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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
03

 
「テニス部やろ」
「いやいやそこはバレー部言えや」
「治は?」
「……弓道部」
「はあ?」

委員会の雑務でいつもより少し遅れて部室に入ると、2年生を中心に何やら話が盛り上がっていた。いろんな部活の名前が挙がっている。何の話してんだろ。

「パンチラに勝るもんはないやろ!」
「いや、治の言いたいこともわかる。見えへんとこに興奮するてことやろ」
「女バレも下けっこう短いしなんかエロない?」

特に会話には参加せず聞き耳をたてていると、ろくな話題じゃないことがわかってきた。我関せずが正解。

「なあ、角名は女子の部活のユニフォームどれが一番好き?」
「……」

ほら、くだらない。銀の質問をスル―して自分のロッカーを開けようとしたけどその前に侑に首をロックされた。

「フッフ、角名はバド部やんなあ!」
「はあ?」
「だってみょうじちゃんバド部やん」
「角名好きな子おんの!? 誰!?」

侑の言葉に銀が興奮気味に反応した。してやったりと笑う侑の顔がむかつく。まあ双子にバレた時点で別に隠すつもりもないけど。
それにしてもみょうじさんがバド部だったとは知らなかった。バドミントンって球技の中でもかなりスピード出るらしいから、動体視力とか反射神経が求められるスポーツだと思う。果たしてみょうじさんにそんな素早い動きができるのか。学校でのみょうじさんを見る限りでは想像がつかなかった。

「昨日の練習試合かっこよかった言うとったで! 俺に感謝せえよ〜」
「侑にお礼言うことなんてないと思うんだけど」
「絶妙なトス上げてやったやろが!」
「それはセッターの仕事」

先日の練習試合にみょうじさんが見学に来るってことは前日に侑から聞いていた。確かにいつもより俺へのトスが多かったような気もするけどお礼を言うようなことでもない。別に頼んでないし。
きっと侑は好きな子からの「かっこいい」を聞いて喜んだり照れたりする反応を期待したんだろう。残念、俺はみょうじさんのようにはいかないよ。

「ハッ……! 俺のトスが絶妙なんはいつものことやったな!」
「……」

俺は突っ込まない。さっさと着替えてさっさと体育館へ向かった。


***


「!」
「あ」

部活が始まってしまえばバレーバカはバレーに集中する。いつも通りの練習をこなして、休憩時間には絡まれないように体育館を出ると、偶然にもみょうじさんと出くわした。みょうじさんも部活中らしく、制服じゃなくてTシャツと短パンだからかなんだか新鮮に見えた。

「ひつじさんってバド部だったんだ」
「うん」

ユニフォームとはまた違うんだろうけど……惜しげもなく晒されている太腿にどうしても目がいってしまう。

「フッ」
「?」
「ごめん、毛糸のパンツ思い出した」
「!?」

白くて柔らかそうな太腿を見たのはこれが初めてではない。記憶を辿るとみょうじさんがこけた時の事を思い出してつい笑ってしまった。

「も、もう忘れてよー!」
「俺の中でけっこう大事な思い出になってるみたいだから無理かも」
「!?」

だってアレがなかったらこうやってみょうじさんと喋ってないだろうし。
青くなったり笑ったり、いろんな反応を見せてくれるみょうじさんのことが好きだ。自覚するのにそれ程時間もかからなかったし抵抗もなかった。今ここで好きだと伝えたらみょうじさんはどんな反応を見せてくれるんだろう。好奇心が疼いたけど、まだ我慢。

