん見れた。
しかしひとつ気になったことがある。みょうじさん、俺のことを名字で呼ぶのはわかるけど治のことも名字呼びやったんか。

「なあ、宮やと区別つかんから名前で呼んだってや」
「え……」
「俺は侑。こっちは治。な?」
「おい……」

基本的に周りには名前で呼ばれることが多い。双子を区別するため、なんて使い勝手の良い口実や。

「ふたりが嫌でなければ……」
「嫌なわけあるか!なあ治」
「……おう」
「じゃあ、そうするね。侑くんと……治くん」
「!」

みょうじさんは治の名前だけ呼ぶのを少し躊躇った。治はみょうじさんに名前を呼ばれただけでめっちゃ嬉しそうや。多分家族にしかわからん変化やけど、明らかにテンション上がっとる。

「じゃあ、また教室で」
「おう」

ああもう何なんこの甘酸っぱい感じ!思ってたより全然ええ感じやんか。

「俺に貸しひとつやで治」
「……この前食ったプリンでチャラやろ」

プリンのことまだ根に持ってたんか。


***(治視点)


「お前告白せえや。あんなん向こうも脈アリやろ」

部室で侑に言われた。誰に、なんて言わなくてもわかる。

「告白……しよう思たことないからようわからん」
「確かに……!靴箱に手紙入れるとか?よくあるやろ」
「そんなんやったら直接言うわ。めんどい」
(俺は突っ込まない)

確かに靴箱にラブレターってのは何回か経験がある。でもそんなん女子がやるから可愛げがあるもんであって、180センチ越えの男がやってもきもいだけやろ。そもそも俺はそんなめんどいことしたくない。言うんだったら直接言いたい。けど、言うまでの過程をどうしたらええかわからん。

「北さん、どうしたらええと思います?」
「……」

角名は我関せずだし、一番しっかり答えてくれそうな北さんに聞いてみた。

「どうするも何も……治が思っとることそのまま言ったらええ」
「え……そんなん言うたら変態や思われません?」
「?」
「ぶっは!お前普段みょうじさんのことどんだけエロい目で見とんねん!」
「ちゃうわアホ」

いやまあエロい目で見とんのは否定できないけど。実際欲望丸出しの夢を見てるわけだし。もちろんチューもしたいしその先のこともしたいと思う。でも今一番思っとんのは……

「ふわって笑うのも冗談言って笑うのも、かっこいいって言うのも、俺だけにしてほしい」
「「!!」」

こんなんそのまま伝えたらきっときもいと思われてしまう。付き合うてもないのにこんなガキみたいな独占欲、かっこ悪いやんか。

「そんなん治に言われたら落ちるやろ!」
「ほんまに?」
「あ……いや、100パーセントとは言い切れんけど」

何事も絶対はありえない。みょうじさんと付き合えたらめちゃくちゃ嬉しいけど、断られたらどうしよう。今まで告白してきた女子達もこんな気持ちやったんかな。だとしたらメンタル強すぎやろ、女子。

「デートには誘ったんか?」
「それや!それやで治!バラ100本持ってったれ!」
「誰が持ってくかアホ」

そうか、デートか。みょうじさんとふたりで出掛けるとか、想像しただけで幸せすぎてやばい。


***


というわけで翌日、みょうじさんをデートに誘おうと気合を入れてきた。シミュレーションは昨日の夜たくさんしてきた。

「みょうじさん休みの日何しとんの?」
「友達と遊んだり、一人でブラブラしたり、寮でDVD見たりとかかな」
「動物園行ったことある?」
「うん。夏休みに家族がこっち来た時行ったよ。レッサーパンダの赤ちゃん可愛かったなあ」
「……」

デートの定番といえば動物園。みょうじさん県外から来とるし新鮮でええやんって思ったけど、つい最近行ったことあった場合はどうすればええんや。やばい、他の場所考えてなかった。

「治くんは休みの日何してるの?」
「俺も同じ感じ。ブラブラして買い食いしたり」
「買い食い……いいなあ」
「何で?せえへん?」
「え……一人だと買い食いしにくくない?」
「そーか?」

ブラブラしてるとうまそうなものがいっぱい目に入るからついつい食ってしまう。俺からしたら別に普通のことなのに、女子だと周りの目とか気にすんのやろか。この前食ったクリームパンうまかったな。みょうじさんにも、食べさしたい。

「……次の日曜日ヒマ?」
「う、うん」
「買い食いツアーしよか」
「!」

自分で言って何やそれと心の中で突っ込んだ。そんな色気のないデートあるかい。

「したい!」
「!」

恐る恐る見たみょうじさんは目を輝かせて食い気味に頷いてくれた。超かわええ。 

「そんな色気のないデートあるかい!」

侑にちゃんとデートに誘えたのか聞かれて答えたら全く同じ反応をされた。ほっとけ。


***


「スカートで来てくれたら脈アリらしいで!」
「……それどこ情報」
「ネット!」
「何調べとんねん」

そして日曜日当日。朝に侑とそんな会話をして、あっという間に待ち合わせ時間はやってきた。10分前に駅前に到着した俺はみょうじさんがまだ来てないことを確認して壁に寄り掛かった。

「治くん、お待たせ」
「……おう」

俺がスマホを開く前にみょうじさんが来た。まだ10分前なのに早いな。人のこと言えんけど。
私服姿のみょうじさんを見るのは初めてだ。めっちゃかわええ。似合ってる。こういうことは口に出した方が喜ぶのかもしれないけど、考えてるうちに言うタイミングを逃してしまった。

