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「あのさ、3日の夜いる?」
「いるけど。」


なんとなく異変は感じていた。
年末に帰省してきた姉は前に会った時よりも雰囲気が変わっていて、少し落ち着かない様子だった。
年が明けて2日の夕方。僕の部屋を訪ねてきて内容の薄い話をしているなと思ったら、これから切り出される本題に概ね予想がついた。


「会ってほしい人がいるんだよね。」


その予想は見事的中した。












あまり知られていないが僕にはひとつ上の姉がいる。
高校までは県内の女子校に通い、大学進学を機に宮城を出た。就職もそのまま向こうでして、こっちには長期休みのタイミングで年に何回か帰ってきている。
実の姉にこういうことは言いたくないけど、夏の長期休暇で帰ってきた時よりも綺麗になったと思う。その理由は単純明快で、恋人ができたからだった。


「吐きそう……」
「やめてよ。」


同じく会ってほしい人がいると打ち明けられ、恋人を迎えに行った姉を一緒に待つ兄はこの様子だ。そこは長男としてドンと構えていてほしい。
恋人については、同じ職場で知り合ったということしか聞かされていない。優しくていい人みたいなことも言ってたけどそこらへんは自分の目で見てから判断するから聞き流した。
青春時代を女子校で過ごしてきた姉がまさか恋人を連れてくる日が来るなんて。元々そういう話は家族でしないから姉の今までの恋愛歴は知らない。


「めちゃくちゃチャラかったらどうしよう。」
「……」


心配しすぎ、と笑えればよかったけど残念ながら可能性は大いにありえる。しっかりしていそうに見えて実は抜けている姉だ、正直男を見る目があるのかは信用ならない。
ていうか結婚する確約もないのに、よく恋人を家族に紹介できるな。その後別れたら気まずいと思うんだけど。別れない自信があるんだろうか。


「ただいまー。」


玄関先から姉の声が聞こえて両親が出迎えに行った。家族の声に知らない男の人の声が混じって聞こえる。変な感じだ。
コミュニケーション能力に長けてるわけではないけれど学生の頃からいろんな人間と関わってきた。ちょっと変わってるくらいじゃ驚かない自信はある。


「!?」
「え……マジ?」


だがしかし、姉の恋人が知人だった場合は流石に動揺する。いや知人と呼べる程の関わりでもないけど。
とりあえず猫被って当たり障りなく挨拶しとこうと思ってたのに、高校の時に何度か対戦した相手を前に目を丸くすることしかできなかった。


「え、知り合い?」
「うん、バレーで。烏野のミドルブロッカーだよね。高校の時何度か試合したよ。」


姉の職場がEJPであることは知っていたし、EJPライジンに角名さんが所属しているとこも知っていた。V1の選手といえどもほとんどは普段は会社員だ。姉と接点がないこともないだろう。でも、まさか恋人だなんて。


「まさか名前の弟さんが君だったなんてね……久しぶり。」
「……どうも。」


向こうも恋人の弟が僕だったことに多少なりとも驚いてるみたいだ。演技ではないと思う。
角名さんが普段どういう人なのかは知らないけど、正直ネットを挟んで対峙した時あまりいい印象はない。プレースタイルは冷静で狡猾。食えないタイプだと思う。「あんたブロック上手だよ」と嫌味たっぷりに言われたことは忘れない。
もし遊ばれてるだけだったらどうしよう。失礼極まりないが角名さんの印象と騙されやすい姉のことを考えるとどうしても疑ってしまった。
大丈夫だとは思うけど一応注意深く観察しておこう。

















「明日も休みだったら泊まっていったらどう?」


顔合わせはとても和やかな雰囲気で進んでいた。角名さんの言動は丁寧で好印象。両親も角名さんのことを気に入った様子で泊まりの提案までしてきた。


「いえ、さすがにご迷惑じゃあ……」
「いいのいいの!使ってないお布団もあるし!」


さすがに角名さんも遠慮したけど気を良くした両親に圧され、最終的には頷いてしまった。そうなると準備しなくちゃと母が2階へ上がっていって、その後すぐに重くて大変だからと父も呼び出されて行ってしまった。


「ちょっとトイレ行ってくる。」


そしてこの状況でトイレに行く空気の読めない姉。ちなみに兄は角名さんとバレーの話で盛り上がり、早々に酔い潰れてソファで寝ている。
実質角名さんと2人きりの空間になった。ありえないんですけど。


「そう警戒しなくてもちゃんと本気だから大丈夫だよ。」
「……」


どうやら僕が疑念を抱いてることは感じ取ってるようだ。まあ隠すつもりもない。大丈夫と言われてもその言葉を鵜呑みすることはできなかった。猫を被るのが上手い人だ、本心は測れない。


「姉のどこがいいんですか?」
「お人好しで騙されやすいところかな。」
「……」


一応聞いてみると、微妙な答えが返ってきた。確かに姉はお人好しだ。それは長所であると同時に短所でもあって、結果的に騙されやすい人間となってしまう。角名さんの返答は僕の疑念を更に助長させた。


「だから、一生護りたいって思わされたんだよね。」
「!」


しかし次の言葉でちゃんと本気なんだなと思ってしまった。一方で反応に困る。この人、涼しい顔ですごくクサいこと言ってきた。


「これから長い付き合いになると思うから、改めてよろしく……蛍くん。」


姉に対して本気なのは確かめられたけど、まだ現実と未来を受け入れられそうにない。まったく我が姉ながらクセのある男を引っ掛けたものだ。
鳥肌がたつのを感じながら、角名さんの名前って何だっけと考えた。




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素敵なリクエストをありがとうございました!