「角名くんってスケベやったんね……」
「別に毛糸のパンツに興奮してるわけじゃないから」

侑にも治にもすぐにバレたっていうのに本人にはいまいち伝わっていないみたいだ。女子のパンツを見ることができてただただ喜んでるアホだと思われるのは解せない。

「昨日試合観に来てくれたんだよね」
「うん」
「どうだった?」
「す、すごかった!」
「それから?」
「え……と……」

みょうじさん、俺のこと「かっこいい」って言ってくれたんでしょ?侑づてに言われても全然喜べない。やっぱりこういうのは本人から直接聞きたい。

「か……かっこよかった……」
「ん、どうも」

絞り出されたみょうじさんからの「かっこいい」は思っていたよりも嬉しくて、柄にもなく笑ってしまった。


***


夏休みに入り、茹だるような暑さが続く中でもインターハイの地区予選を制した俺達は毎日のように学校の体育館で汗を流している。夏はあまり好きじゃないけど、暑い日に食べるチューペットは好きだ。屋内スポーツの俺ですらこんなしんどいんだから屋外スポーツはヤバいだろうな。みょうじさん大丈夫かな、溶けてないかな。

「うぇーい!」
「……」

昼休憩のついでにテニスコートの方の自販機に行こうとしたら水をぶっかけられた。一瞬何が起きたかわからずその場に立ち尽くし、顔を右に向けたら子どものような笑顔を浮かべた双子がいた。二人とも既にビショビショだ。

「……何してんの」
「今日めっちゃ暑いやんか」
「インハイ出場決まったやんか」

俺は突っ込まない。絶対この双子に突っ込んでたまるか。おそらくだけど、インハイ全国行きが決まって上がったテンションとこの暑さが相まって水の掛け合いが始まったんだろう。別に何をしようが構わないけど人を巻き込まないでほしい。練習着びしょ濡れになったんだけど。

「次のターゲット発見!」
「くらえ銀!」
「うわっ!?」

次々と部員が餌食になっていくのを背中で感じとりながら、ビショビショになったTシャツを脱いで絞った。確かに今日はすごく暑い。練習で汗もかいたし冷たいシャワーを浴びたいって気持ちはわかる。わかるけど人にやるな。

「ひぎゃ!!」
「!」
「す、すまーん!!」

部員の声に混じって女子の悲鳴が聞こえた。その声に聞き覚えがあって振り返ると、案の定びしょ濡れになったみょうじさんがいた。

「みょうじちゃん大丈夫!?」
「だ、大丈夫……」

偶然近くを通りかかったみょうじさんに、侑が部員と間違えて水をかけてしまったらしい。いつもみょうじさんをいじってる侑もさすがにこれには顔を青くして謝った。

「ほんまごめん!」
「あ、うん、あの……」
「タオル使う?」
「いや、大丈夫……」

みょうじさんは反省して謝る双子と頑なに視線を合わせなかった。その理由は怒ってるとかじゃなくて、ただ単に恥ずかしいんだろう。水浴びの発端である双子は最初から上半身裸だったから。目のやり場に困って視線があちこちに泳いでいる。

「……!」

泳いだ先に俺の姿を捉えたみょうじさんは、途端に顔を赤くして視線を逸らした。双子に対しては視線を逸らしただけだったけど、俺に対しては赤面した。わかりやすい反応に自然と口角が上がってしまう。

「わっ!?」

俺はニヤけるのを抑えながら、自分が使おうと思っていたタオルをみょうじさんの頭に被せた。汗拭いてないやつだから臭くはないはず。

「す、角名くん……?」

こちらを見上げるみょうじさんを押さえ込むようにしてタオル越しに頭をわしゃわしゃした。俺だって好きな子の濡れた姿にドキドキしてるし、他の奴に見せたくないくらい思うから。

「あの、角名くん、もうええよ!」

もういいと顔を上げたみょうじさんの顔は真っ赤で、そうさせたのが他でもない自分だと思うともうニヤけるのを抑えられなかった。

「それ、洗濯して返してね」
「あ、うん。ありがとう」
「俺のラインのID侑から聞いて」
「えっ」
「夏休み明けまでは待てないから」
「!」

このタオルはみょうじさんに預けておこう。別に洗濯してもらわなくてもいいんだけど、そうすれば学校がない夏休みでもみょうじさんと会う口実ができる。



( 2018.9-10 )
( 2022.5 修正 )

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