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- ナノ -
01

 
「なまえちゃん、今度一緒に映画行かない?」
「!」

みょうじなまえ、19歳にして初めての彼氏ができるかもしれない。
相手は大学の1つ上の先輩。同じサークルで気さくに話しかけてくれた優しい塩顔男子だ。学部も同じだから授業のこととかアドバイスをしてくれたり、大学周辺の美味しいお店を教えてくれたりとお世話になっている。最近ではサークル帰りも一緒に帰るようになった。そしてついに今日、デートのお誘いを受けたのだ。
中学、高校とずっと女子校で育ってきた私にとってこのチャンスは今後の人生を左右するとてもとても大事なもの。「彼氏」という存在をどれ程渇望したことか。それがもう目前に迫ってると思うと興奮が抑えられなかった。

「堅治どうしよう私彼氏できるかもしれない!」
「……」

その興奮を自分の中だけでは消化しきれなくて、私は幼馴染の堅治のもとへ駆け込んだ。両親ともに働いていて出張が多いから、私は小さい頃からよく隣の二口家へお世話になっていた。弟みたいなものだ。

「……気のせいだろ」
「いや今回はほんとに!明後日デートするんだよ!」
「ふーん。どこ行くの」
「映画!どうしようすごくドキドキするー!」
「病院へどうぞ」

堅治は私の2つ下の男の子で現在高校生。ずっとバレーをやっているからか、今ではすっかり大きくなってガタイも良くなってしまったけど顔は可愛い顔していると思う。小さい頃は私の後をくっついてきて本当に可愛かった。こうやって生意気なこと言ってくる今も可愛いんだけど。本当はいい子って、私はよーく知ってるもん。

「ねえ、何着てけばいいかな?やっぱスカートの方がいいの?」
「ジャージでいいんじゃね」
「もー真剣に答えてよ!」

堅治は私の色恋沙汰にあまり興味を示さない。というか、こういうことを相談すると心底めんどくさそうな、嫌そうな顔をされる。
今だって堅治はソファに横になって手元の漫画から目を離さない。男の子の気持ちがよくわからないから教えてほしいのに。これじゃ何の参考にもならない。

「酷い……堅治は私に彼氏ができなくてもいいの?」
「うん」
「え、うそ、ほんとに?」
「うん」
「……ほんとは嘘?」
「うん」
「もー!」

全然話聞いてないじゃん!むかついて投げつけたクッションはいとも簡単にキャッチされた。うぐぐ……運動部の反射神経恐るべし……!

「ふん、堅治のアドバイスなんて無くても彼氏ぐらいできるし!明後日私は人の女になりますからね!お姉ちゃんを他の男に取られてせいぜい寂しい思いをするがいい!」
「……姉ちゃんじゃねーし」

私は捨て台詞を履いて二口家を後にした。次ここに来る時は彼氏ができたという報告をすることになるだろう、楽しみだ。


***
 

「晩御飯まで奢ってもらっちゃって……ありがとうございます」
「ううん、気にしないで」

ついに訪れた私の決戦日。デートはすこぶる順調だ。
望月先輩は映画代だけでなく晩御飯まで奢ってくれた。歩く時もさり気なく車道側を歩いてくれたり、歩くスピードを気にしてくれたり、これが世に聞く「エスコート」というやつかと感動した。
今まで恋をしなかったわけじゃない。むしろ好きな人はすぐにできる方だと思う。だけど全てが片想いで、その中には「やめた方がいい」と友人から言われるような人もいた。その時は盲目的に好きで聞く耳がなかったけど最終的に振り返ってみればあまりいい男とは呼べなかった気がする。
でもでも、今回こそは違う。望月先輩はとても優しい。それに、自惚れとかじゃなくて私のことを多少いいなって思ってくれてると思う。リア充というゴールを目前にして私はわくわくが止まらない。この感動を早く堅治に伝えたい。

「!」
「……」

そう思っていたら目の前に堅治が現れた。部活帰りだろう、隣に青根くんがいる。青根くんは私と目が合うとぺこりと会釈をしてくれた。顔はちょっと怖いけどすごくすごくいい子なのだ。

「えっと……」
「あ、幼馴染の堅治です。隣はお友達の青根くん」
「どうもー。なまえがお世話になってまーす」

いきなり現れた男子高校生に戸惑う先輩にふたりを紹介した。私に対して減らず口の絶えない堅治だけど外面がいいのは知っている。ちゃんと猫被って笑顔で挨拶をしてくれて安心した。

