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- ナノ -
02

 
「及川くんってめっちゃかっこいいよね」
「……」

またか。なまえが惚れやすいのはいつものことだけど、今回ばかりはマジで勘弁してほしい。何故ならうっとりしながら呼んだ名前に聞き覚えがあったからだ。

「……何で及川のこと知ってんの」
「昨日おばさんと一緒に堅治の応援行ったんだけどさ、その時見てファンになっちゃった!」
「……」

昨日応援来てたとか知らねーんだけど。俺の応援に来たんだったら俺を見てろよ。何他の男見て惚れてんだよ本当むかつく。

「堅治、及川くんと接点ないの?」
「ねーよ」

顔見知りではあるとは絶対に言わない。それを言ったらお前どーすんだよ。俺を利用して及川に近づくわけ?そんなん腹煮えくり返るから無理。

「まあイケメンは遠目に見てるのが一番かぁ」
「……なまえにとってのイケメンってどんなん」
「え?世間一般と同じじゃない?」
「俺は?」
「は?」
「俺、そこそこイケメンって言われるけど」

イケメンが好きだって言うんだったら俺だってアリなんじゃねーのかよ。工業高校でチャンスこそ少ないものの、自分の顔が整っている自覚はある。

「んー……」
「!」

聞いてみたらなまえはグッと顔を近づけてきた。ちょ、近いんだけど。自分の意思とは関係なしに顔に熱が集中する。好きな奴がこんな至近距離で見上げてきたらそりゃ赤くもなる。

「見慣れてるからよくわかんないや!」
「……」

この無神経女ほんとむかつく。今すぐ押し倒してキスしてやろうかと思った。


***(夢主視点)


「本当にありがとうございます」
「いえっ、そんな!気にしないでください」

これを運命と呼ばず何と言おう。大学帰り、何気なく電車に乗っていたら向かいの席に及川くんが座ってることに気付いた。及川くんは何やら参考書っぽいものを開いていたけど、ものの数分もしないうちにこっくりこっくり眠ってしまった。その姿さえかっこいいからイケメンってすごい。
しばらくチラ見していると降りる駅になったのか、慌てて電車から出ていった。しかしその拍子にポケットからスマホが出てしまい、座席に取り残されてしまったのを私は目撃した。両隣の人はスマホや本を見ていて気付いていない。私は迷った挙句、そのスマホを持って及川くんの後を追ったのだ。
声をかけて事情を伝えると及川くんは礼儀正しく頭を下げてくれた。イケメンで、礼儀もしっかりしてるなんて。こんなパーフェクトな男の子が世に存在してることが奇跡だ。

「あの、この前の試合見てました。次も頑張ってください」
「ありがとうございます。マネージャーさんですか?」
「いや、私大学生で……この前は幼馴染の応援で来てて」
「そうなんですか。優勝するので、よければまた応援してください」
「はい!」

イケメンのにっこり笑顔に私はコロっと落ちた。


***


「ねえ、運命じゃない?」
「運命とか……寒っ」
「寒くないし!」

この運命的な出会いを誰かに伝えたくて、やっぱり私は堅治の家へ向かった。接点無くて諦めようと思ってた人と、まさか直接話せるなんて予想外過ぎて嬉しくて我慢できなかった。

「また応援してくださいって言ってくれたんだよー!」
「社交辞令」
「そうだとしても!嬉しいもんは嬉しいの!」

社交辞令だとしても、そんな言葉をスラっと言える及川くんは素敵な人だ。

「差し入れとか持ってったら迷惑かな……」
「さすがにそれは引く」
「ですよね」


***(二口視点)
 

「はああ……」

及川の応援に行くんだと意気込んでいたなまえだが、夕方になると肩を落として俺の部屋に入ってきた。そして勝手に俺のベッドに倒れこんで勝手に俺の枕を抱きしめた。いやほんとやめてくれ。今晩その枕を傍らに俺が悶えることになるから。

「……何」
「及川くん、彼女いた……」

構って感がうざいから聞いてやった。まあ、なんとなく予想はついていた。及川に惚れたと言われた時はマジでむかついたけど、どうせどうにもならないだろうと思っていた。

「何でわかったの」
「女の勘」
「はあ?」
「見てればわかるもん。及川くん、好きな人を見る目だった」
「……」

おいおい冗談よしてくれよ。なまえに女の勘なんてあるわけねーだろ。「好きな人を見る目」がわかるわけねーだろ。怒るぞ。

「あーあ、アピールする前に終わっちゃったなあ……」
「……」

まだエンジンがかかる前だったからか、前回よりかはダメージは少ないみたいだ。しかしなまえのうじうじは治まらない。一向にベッドから動く気配もないし俺の枕を放す気配もない。

