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03

 
今日はいつもよりちょっと早く家を出た。いつもってのは、一本早いバスに乗って着く頃にみょうじさんが朝練をしてる時間。それより更にもう一本早いバスに乗ってみた。

「あ」
「あ! おはよう」

もしかしたら朝練に向かうみょうじさんと会えるかもしれないとか期待していたらほんまに会えた。めっちゃ嬉しい。

「いつもこんくらいの時間に来とるん?」
「うん。宮くんも?」
「……まあ」

思わず嘘をついてしまった。まあ、これからこの時間を「いつも」にすればええか。こんな早い時間に登校する生徒は少ない。人目を気にせずみょうじさんと喋れることが嬉しかった。

「宮くんはバレー部……アタック打つ人?」

この言い方からして、みょうじさんはバレーのことをあまり知らないんだろう。オポジットなんて言ってもわからんやろなあ。

「そーそー、アタック打つ人」
「ごめんね、バレーあまり詳しくなくて……」
「アタック打つ人とレシーブする人とトスあげる人がいるってわかっとれば十分やで」
「……宮くん、ちょっとバカにしてるでしょ」
「バレた?」
「バレました」

仲良さげなやりとりに顔がニヤけるのを抑えられない。ジト目を向けてくるみょうじさんも新鮮や。かわええな。
別にみょうじさんがバレー詳しくないからって拗ねることはない。むしろわからないなりに、こうやって俺のために話題を選んでくれる優しさが嬉しかった。

「俺も弓道のことわからんし。どうやって勝敗決めんの?」
「大会によって違うんだけど、どれだけ的に中てたかを競うのが多いかな」
「ふーん」

俺も弓道のことはよくわからん。毎朝ど真ん中に中てとるみょうじさんはめちゃくちゃ上手いんだろうけど、多分それだけじゃダメなんだろう。みょうじさんの凛とした雰囲気は、一発勝負の厳しさを知っとるからこそ醸し出されるのかもしれない。

「見てみたいな」
「?」
「みょうじさんが試合で弓道やってるとこ」
「!」

バレーとか野球とか剣道みたいに明確な"敵"がおるスポーツとは違って、あえて弓道で"敵"を作るとしたら己自身なんだと思う。そんな世界で勝負するみょうじさんを見てみたいと思った。

「私も……見たい。宮くんがバレーやってるとこ」
「!」

そんなんいくらでも見したる。侑だったらすぐそんな言葉が出ていたんだろうが、俺はその言葉を飲み込んだ。みょうじさんが俺に興味を持ってくれてるってだけでめちゃくちゃ嬉しかった。

「でももう少しバレーの勉強してからにするね」
「俺も弓道のこと勉強しとく。てか、みょうじさん教えて」
「うん。そっか、宮くんに教えてもらえばいいんだね」
「うん、教えたる」

勉強してから見るなんて律儀な人や。そんな気合い入れて見に来る女子なんかおらんで。弓道のことはググれば済むようなことだけどあえて気付かないフリをした。これでみょうじさんと話す理由ができた。

「じゃあ、私こっちだから」
「ん、頑張ろな」
「うん」

みょうじさんと別れて、ほくほく顔で体育館についたら北さんが鍵を開けたとこだった。こんな時間に俺がいるものだから、北さんは目を丸くして俺を見た。

「何や、今日はえらい早いな」
「……まあ、たまには」


***(夢主視点)


弓道を始めたのにそんな大層な理由はない。兄が剣道をやっていて袴かっこいいなとかその程度の動機だった。矢を的に中てる……言ってしまえばたったそれだけのことだけど、私にはそれがすごく楽しかった。だから高校では弓道を本気でやると決めて兵庫の学校まで来た。
稲荷崎高校の弓道部は昔からの強豪校だからか、その分規則も厳しかった。例えば上級生だろうがスカートを短くするのは禁止。先輩や先生に挨拶する時は立ち止まって、お辞儀の角度は45度。壁や窓越しに挨拶をしていけない……などなど。
「弓道は武道。日頃の生活からきちんとせなあかん」というのが先生の考え方だった。中学の時も似たような感じだったから私はさほど抵抗もなく受け入れたけど、やっぱり周りからは少し異様に映るみたいだ。後輩から挨拶をされると必ず何だ何だと注目を浴びる。友達には宗教みたいとまで言われてしまった。