「いやー、噂の望月先輩がいい人そうで安心したっす」
「え?」
「なまえの奴毎晩俺の部屋に来ては望月先輩の話ばっかしてんすよー」
「!!」

余計なことを言わないでと焦ったけどいや待てよと考える。むしろこれはサポートされてるのでは。私が望月先輩のこと意識してますよって、遠回しにアピールしてくれてるのでは。堅治め、なかなか高度なアシストをしてくれる。

「俺としてもなまえには変な男に引っかかってほしくないと思ってるんで……よろしくお願いしますね?」

堅治がそこまで私のことを思ってくれてたなんて。ふふふ、やっぱりなんだかんだ堅治はいい子なんだから。


***


「……」

おかしい。昨日のラインの返事がまだ来ない。デートの後にお礼の連絡は当たり前だって、「モテる女は必ずやってる!」みたいな感じのタイトルでネットに書いてあったのに。
トーク画面を何度確認してもちゃんと送られている。既読はついてない。寝落ちしたにしてももう翌日のお昼だし、さすがにスマホは触ってるはずだ。

「ねえ堅治どう思う?」
「返事が来ない時点で察しろ」
「えええやっぱそうなの!?」

堅治に聞いてみたら私が目を背けていた現実を容赦なく突きつけてきた。返事が来ないってことは、やっぱりそういうことなのかな。

「何で!?何がダメだったの!?」
「知らね。鼻毛出てたんじゃね」
「ちゃんとチェックしたもん!切ってきたもん!」

つまりあのデートの結果、私は"ナシ"と判断されたということ。その事実はしょうがないとして、理由がわからないってのが腑に落ちないのだ。
正直デート自体は誰が見てもいい感じだった。先輩も楽しそうにしてくれてた。ガニ股で歩いたり、オヤジくさいくしゃみをしたりすることもなかった。なのに何故。

「まあ合わなかったってことだろ。そんな奴と付き合っても長続きしねーよ」
「ついに彼氏ができると思ったのに……」
「つーかなまえはただ単に彼氏が欲しいだけだろ。誰にでも盛ってんじゃねーよ」
「な、何その言い方!ちゃんと好きだったもん、望月先輩のこと!」
「どーだか」

正直多少図星なとこはあるけど、誰彼構わずいってるわけじゃないし。望月先輩のこと、ちゃんとかっこいいしいい人だなって思ったし、ドキドキもした。ちゃんと恋だったもん。

「堅治も手伝ってくれたのに、ごめんね」
「は?」
「え?」
「俺、なまえの恋手伝ったことなんて一度もないけど」
「またまた〜」

そんなこと言って、なんだかんだ私がこうやって失恋した時、いつも側にいてくれたのは堅治だった。堅治には助けられてばっかりだ。


***(二口視点)


俺には2つ上の幼馴染がいる。そいつは中高一貫の女子校に通っていて男とあまり接点が無かったからか、恋愛に対して人一倍憧れを抱いている。こじらせてるレベルだ。もともと単純な性格をしてることもあって、ちょっと優しくされたらすぐに惚れてしまう。
今まで好きになった男は数知れず。ほとんどが名前の片想いだったけど中には上手くいきそうな場合もあった。昨日のやつなんて正にそうだ。なまえの言った通り優しくて誠実な奴なんだろうとは思った。ほっとけばそのうち告白もしてきただろう……あの時俺に会わなければ。
なまえは俺がアシストをしたと思い込んでるみたいだけど、あんなの邪魔以外の何でもない。男からしたらこんなうるさそうな幼馴染の男がいたら手ェ出しにくいだろ。なまえが見てないとこで目で威嚇もしといたし。顔もガタイも世間一般的には俺の方が上。自信喪失して狙うのやめたんだろう。所詮はそこまでの男だったってことだ。

「堅治今彼女いる?」
「いねーけど」
「ふーん……堅治って長続きしないよね」

誰のせいだと思ってんだ。俺はなまえと違ってそれなりにモテるから何回か告白されたことはあるし、まあ付き合ってみるかと思って付き合ったこともある。結局は俺が振られて終わるわけだけど、その理由をあげるとしたらなまえがいるからだ。なまえはそこんとこ微塵もわかってない。

「堅治ってどんな女の子がタイプなの?」
「……それ聞いてどうすんの?」
「別にどうもしないけど」
「チッ」
「舌打ち!?」

なんだよどうもしないって。何かしろよ。

「じゃあ男としての一般的な意見としてさ、どんな女の子が可愛いって思う?」
「北川K子」
「いやそういうんじゃなくて。髪はロング?ショート?」
「……ミディアム」
「身長は?」
「160くらい」
「顔は?」
「タレ目」
「……他には?」
「甘い玉子焼きが作れる」
「おかしいよ堅治、それなら私モテモテのはずだよ」

いい加減気付けよバーカ。



( 2018.10-12 )
( 2022.7 修正 )

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