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03

 
「……おい、鍵開いてたんだけど」
「! け、堅治……?」

なまえの家までは歩いて5分程。不用心なことに鍵が開いてたから勝手に入った。なまえはというとリビングのソファでブランケットを被って丸くなっていた。テレビの音量がやけにでかい。そのせいか、なまえは俺が隣に座るまで存在に気付かなかった。入ってきたのが俺じゃなかったらどうすんだよ。
俺に気付いたなまえはあからさまに距離をとってソファの端までもぞもぞと動いた。まあ、当たり前の反応だ。

「な、何しに来たの……」
「雷、鳴ってたから」
「!」

なまえは昔から雷が苦手だ。夜に雷が鳴ると寝られないらしく、俺の布団に入ってきたこともあった。もちろん追い出した。
今だってテレビの音量を上げて、ブランケットを被って、必死に恐怖に耐えてたんだろう。そんな怖いんだったら、家に来ればいいのに。……なんて、来にくくしてしまったのは俺だった。

「今日おじさんとおばさんは?」
「お父さんは出張。お母さんは電車止まって帰ってこれないって」
「ふーん」
「あのさ……ッ!?」

なまえが何かを言いかけた時、バリバリと大きな音が響いてリビングの電気とテレビが一斉に消えた。この音は落ちたな。なまえに掴まれた腕が痛ェ。

「あ……」
「いいよ、掴んでれば」

気まずく感じたのか、離れようとしたなまえの手を押さえつけた。暗闇の中でなまえが戸惑ってるのがわかる。

「……昔は寄ってくんなって怒ったくせに」
「好きな人が同じ布団入ってきたら変な気起こすだろ」
「!?」

あの時は大変だった。好きな人が自分の布団に入ってきたら気が気じゃねーだろ。いろいろと抑えんのが大変なんだよ男の子は。
俺の発言に警戒心を露わにしたなまえが離れようとしたけど、今度は俺がなまえの腕を引いて許さなかった。

「別に変なことはしねーよ」
「……うん」
「していいならするけど」
「ダメ!!」
「あーはいはい」

台風は予報よりも早く過ぎ去って、俺は22時くらいに家に帰った。もっとゆっくりしていけよ、なんて台風に思ったところでどうにもならない。


***(夢主視点)

 
「なまえー、来週合コンあるんだけど来ない?」
「ごめん、用事あって行けないや」
「マジかー。なまえなら絶対来てくれると思ったのに」
「あはは……」

失恋に効くのは新しい恋。今まで何度も失恋してきた私はそのことを身をもって体験してきている。
大学生になって合コンに誘われる機会はたくさんあった。その度私は相手を確認するより先に「行く」と即答してきた。私にとって高学歴とかイケメンとか、そういうステータスはあまり重要ではない。まあ良いに越したことはないんだけど。結局好きになれば全部が素敵に見えるんだもん。

「怪しい〜。なまえ彼氏できた?」
「で、できてないよ!」

そんな私が2回も続けて合コンの誘いを断ったものだから、当然友達は怪しんだ。残念ながら彼氏ができたわけじゃない。けれど、何もないと言えばそれは嘘になる。
まさか、堅治が私のこと好きだったなんて。全然気づかなかった。いつから好きだったのか具体的には言わなかったけど、多分結構前からだと思う。
今まで家族同然に思ってきた堅治に打ち明けられた事実は私にとってものすごい衝撃で、合コンに誘われた時もご飯を食べてる時も堅治の顔がチラついて落ち着かないのだ。そしてその度に思い出す、唇の感触。

「……」

思い出したら恥ずかしくてどうにかなってしまいそうで、私は気を紛らわそうと携帯を開いた。するとトークアプリに新しいメッセージが一件。堅治のお母さんからだった。

"堅治赤点とったからまた勉強見てもらえる?"

可愛いスタンプとともに送られてきた内容は公開処刑の宣告のように思えた。


***


「……」
「……」

というわけで久しぶりの二口家にやってきてしまった。今まで散々晩御飯をご馳走になってきた分、おばさんの頼みを無下に断るなんてできない。
当たり前のように堅治の部屋に通されて、私と堅治の間に沈黙が流れる。こんな状態で勉強を教えるなんて無理だ。堅治の顔さえ見られないのに。

「……シュークリーム食う?」
「ち、近づかないで!」
「は?」

堅治が少しこっちに近寄っただけで大袈裟な反応をしてしまった。だって、近くで顔なんて見たらまた思い出しちゃう。もうシュークリームだけ貰って帰ってしまいたい。

「……意識してんの?」
「しっ、ししししてないし!!」

図星を突かれてこれでもかってくらいどもった。こんなの意識してる以外の何でもない。堅治の顔を見るとキスのこと思い出してドキドキする。堅治のことこんな風に意識したことなんてなかったから、頭と心臓が追い付かない。
改めて客観的に堅治を見てみたけど……もしかして堅治ってかっこいいのでは?小さい頃を知ってる私は「可愛い」印象が拭いきれないけれど、世間一般的に言ったら「イケメン」なのでは?
性格だって意地悪だの生意気だの言われがちだけど、本当は優しいってことを私は知ってる。この前も私が雷苦手なことを覚えていて、怖くないように傍にいてくれたし。考えれば考える程、堅治がいい男のように思えてきた。

「なまえ、わかりやすすぎ」
「!」
「俺のこと好きになった?」
「!?」

私の考えていたことがどれだけ見透かされてるのかはわからないけれど、意地悪に笑った堅治に私の心臓はきゅんとした。え、嘘、この感じって……いやいやまさか。だってそんなのズルいじゃん。告白してくれたから好きになるなんて、都合が良すぎる。

