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( 金丸視点 )
そわそわ。
そんな効果音がつきそうなくらい今日の沢村は落ち着きがなかった。
…うざい。別にいつもみたいにうるさいわけじゃないけど…動きがうざい。
「沢村くん今日誕生日なんだよね。おめでとう。」
「おおう!まあな!」
動きに落ち着きがない沢村に吉川さんが声をかけた。
…なるほどそういうことか。あいつ今日誕生日なのか。
「名字先輩からもらえるといいね。」
「べ、別に!それを楽しみにしてるわけでは…!」
名字先輩っていうのは2年のマネージャーの人だ。
なんでも部員の誕生日にお菓子を作ってくれるらしい。
俺は直接見てないけど、話に聞くとめちゃくちゃうまいらしい。
そうじゃなくても誕生日に女子から手作りお菓子を貰えるなんて…すげー嬉しいじゃねーか。
でも俺たちまだ入部したばっかの1年だぜ?
先輩と同じように貰えるとは限らねーだろ。
「沢村ー先輩呼んでんぞ。」
「なに!?…ってなんだ倉持先輩か…。」
「俺じゃわりーのかよぶっとばすぞ。」
先輩に呼ばれてると聞いて目を輝かしたが、そこにいるのが倉持先輩だとわかると肩を落とした。失礼なやつだ。
「お前の携帯寮の廊下に落ちてたぞ。」
「あ!あざす!」
「若菜にメール返しといてやったぞ。」
「何してんすか!?」
…てか、何でこいつなんかがレギュラーの先輩と馴れ馴れしく話してんだよ。
「金丸くん!」
「!?」
ぼーっと沢村を見ていたら後ろから声をかけられた。
着席している俺を盾に沢村の様子を盗み見ているのは名字先輩だった。
「沢村くんの席どこ?」
「そこっすけど…」
「ありがと!」
沢村の席を教えると、名字先輩は無駄のない動きでその机の上に綺麗にラッピングされたものを置いた。
沢村はまだ倉持先輩と話していて気付いていない。
「金丸くん、どうかこのことは内密に。」
「はあ…。」
戻ってきた名字先輩は満足気でいたずらに笑っていた。
誕生日のお菓子を気にしてる沢村にサプライズを仕掛けようってことなのか。
「金丸くんに任務をひとつ任せます。」
「え…」
「このクッキーを見つけた時の沢村くんの様子をカメラにおさえること!」
「はあ…。」
「ぷくく!いい反応してくれるだろうなー!ほんとはふつーに渡そうと思ってたんだけどさ、倉持が昨日から沢村くん落ち着きがないって教えてくれたからサプライズにしたの!」
サプライズでテンションが上がってるのか、名字先輩はすごく饒舌に話してくれた。
「金丸くんも8月、楽しみにしてていいよ!」
「は…」
その言葉の意味を俺が理解する前に名字先輩は行ってしまった。
8月は、俺の誕生日だ。
…つーか、俺の名前知ってたんだ…。
「うおおおおこれは…!?」
「よかったね、沢村くん。」
俺が激写した沢村のリアクションは、翌日には野球部内中に拡散された。
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