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02

 
『ん、治くん……』
『ん?』
『気持ちいい……』

いやいやあかん。それはあかん。ついにやってしまった。
夢から覚めた俺はバクバクと煩い心臓を押さえて、自己嫌悪に陥った。こんなに頻繁にみょうじさんの夢見るとか、俺はみょうじさんをどうしたいんや。
あんな夢見て申し訳ないとは思うけど、正直……夢の中で涙目で俺を見つめるみょうじさんはめちゃくちゃ可愛かった。自分の想像力を称賛してやりたい。俺がこんなこと考えてるって知ったらみょうじさんにドン引きされてしまいそうだ。

「今日思たんやけど……道着の女子てええよな」
「……!?」

申し訳ない夢を見たから今日は朝練覗くのはやめて久しぶりに侑と一緒に登校した。ウイイレの話を適当に流して聞いていたら侑が、突然道着がどうとか言ってきて立ち止まりそうになった。こいつ今何言いよった?

「テニス部とかのパンチラはそら嬉しいけど、こう……見えないってのがええんやろな」
「……」
「あのきっちりとした道着に華奢な体が隠れてると思うとなんか興奮せえへん?」

聞いてもいないのにつらつら変態じみたことを言って同意を求めてくるのがむかつくし、正直同意できてしまうのがまたむかつく。

「何やねんいきなり」
「昨日弓道部の朝練見て思た」
「……」
「いたっ! 何なん!?」
「イラっとした」
「なぜに!?」

それってつまりみょうじさんを見てもそんなん思うってことやんか。むかついたからふくらはぎを軽く蹴っといた。みょうじさんをそんな目で見んなや。……俺が言えたことじゃないけど。


***


案の定、夢のせいで今日はまともにみょうじさんを見れなかった。まあ元々教室ではあまり喋らなかったから特に支障はない。

「……みょうじさん?」
「あ、宮くん」

移動教室の後、化学室にペンケースを忘れて取りに戻るとみょうじさんがいた。何かを探してるみたいだ。みょうじさんも忘れ物したんかな。

「これもしかして宮くんの?」
「ん、ありがとう。みょうじさんも忘れもん?」
「うん。ハンカチが見当たらなくて」

俺の忘れ物はみょうじさんのおかげですんなり見つかった。みょうじさんはハンカチを探しているらしい。ちゃんとハンカチを持ち歩いてるのってなんか女子っぽいな。

「ここに忘れたん?」
「うん。手を洗ったからここだと思ったんだけど……」
「……」

確かに化学の実験器具を洗うのに水を使ったから可能性は高い。ここで失くしたなら、ついさっきの授業なのに見つからないなんてあるか?もしかして……女子特有の嫌がらせってやつやろか。
1年の時もこんなことがあった。やけに俺に話しかけてくる女子がいて普通に対応していたら、いつの間にかその子は女子から仲間外れにされていた。それ以来、女子とは積極的には関わらないようにしていた。面倒ごとはごめんや。

「人から貰ったものだから困るなあ……」

みょうじさんはハンカチがないことの不便さよりも、人から貰ったものを失くしてしまったということにショックを受けてるみたいだ。みょうじさんに物をあげたらこんな風に大切にしてくれるんやな。

「どんなん?」
「薄い緑の、ふわふわしたやつなんだけど……」

まだ諦めずに膝をついて机の下を覗くみょうじをさんを直視できない。別にスカート丈短くないしタイツだからパンツ見えるってわけじゃないけど、どうしても今日見た夢を思い出してしまう。……バックやってん。
なんて理性あるようなこと思っといて、チラチラ見てしまうのは男の性ってやつやろか。

「あと3分で次の授業始まっちゃうね。手伝ってくれてありがとう、宮くん」
「……どうするん?」
「別の場所も昼休みに探してみるよ」
「そか。俺も見つけたら教えたる」
「ありがとう」

