04
最近昼休みにみょうじさんを教室で見なくなった。いつもは4人くらいのグループで弁当食ってるのに。
「最近みょうじさん告白ラッシュらしいで」
一緒にめしを食っている鈴木が突然そんなことを言った。つまり、今みょうじさんは誰かの告白を受けてるということか。
「……大変そうやな」
「お前のせいやろが治!」
「は? 何で?」
「お前がみょうじさん狙てるって噂聞いて、元々みょうじさんに気があった男子どもが焦っとんのや」
何で俺のせいになるのか意味がわからなかったけど、説明されて納得した。確かに同じ弓道部でもっと前からみょうじさんのこと好きだった奴らからしてみたらいい気はしないと思う。
「でもそこまでモテるとは思わんかったよな」
「まあほとんど部内の連中らしいけど……一回試合見に行くとやられるらしいで」
「マジか」
「俺の友達がやられてた」
弓道やってるみょうじさんかっこええもんな、わかる。俺がいつも見ているのは練習風景だけど、実際に試合を見に行ったら余裕でやられる自信あるわ。
「あの、宮先輩……!」
「ちょっとお話いいですか?」
そんな話をしているところに、教室のドアから控えめに俺を呼んだのは知らない女子2人だった。
「あー、モテんのはこいつも同じか」
「はよ行ってこいやモテ男」
友人ふたりはそう言ったけど多分告白ではない。それなりに告白されたことはある。なんとなくその時の雰囲気とは違った。
制服をきっちり着こなす女子ふたりに連れてこられたのは人気の無い裏庭だった。
「もしかして弓道部?」
「!」
「お気づきでしたか……」
侑が「服装ええのは大体弓道部」って言ってたからな。
「でしたら話が早いです。率直に聞きますけど、みょうじ先輩のこと狙てるってほんまですか?」
……あ。もしかしてこれ、いつぞや侑が言ってたことマジになるんか。みょうじさんに手ェ出すなって刺されるんか、俺。
「……かわええなって思う。もっといっぱい話したいしいろいろ知りたいし、笑てほしい」
「「!!」」
だからと言ってここで俺が引く理由はなんも無い。俺のみょうじさんに対する気持ちは隠さなきゃいけないようなやましい気持ちとは違う。
「……牽制しに来たん?」
「そういうわけやないんです」
「ただ、ちゃんと本気なんか確かめたかったんです」
なるほど、俺は品定めされてるってことか。「みょうじ先輩に近づくなや」くらい言われるかと思った。
「大好きな先輩に近づくなとか言わへんの?」
「みんなのみょうじ先輩ですから!たとえ宮先輩と付き合うてもそれは変わりませんし!」
「ていうか私達の方が近いですから!勘違いしないでくださいねッ!」
「おおん……」
急にヒートアップしたテンションに若干気圧される。噂通り、みょうじさんは後輩に好かれているらしい。熱烈に。
「むしろ私達が怒りたいのはそれで焦ってみょうじ先輩に告白しとる男子どもです」
「みょうじ先輩を困らすようなことして……」
「だから、宮先輩本気なんやったら早くみょうじ先輩と付き合うてください!」
「は……」
何やそれ。思っていたことと180度違うことを物申された。
「そしたら告白も減るやろうし!」
「……俺も振られるかもやん」
「何を弱気になっとんですかイケメン!」
「イケメン嫌いな女子なんておらんです!」
何で俺、知らない後輩の女子に半ギレで応援されとんのやろ。
「それに……宮先輩と一緒にいる時のみょうじ先輩、なんか柔らかいんです」
「私達と一緒の時はあんな笑顔見してくれへん……」
「べっ、別に嫉妬とかじゃないですから!!」
「少なくとも、宮先輩がみょうじ先輩にとって特別なんは間違いないんです!」
「頑張ってください!」
「お、おう」
何かよくわからんけど、弓道部から刺される心配はしなくて良さそうだ。みょうじさん大好きな後輩からお墨付きを貰たのなら、ちょっとは自信持ってええんかな。