「おい、こっち見ろよ」
「む、無理。かっこいいって思っちゃう……」
「は……」

今見たら好きになっちゃう気がして、怖くて堅治を見ることができない。

「なまえの中で俺は恋愛対象に格上げされたってことでオッケー?」
「ちが……ッ」

否定しようとして顔を上げたら堅治の意地悪な笑顔が目に入って、またきゅんとした。かっこいい。きっと顔を真っ赤にした私がいくら否定しても説得力は無いんだろう。

「アリなら付き合えばいいじゃん」
「だ、だめ!」
「……何で」
「堅治が好きって言ってくれたから好きになるの、ズルいじゃん……。堅治の気持ちは関係なしに、ちゃんと好きになりたい」
「!」

これは紛れもなく私の本心。相手が堅治だからこそ、安易な気持ちで返事をしてはいけないと思った。

「……!?」

素直にそう伝えたら堅治がまたキスをしてきた。え、何でこのタイミング?まだ付き合うとかは待ってほしいって話したばかりなのに。

「な、何するの!」
「無理。我慢できない」
「!? ばか……!」
「煽んなよ」
「煽ってなんか、……!」

また堅治の顔が迫ってきて唇が触れる。その表情があまりにも大人っぽくて怯んでしまって、私はされるがままだ。ベッドの側面と堅治の体に挟まれてしまった。堅治とのキスが心地良いとさえ思い始めてきた。目を瞑ってしまいそうになるのをグッと堪えた。ここで流されたらダメだ。

「この……や!だ!」

私は渾身の力を込めて堅治のお腹にグーを入れた。


***(二口視点)

 
気持ちをストレートに伝えてから、なまえの態度はわかりやすかった。顔を真っ赤にして頑なに俺の顔を見ようとしない。俺のことを意識してることは明らかだ。こっち見ろと言うと「かっこいいって思っちゃうからやだ」とか、マジ何なの。こんなの、勘違い野郎じゃなくても「俺のこと好きだろ」って思うだろ普通。
今まで俺に見向きもしなかったなまえが、俺を見てくれている。俺のことだけを考えてくれている。それがすごく嬉しくてはやる気持ちを抑えられずにキスをしたら、なまえは容赦なくグーを腹に決めてきやがった。クソ痛かった。
けどまあせっかく意識して悩んでくれてるんだから、ちょっとくらい待ってやるか……そう思ってた時期が俺にもありました。

「おいなまえ!」
「ひっ!」
「お前ふざけんなよ、どんだけ待たす気だよ」
「ちょ、待って無理……」
「こっちだって無理だっつーの!」

あれから2週間、なまえからは音沙汰なし。それどころか前よりもあからさまに俺を避けるようになった。ふざけんな。こんなんじゃ埒があかねェってことで俺はなまえの家に押し入った。

「しょ、しょうがないじゃん!私こんなの、初めてなんだもん……!」
「!」

好きな女の「初めて」発言にムラっとしない男がいるんだったら連れてきてほしい。なまえはそういうこと無自覚で言うからマジでタチ悪い。俺がなまえの全部の「初めて」になりたい。なんてこのタイミングで言ったらまたグーパンされそうだからやめといた。

「堅治は慣れてるかもしれないけど、こっちは彼氏できたことないんだからね!」
「んなこと知ってるし」

そりゃあ、俺が散々彼氏できないように邪魔してきたからな。

「……途中経過でいいから教えろよ」
「!」

俺のことを考えてくれてること自体は嬉しい。答えは出せないにしても、なまえが今俺のことをどう思ってるのかを知りたかった。

「えっと……顔は、確かにかっこいいなと思いました」
「……どうも」

あ、割とガチ目線で審査されてんのね。別にいいけど。

「運動神経も良い。頭は……ちょっとバカだけど一般常識はある」
「んだとコラ」
「何より、私のこと誰よりもわかってくれてる……と、思う」
「……」

小さい頃からずっとなまえを見てきた。なまえのことなら親の次……いや、同じくらいに理解しているつもりだ。また逆も然り、俺のことを理解してくれる女子はなまえ以外いない。

「ダメだあ……」
「は!?」

何でそこで「ダメ」って結論に至るんだよ。

「嫌なとこが見つかんなくて、困る……」
「!!」

いやほんと何なの。恋愛経験乏しいくせにそうやって的確に男心くすぐってくるの何なの。実は確信犯なんじゃないかと疑うんだけど。もう無理だ。ここまで聞かされておあずけくらうのは無理。俺はもごもごしてるなまえの口にキスをした。

「け、堅治のキス魔……!」
「キスで我慢してやってんだから感謝しろよ」
「はあ!?」
「本当はもっとすごいコトしたいけど抑えてやってんの」
「な……!!」

欲情を隠しもせず迫るとなまえは顔を真っ赤にしてうろたえた。これ以上のことをしたらいったいどんな反応を見せてくれるんだろう。もっともっと、なまえに「初めて」を与えてやりたい。

「後悔させねーから、付き合えよ」
「!」

まっすぐ目を見て言うと、なまえは潤んだ瞳を左に流してから一度だけ頷いた。おあずけから解放された俺はなまえが何かを言う前に抱きしめて、もう何度目かわからなくなったキスをした。

「おせーよ、バーカ」



( 2018.10-12 )
( 2022.7 修正 )

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