まだ確信は持てないけどちょっと用心しとこう。みょうじさんがいじめられるのは見たくない。


***


「みょうじさん、ハンカチ見つかった?」

放課後、みょうじさんが教室を出たのを見計らって声をかけた。教室で話しかけなかったのは、クラスメイトの視線が集まるのが嫌だったから。

「うん。昼休みに部活の後輩が届けてくれたよ」
「そか。よかったな」
「うん、本当に」

とりあえず見つかったならよかった。誰かに隠されたとかじゃないとええけど。

「気にかけてくれてありがとう」
「……どういたしまして」

みょうじさんはどんな些細なことにもしっかりお礼を言ってくれる。ええ子や。あと、あまり言葉をはしょったりしない。だから言葉遣いが丁寧だって感じるんやろな。

「はッ……!?」
「……」

みょうじさんと話していたら正面から侑がやってきて、こっちを見て固まった。何なんコイツ。何一人で勝手に変顔披露してん。

「……先部活行っとるでー!」

かと思えば今度はガキっぽい笑顔を浮かべて走っていった。マジ何なん。みょうじさんに片割れアホっぽいって思われるからやめてや。

「今の、双子の……」
「おん」
「確かに似てるね。髪色と髪型が同じだったら見分けつかないかも」
「それでも間違える奴おるけどな」

とりあえず引かれてはないようだ、良かった。しかもこの流れで一緒に部室棟まで行けそう。めっちゃ嬉しい。


***


「おい治彼女できたんなら言わんかい!俺はいつも報告しとるやろ!」
「彼女ちゃうし。お前の彼女事情とかどうでもええし」

部室についた途端、無駄にテンションの高い侑が寄ってきた。ああ、みょうじさんのこと俺の彼女だって勘違いしたんか。

「治女に興味とかあるの?」
「なんやと」
「だってお前色気より食い気じゃん」
「……まあ、明日地球が滅びるとかなったらエロいことよりめし食うわ」

侑の声が無駄に大きいせいで角名まで会話に入ってきた。俺は女に興味がないと思われとんのか……失礼な、人並にあるわ。

「あの子弓道部の子やろ?なんや、今朝の俺の言葉図星やったんか!」
「名字さんはそんなんちゃうし」

ニヤニヤして俺の背中を叩いてくる侑は俺と同じ顔なのに腹立たしいことこの上ない。どついてええかな。

「弓道部のみょうじさんって……確かけっこう人気あるって聞いたけど」
「マジ?そこまで可愛なかったであだッ!」

どついてやった。

「何なん治やっぱ好きやん!」
「ちゃうし」

みょうじさんのこと何も知らんくせに適当なこと言うからむかついただけやし。でもまあ、確かにみょうじさんは誰もが振り向く美人とは違う。人気があるって言われてもいまいちピンと来なかった。

「人気って言っても部内ね。なんか崇拝されてるって女子が言ってた」
「す、崇拝?」
「弓道上手いんだって。部長なったんじゃない」
「あー、弓道部って独特の雰囲気あるよな」
「そうなんか」

崇拝か……そう言われるとなんか納得できた。確かに弓道してる時のみょうじさんはどこか神秘的で気高くて、普通の人間じゃ手の届かない存在のように思えた。

「まあでも、その子だったら治の相手でもいじめられたりしないんじゃない?弓道部敵に回したら怖いって女子が言ってた」
「何なん弓道部、怖!」
「……」

そっか、いじめとかは気にせんでええのか。じゃあもっと話しかけてええんかな。

「そーか、治もついに女子に興味持ちよったか!」
「別に興味は前からあるし」
「このムッツリめ!」
「喧しいわ」

自分でもよくわからなくなってきてるけど、今ここで囃し立てられるのは嫌だと思った。はぐらかしてみたものの、俺が今みょうじさんに抱いてる気持ちを説明できる言葉が他に見つからないのも事実だ。

「でも気にはなってんでしょ」
「……笑た顔もっと見してほしいとは思っとる」
「治……!!」
「侑もこんくらい純粋な恋せえよ」
「俺が汚れとるように言わんといて!てかこいつも大して変わらんからな!?」


***


それからみょうじさんとは教室でもよく話すようになった。話すことはお互いの部活のことがほとんどだけど、甘いもんが好きとか英語が苦手なこととか、部活以外のみょうじさんを知ることができて自分の心が満たされていくのを感じた。弓道の時はきりっとしてても普段はふわふわした普通の女の子や。そのギャップがまたええ。

「よー治。俺んクラスまで届いてんで、噂」
「……噂?」
「治が弓道部のボス狙てるて」
「ボス?」

購買から戻る道中で侑に言われた。ボスて、みょうじさんのことやろか。何でボス?部長だから?

「おはようございます!!」
「おはようございます!!」
「おはよう」

不思議に思っていたらめちゃくちゃ堅い挨拶が聞こえてきた。その声が向けられているのはみょうじさんで、頭まで下げられていた。

「ほら、ボスやろ」
「……」
「あの挨拶は弓道部の伝統らしいけど、中でもみょうじさんは別格らしいで」

そういえば弓道部は部内ルールガチガチだってみょうじさんも言っていた。挨拶してるのはおそらく部活の後輩だ。きっちり立ち止まって、お辞儀の角度もきちんとしている。

「治あんま付きまとうと後ろから刺されるんちゃう」
「……」

侑は半分冗談で言ったんだろうけど、この光景を見ると絶対無いとは否定できなかった。弓道部内でみょうじさん、神格化しとんのちゃうか。確かにこんなんが周りにたくさんいたら手ェ出しにくいと思う。

「でも……なんか、窮屈そうや」
「?」



( 2018.2-5 )
( 2022.7 修正 )

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