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聖臣と同棲して2週間。同棲を始める前から休みの前日は毎回うちに泊まりに来ていたから、彼の生活習慣だとかこだわりだとかはある程度理解できてるつもりだった。それでもやっぱり一緒に暮らしてみるといろいろと新しい発見があるものだ。


「何してるの?」
「爪。」


お風呂から出たら何やら聖臣が熱心に爪をいじっていた。「何してるの」の問いかけに「爪」と単語のみの返答は不親切すぎる。それ程集中しているということで許してあげるけど。
よく見てみると聖臣は爪にやすりをかけていて、テーブルの上には何やらよくわからない道具がずらーっと並んでいた。


「こんなんあるんだ。」
「爪割れたりすんの嫌だから。」
「ふーん。毎日するの?」
「2週間に1回くらい。」


聖臣のことだからバレーのためだとは思った。多分ミリ単位で違和感に気付くんだろう。爪を磨く真剣な表情は職人のそれだった。聖臣はバレーボール選手じゃなかったら陶芸家とか、一人で黙々と作業する仕事が向いてるのかもしれない。
私もネイルはたまにするけどこういうケアは自分でちゃんとしたことがないから興味はある。


「ね、私もしてみたい。」
「……手、貸して。」
「やってくれるの?」
「名前不器用だろ。」
「失礼な!そうだけど。」


ダメ元で言ってみたら聖臣直々にやってくれるらしい。軽い小言は言いつつ手先が不器用なのは事実だから素直に手を差し出した。


「動かすなよ。」
「うん。」


私の手を取った聖臣は一本一本の爪に丁寧にやすりをかけていった。痛いのは嫌だから言われた通りにじっとする。こうやって聖臣の指をまじまじと見るのは初めてかもしれない。ちゃんと手入れしてるから男の人の指にしては綺麗な方だと思う。
繊細な指使いがなんだかセクシーで見惚れていたら指先にふーっと息を吹きかけられてドキッとした。


「あ、ありがと!」
「は?まだ右手しかやってねェ。」
「なんか、うん、もういいよ。」
「俺がよくねェんだよ。」


変なドキドキが治まらなくて引っ込めようとした左手を聖臣が捕まえた。やばい、一度やったらとことんやる性格が出てしまったみたいだ。こうなったら私が何を言っても聞かないから、変な気分にならないように、妙な色気を醸し出す聖臣の指から視線を外して必死で別のことを考えた。


「よし。」
「ありがと……」


見ないようにしたらしたで指の感触ばかりに意識がいって結局あまり意味はなかったかもしれない。終わった直後は聖臣の顔を直視できなかった。


「次は甘皮処理な。」
「えッまだあるの?」
「当たり前だろ。甘皮処理して表面磨いてオイル塗ってマッサージする。」
「ええ〜〜……いいよそこまでしなくて……」


ネイルケアって私が思ってたよりずっとめんどくさかった。これ以上聖臣に手を触られたら確実に変な気分になってしまう。しかしやっぱり聖臣は私の手を逃してはくれなかった。


「俺がよくねェって言ってんだろ。」
「ちょ、ちょっと待って何その道具怖い。」
「甘皮を削ぐ。」
「え!?やだやだ怖いってば!!」


見慣れない器具と物騒な単語に恐怖を感じた。嫌がる私を押さえつける聖臣はどことなく楽しそうだ。
結局全然痛くはなくて、観念した私は大人しく聖臣にされるがままとなった。よくわからないけどお店でやってもらったらそれなりの値段がする、丁寧で贅沢なフルコースだったんだと思う。
ネイリストも向いてるのかもしれないと思ったけど他人の指触るのは嫌がるだろうなとすぐに打ち消した。


「なんかすごく疲れた。」
「俺は楽しかった。」


でしょうね、珍しく楽しそうで何よりですよと心の中で皮肉を言う。
でも実際その仕事ぶりは大したもので、私の爪は人生で一番綺麗な光沢を放っていた。触り心地もすべすべして気持ちいい。


「てか聖臣オイル塗ってなくない?」
「……」


そういえば私が声をかけた時、聖臣はやすりがけが終わったところだった。その後にまだまだ工程があると知った今、私のせいで中断させてしまったんじゃないかと気づいた。


「今から使うからな。」
「?」


晩ご飯も食べて風呂にも入って、あとは寝るだけなのにいったい何に使うんだろう。首を傾げていたら聖臣か徐に立ち上がった。


「先ベッド行ってて。」
「!!」


ここでようやく意味を理解した。せっかく変な気分にならないように頑張っていたのに無駄な努力だったみたいだ。
歯を磨きに行った聖臣を見送った後、私は言われた通りにベッドの上で爪のオイルが乾くのを待った。



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ネイルケア詳しくないので調べましたが違和感あったらすみません……。
素敵なリクエストありがとうございました!