「堅治にはわかんないでしょうね、モテない人間の悩みが」
「……何でそこまで彼氏ほしいの」

まあ確かにモテない人間の悩みなんてわからない。俺からしてみたら「付き合う」ってめんどくさいことも多いものだ。何でなまえがそこまで必死になるかがわからなかった。

「私もう19だよ?一生に一度しかないJKも何もなかった……このまま誰にも愛されずに一人死んでったらどうしよう……」
「……」

その心配をするのは早すぎなんじゃねーの。高校の時何もなかったのは俺が邪魔してたからだし、俺がいる限り誰にも愛されずに死ぬことなんてない。「好きな人を見る目」がわかるんだったら、何で俺の視線には気付かないんだよ。この鈍感クソ女。

「ちゅうの味も知らずにババアになってくんだ……」
「……」

むかつきすぎて、今までいろいろ我慢してきたことがバカらしくなってきた。なまえの望みは「彼氏が欲しい」「キスしたい」。そんな望み、いくらでも俺が叶えてやる。

「え……え!?」
「どんな味だった?」
「え、は!?そんなのわかんなっ、ん……!」

頭の奥で何かが切れた俺は、なまえが持っていた枕をはぎ取って強引にキスをした。お前がキスの味知りたいって言ったから教えてやってんだ。わかんないっていうならわかるまでしてやる。

「キスの味なら俺がいくらでも教えてやる」
「そ、そういうことじゃなくて……」
「愛だって、俺が嫌って程与えてやるよ」
「ちょ、急にどうしたの!?」
「急なわけあるか。なまえがいろんな男にうつつ抜かしてる間ずーっと、俺は片想いこじらせてんだよ」
「!!」

キスをしてしまった以上もう後戻りは出来ない。だったらとことん思い知らせてやる。目を丸くして驚いてるってことは本当に全く気付いてなかったってことなんだろう。それがまたむかつく。

「え……え!?」
「つかお前、何で惚れやすいくせにピンポイントで俺にだけ惚れねーんだよ。むかつく」
「だ、だって、堅治はそういうんじゃないじゃん」
「キスしたのに?」
「っ、それは堅治が無理矢理……!」

往生際の悪いなまえの口を再び塞いだ。キスして、これだけはっきり言ったら嫌でも意識するよな。もう逃がさねェ。

「嫌なら拒めよ」
「!」
「誰でもいいなら俺でいいだろ……」
「けん、じ……」
「こじらせた分の想い、責任とって受け取れよ」

後戻りできないんだったら戻らなきゃいい。今まで俺がこじらせてきた想いはこんなもんじゃ全然足りねーんだよ。

「い……いや!!」


***

 
なまえに殴られた。
まあ無理矢理キスしまくったんだから拒絶されて当然なんだけど、咄嗟にグーで殴るって女としてどうよ。おかげ様で俺は顔面に湿布を貼る羽目になってしまった。先生には喧嘩をしたのかと心配され、先輩達には何だその顔と笑われた。青根はやたらと凝視してきた。

「最近なまえちゃん来ないねぇ」
「……」

なまえとはあれから話してないし会ってもいない。俺に遭遇しそうな時間帯は避けてるんだろう。
別に想いを伝えたことに後悔はない。いい加減我慢の限界だったし。でも……さすがにやりすぎたとは反省している。悪いことしたって自覚はあるけど謝りたくはない。元はといえばなまえのせいだし。

「今日台風くるけど大丈夫かなー」
「……」

なまえの両親は共働きで二人とも出張が多い。家に一人になってしまうことが多かったなまえは、俺の家によく預けられていた。さすがに最近は寝泊まりすることはなくなったけど、つい1週間前も家で夕飯を食っていた。
そんななまえが突然パタリと来なくなったんだ、そりゃ親も心配するだろう。……お宅の息子が原因なんですけどね。

「堅治、連絡してみてよ」
「……めんどいからなまえんち行ってくる」
「そう?気を付けてねー」

今俺が連絡してもどうせ返事はこないだろう。
今回の台風は今年最大級のものでここら辺もそろそろ暴風域に入る。雨風が次第に強まって今にも雷が鳴りそうだ。俺は傘を一本持ってなまえの家に向かうことにした。



( 2018.10-12 )
( 2022.7 修正 )

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