after2
※友人視点
「ねえねえ、佐久早くんってなまえちゃんの前だとどんな感じなの?」
「え?」
なまえちゃんが佐久早くんと付き合い始めたらしい。私は本人から報告してもらったけど、なんせ相手があの謎多き佐久早くんだから学部内の友達も噂を聞いて興味津々という感じだった。
佐久早くんは正直近寄りがたい。いつもマスクをしていて眉間に皺を寄せているイメージ。友達もあまりいないと思う。一見インドア派に見えてすごいバレーボール選手だっていうのはいいギャップだ。私もなまえちゃんと試合を観に行ったことあるけど、佐久早くんは1年生ながらに大活躍してて筋肉もすばらしかった。マスクの下の顔立ちも綺麗だった。そのギャップにやられて「佐久早くんいい」と言う女子はチラホラいる。
とは言っても佐久早くんの隣に並んで笑顔で話しかけられる女子はなまえちゃんくらいだ。クールなイメージが強い佐久早くんがなまえちゃんとどんな付き合いをしてるのかは正直すごく気になる。
「どんな感じって……今までとあまり変わらないよ」
「いや、その"今まで"がわからないんだよ。なまえちゃんの前だとデレデレなの?」
「そんなことないよー」
普段あんな感じの佐久早くんがなまえちゃんの前でだけにこにこしてたら、それはそれでまたいいギャップだと思ったんだけどな。でも恋人になったわけだから、当然デートをしたりキスをしたりはするはずだ。
「デートとかどこ行くの?」
「ご飯食べたりとか……まだゆっくりデートは出来てないんだぁ」
「そっかー」
佐久早くんは部活忙しいみたいだしなまえちゃんもバイトしてるからうまく予定が合わないのかな。それも含めて今一番楽しい時期なんだろうなあ。なまえちゃんからひしひしと伝わってくる。
「なまえ」
「あ、お疲れ様」
「4限なくなったから俺一回帰る」
「うんわかった」
そんなことをなまえちゃんと話していたらまさかの本人登場に内心焦った。第三者にお付き合いのことを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌がりそうだ。私は途端に口を閉じて、ふたりのやりとりを観察することにした。
なまえちゃんと話す佐久早くんは相変わらずマスクをしていて感情が読めないけど、心なしか眉間の皺はいつもより少ない気がした。
「今週の土曜日空いてる?」
「!」
これはもしかしてデートに誘おうとしてるんだろうか。そう思ったのはなまえちゃんも同じようで、ぱあっと表情が明るくなった。うんうん、良かったねぇ。ていうか佐久早くんって第三者がいる前でもこういうこと平気でできちゃう人なんだ。ちょっと意外。
「うん!空いてるよ!」
「インフルの予防接種受けに行くぞ」
「……うん」
え……えええーー……!いや大事だけれども。スポーツやってる佐久早くんは特に。なまえちゃんのことを心配してるからこそなのかもしれないけど!
デートを期待したなまえちゃんが目に見えて落ち込んでしまった。あああ可哀想に……よしよししてあげたい……。
「その後の予定はなまえが決めて」
「!」
ツ、ツンデレだと……!?
一回落としてから上げるという上級テクニックを駆使したのかと思いきや、これはきっとストレートに「デートしよう」って言うのが照れくさかったんだ。
「うんっ!」
ぱあっと花が咲いたような笑顔で頷くなまえちゃん。それを見て何やら満足気な佐久早くん。何このカップル可愛すぎる。
( 2020.7 )
( 2022.7 修正 )
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