「私達にお手伝いできることがあれば言うてください!」
「ん、ありがとうな。でも自分で頑張るからええわ」
「くっ……!」
「かっこよすぎですか宮先輩……!」
おもろいな、弓道部。
***
「おう治!明日みょうじさん見に来るんか!?」
「……何で知っとん」
金曜の夜、風呂から上がったら侑がニヤニヤしていた。何で明日みょうじさんが見に来ること知っとん。めんどいから絶対言わんようにしていたのに。
弓道部の後輩にあそこまで言われたら何かしら行動起こさなければと思って、明日の練習試合観に来ないかと誘ってみた。午前は部活だけど午後のミーティングが終わってから来てくれることになっている。
「俺に隠そうなんて100年早い!何でもお見通しやで〜」
「……」
どうやら食卓テーブルの上に置きっぱなしだった俺のスマホを見たようだ。ホーム画面にはみょうじさんから「明日は15時くらいには行けると思う」という連絡が表示されていた。
「お前昨日くらいから落ち着きなかったもんなあ!」
「……喧しいわ」
「ふっふ!明日はたくさんトス上げたろう!」
「別にいつも通りでええし」
「何でや!好きな子の前ではかっこつけたいやろが!」
「……」
何でコイツがこんなテンション上げとんのか。そりゃ俺も明日はみょうじさんが見てくれるから頑張ったろとか思うけど。テンションおかしい奴見てると逆にこっちは落ち着いてくる。
「はッ…! 俺のがかっこよくて、みょうじさん俺に惚れてまったらどうしよ!?」
「そんなことあるか」
「わからんやろが!」
明日、楽しみやなあ。
***(夢主視点)
夢を見るのは眠りが浅い時。夢の中で「ああこれは夢なんだ」って自覚することってたまにあるけど、今が正にその状態だった。
『治くん、あの……』
今日の夢には宮くんが出てきた。そして夢の中の私は馴れ馴れしくも宮くんのことを名前で呼んでいた。
『ぎゅって、してほしい……です』
そしてあろうことか、宮くんに大それたお願いをしていた。確かに宮くんのことは素敵だと思っているけど、こんな夢を見るなんて。
『お安い御用や……おいで』
現実でも宮くんは優しいけど、夢の中の宮くんは私の都合に合わせてやっぱり優しかった。「おいで」とか、そんなの宮くんが言ったらかっこよすぎる。
「……!」
そんなところで目が覚めた。心臓がバクバクいってる。宮くんがかっこよすぎるせいだ。こんな夢見てるなんて、宮くんが知ったらきっとドン引きされてしまう。
……さて。顔を洗っていつもより念入りにブローしよう。だって今日は、宮くんのバレーを見られる日。
***
バレーの試合は今までに見たことがなかった。ポジションの名前すらわからない私に、宮くんは嫌な顔ひとつせず丁寧に教えてくれた。宮くんはウイングスパイカーで、アタックを打つ人。もう一人の宮くんはセッターで、トスを上げる人。
「侑くん頑張って〜!」
「治くーん!」
ミーティングが終わって体育館に向かうと、練習試合だっていうのに結構な人数の人がいた。女の子ばかりだ。そして宮くんへの応援が多い。いつもこんな中で試合をしてるんだと思うと、少しだけ宮くんを遠くに感じた。
「わあ……」
私は周りの女の子のように可愛らしい声援を送ることはできなくて、ただただ宮くんを目で追っていた。すごいなあ。人ってあんなに高く飛べるんだ。元々身長が高い宮くんがあんなに高くジャンプしたら、どんな景色が見えるんだろう。
(かっこいい)
ほら、やっぱり。バレーやってるとこなんか見たら、もう誤魔化しがきかないくらい好きだって自覚してしまった。
( 2018.2-5 )
( 2022.7 修正 )
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