「……ロングスカート?」
「え? ううん、実はズボンになってて……スカーチョってやつ。知ってる?」
「いや知らん」
「ふふ、だよね」

何や「スカーチョ」て。スカーチョは脈アリなんか。出かける前に侑がいらん情報寄越すから変なとこが気になってしまう。

「気合入れてお昼ご飯少な目にしてきちゃった」

にこにこ笑う私服のみょうじさんがかわええからどうでもええわ。髪をおろしてるの、新鮮やなあ。学校じゃ部内ルールでセミロング以上はくくらなきゃいけないって言っていた。女子の髪事情とかわからんけど、手入れとかしてきてくれたんやろか。服装も、俺と出かけるからこんなかわええ格好してきてくれたんやろか。みょうじさんとデートするってことに舞い上がって今の俺は何でも都合よく解釈してまうらしい。

「宮くんはいつもどの辺ブラブラしてるの?」
「駅前とか、あと中華街とか」
「中華街!」
「中華街行く?横浜程やないけど」
「うん!」

なんか今日のみょうじさんは学校にいる時よりもテンションが高めだ。かわええ。


***


辿り着いた中華街はそれなりに賑わっていた。一応観光地ではあるからな。修学旅行生っぽいのと外国人が大半だ。

「いい匂い……中華街って感じだね」
「な」

昼飯はしっかり食ってきたのににおいを嗅いだら腹が減ってきたような気がした。肉まん、ラーメン、小籠包……ってあかん。買い食いなんてただの口実やろが。今日は名字さんといっぱいお喋りするのが目的だ。

「寮だとめしは出んの?」
「うん。朝と夜用意されてるよ」
「うまい?」
「うん、美味しい。栄養もちゃんと考えてくれてるし、いつもデザートまで用意してくれてるの」
「何それ最高やん」

たくさん話題は用意してきたのに結局めしの話になってまった。

「治くんはバレーの話とごはんの話する時、キラキラするね」

みょうじさんにも言われてしまった。食い意地張った奴って思われたやろか。でもそれは事実だからどうしようもない。

「そうなん?」
「うん、可愛い」

みょうじさんのが100倍かわええ。よく「可愛い」と言われて喜ぶ男はいないとか言うけど、俺はみょうじさんからの言葉なら何でも嬉しく思った。こうやってみょうじさんが俺に対して感情を動かしてくれてること自体が嬉しい。

「あ、あれうまそう」
「え、どれ?」
「そっちやなくて……っと」
「!」

気を紛らわそうとうまそうなもんを探したらすぐに見つかった。
俺が言ったのとは逆方向をキョロキョロ探すみょうじさん。正面から来た外国人グループとぶつかりそうになったのを回避させようと引っ張ったら力が強かったのか、俺の肩にみょうじさんの頭がぶつかった。女の子なんだから力加減考えるべきだった。

「ごめん、大丈夫?」
「ううん、私こそごめんね。ありがとう」
「人多いから気をつけんとな」
「そうだね」
「……はぐれんように握っててええ?」
「……うん」

せっかく触れたのにこのまま放してしまうのは勿体ない気がして、俺は適当な言い訳をつけてみょうじさんの小さな掌を握った。
めっちゃ汗かいてきた。これ、俺の手ビショビショになってんのとちゃうか。みょうじさんにきもいと思われるかもしれないと心配して、チラリと盗み見たらみょうじさんの横顔は赤かった。そんな顔されたら期待してしまう。

「ほら、あそこの小籠包」
「わっ、美味しそう!食べよう宮くん」
「……おう」

握った手は店で小籠包を買うやりとりをしているうちに自然と離れてしまった。勿体ない。
できたての小籠包はめちゃくちゃ熱そうだったから、裏路地にあったベンチに座ってゆっくり食べることにした。みょうじさんはふーふーして食べるタイミングを窺っている。かわええ。つい尖った唇に目がいってしまって、罪悪感を感じて自分の小籠包に目を移した。

「ん、もう大丈夫やろ」
「本当?」
「おう」

ぱくり。みょうじさんは小さな口を精一杯大きく開けて小籠包を包み込んだ。頬いっぱい膨らませてもぐもぐしているみょうじさんがかわいくてどうしよう。そして美味しさに感動したのか、その顔で俺を見てくるのやめて。めっちゃかわええから。

「美味しい!」
「……ごちそうさんです」

色んな意味で。と心の中で付け足す。今日の俺はほんまにきもいと自分でも思う。何回みょうじさんをかわええと思ったかわからない。

「治くんの手、皮膚が硬かったね。やっぱりバレーやってるから?」
「そうなん?気にしたことなかった」

女子の手と比べたら男の手なんてみんなゴツゴツしてて硬いんと違うか。そういえば緊張していたせいでみょうじさんの手の感触を思い出せない。くそ、なんて勿体ないことをしたんや。

「私もね、マメあるよ」
「弓道で?」
「うん。ほら、小指の付け根のところ」
「ホンマや。触ってええ?」
「うん」

全力で下心を隠して言ってみたらあっさり承諾してくれた。確かに小指の付け根のところだけ硬くなっている。マメを早々に確認した後、俺はみょうじさんの手の感触に夢中になった。やわらか。白。すべすべしとる。女子の手ってこんなちっさいもんなんか。

「ふふ、くすぐったいよ治くん」
「!?」

不躾にふにふに触っていたらみょうじさんがくすぐったそうに笑った。デジャブや。ちょっと状況は違うけど夢で見たのと同じ表情をされてざわざわと心臓が騒いだ。

「マメできるくらい、頑張ったんやな」
「……治くんもだね」

笑う時に眉がちょっと下がるところも、俺の言葉をまっすぐ受け止めてくれるところも、全部、めっちゃ好き。



( 2018.2-5 )
( 2022.7 修正 )

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