「おい治寝んなよー」
「……まだ寝てません」
「まだて何や。寝る予定があんのかい」
『ぐううう』
「腹の音で返事すんなや!」
「腹減りました」
「まだ2限目やぞ」

わっ、と教室が笑いに包まれる。その中心にいるのは宮くん。
ここ稲荷崎高校はいろんな部活に力を入れているけど、今年は特にバレー部がすごいらしい。なんでもすごく上手な双子の部員が2年生にいるんだとか。その一人が同じクラスの宮くんだった。
宮くんは身長が大きくて体格もいい。1年生の頃からレギュラーだって友達が言ってたから、きっとしっかりした人なんだろうって勝手に思ってた。でも実際同じクラスになってみたらその認識は少しズレていたことがわかった。なんかいつも眠たそうだし、よくお腹の音鳴るし。
私は宮くんのありのままで振る舞う姿が少し羨ましかった。部長になってから特に、慕ってくれる後輩たちのお手本にならなくちゃと最近の私は普段の生活から気を張りすぎていたのかもしれない。

「宮くん」
「ん?」
「これ、よかったらどうぞ」
「チョコや。ええの?」
「朝練するとお腹空くよね。私も空くからお菓子常備してるんだ」
「ありがとう、みょうじさん」

そんな宮くんと話すようになったのはつい最近のこと。宮くんと一緒にいる空間はなんだか穏やかで、変に入っていた肩の力も抜けてしまう。パワースポット、みたいな。マイナスイオンが出てるんじゃないかと錯覚する。宮くんと話す時は喋る速さも言葉遣いも表情も、本来の自分に戻れている気がした。
いつか宮くんがバレーしてるところを見に行きたいな。正直、普段ぼうっとしてる宮くんが機敏な動きしてるのは想像できない。そんなギャップを見せられたら好きになっちゃいそう。というか、多分、もう……。
私がこんなことを考えてるなんて知ったら、宮くんはどう思うだろう。困っちゃうよね。だから、この気持ちはまだ自分にも秘密にしておくの。


***(治視点)


久しぶりに見た夢の中のみょうじさんは水着姿やった。

『治くんあまり見ないで』
『嫌や、勿体ない』
『も、勿体ないって……!』

目が覚めるまでにしっかり堪能しておきたい。顔真っ赤にしてかわええなあ。癪やけど侑が前に言っていた「道着に華奢な身体が隠れてると思うとめっちゃええ」ってのはその通りだと思う。白い水着、めっちゃ似合ってる。

「治! ……治!」
「……」

かわええみょうじさんを満喫していたのに侑の声で起こされた。最悪や。

「寝坊やでー!」
「……」
「俺は先行くからな!」

ハッと時計を見たら7時を過ぎていた。寝坊した。いつも俺より早く起きれないからか、侑は得意げに布団の中の俺を見下ろした。むかつく。半年に一回の奇跡にドヤ顔すんなや。

寝坊と言っても朝練の時間に間に合わないってだけで、学校には余裕で間に合う。今日は朝練諦めて、ちょっと早いけど教室に直行しよう。

「みょうじ先輩のことが好きです!」

普段と違う時間に普段と違う場所を通ったら告白現場に遭遇してしまった。しかも相手はみょうじさんや。となると素通りすることはできなくて、見つからないように聞き耳を立てた。

「先輩はいつもかっこよくてしっかりしてて……俺なんかが、その、おこがましいとは思うんですけど……!でも、どうしても伝えたくなって……!」

告白してるのは部活の後輩だろう。前に角名が言っていたようにこんな感じで慕われとんのやな。別によその部活の文化に首突っ込む気はないけど、その理想の押し付けはみょうじさんにとって重荷になっとらんか。そう思うと腹が立ってきた。

「私は、佐藤くんが思ってる程かっこよくないししっかりもしてないよ。佐藤くんがこうやって気持ちを伝えてくれることもおこがましいだなんて思わない。ありがとう」
「!」
「でも佐藤くんの気持ちには応えられない。ごめんなさい」

みょうじさんの対応は神がかっていた。相手を傷つけないように断るのは難しいことや。変に期待を持たしても誰も得なんかしない。そこらへんもちゃんとわかってる返答だと思った。
もし俺が告白したらみょうじさんはどんな言葉を並べるんやろか……想像して少し怖くなった。



( 2018.2-5 )
( 2022.7 修正 )

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