×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
 
「名字さんこれありがと」
「いいえー。面白かった?」
「すげー面白かった!今さ、実写映画やってるよね」
「うん。私来週友達と行くんだー、楽しみ」
「そ、そっかー!」

今、アプローチを受けてる男子がいる。隣のクラスの鈴木くん。漫画の趣味が同じことがきっかけで仲良くなって、一昨日貸したオススメの漫画をもう読み終えてくれたらしい。実写映画の話題を出したのはきっとデートに誘うため。その後に続いたであろう「一緒に観に行こう」の言葉を封じるため私は先手を打った。

「……めんどくさそうなことになってんな」
「めんどくさいっていうか……ちょっと困っちゃうよね」

鈴木くんが教室を出た後、後ろの席の国見くんに声をかけられた。机に突っ伏してたからいつもみたいに寝てると思ってたのに、しっかり聞き耳をたてていたらしい。

「はっきり言えばいいのに。寄ってくんなって」
「言えないよ、友達としては好きだもん」
「……」

私の返答を聞いて国見くんは不服そうに眉間に皺を寄せた。八方美人なヤツって思われてるのかもしれない。でも鈴木くんとはこれからも普通に友達として仲良くしていきたいと思ってる。国見くんが言うように、割り切ってぞんざいな扱いはできない。

「普通に仲良くしたいんだけどねぇ」
「向こうに恋愛感情がある限り無理だろ」
「うーん……」

実際過去に仲の良い友達だと思っていた男の子に告白されて、丁重に断ったらそれ以降ぎこちなくなってしまったこともある。
昔から男の子がやるような遊びが好きで男友達が多い方だった。小さい頃はそれが普通だったのに、身体と精神が成長するにつれて単純に友情だけで付き合える男の子ばかりではないということを知った。男女の友情は成り立たないとよく聞くけど、私はその言葉を信じたくない。

「鈴木は適当にあしらえるかもしれないけど、もし名字の手に負えない奴が本気になったらどうすんの?」
「うん……」

国見くんの言う通りだ。さっきみたいに誰でもうまく躱せるわけじゃないだろうし、万が一力で迫られたら敵わない。少しキツい言い方にも聞こえる国見くんの言葉は、私のことを心配してくれるからこそだ。

「あんま男と二人きりにならない方がいいんじゃね」
「うん、そうだね」

こうやって心配してくれるのは友達としてなのか、それとも……。国見くんはどっちなんだろうと、最近よく考えてしまう。
放課後の人が疎らになった教室。国見くんとふたりきりのような空間を、誰にも邪魔されたくないと私が思ってることを知ったら、国見くんは私から離れていってしまうんだろうか。


***


「最近国見がイライラしてんだけど何かしたの?」
「え、してないよ」

金田一くんとは国見くんづてで仲良くなった。国見くんと同じバレー部で、たまに空気読めない時があるけど素直でいい人だ。一人の時間を大事にする国見くんの数少ない理解者だと思っている。
国見くんがイライラしてる原因は知らない。ましてや私自身が原因になるようなことなんて……うん、心当たりがない。ただひとつ以前と変わったことを挙げるとしたら、私の国見くんへの態度だ。はっきりと国見くんのことが好きだと自覚して以来、国見くんとうまく喋れなくなってしまった。見れば見る程かっこいいって思うし、声を聞くだけでドキドキする。今までどんな感じで国見くんと喋っていたかわからなくなってしまったのだ。
国見くんからしたら私のこの変化は、怪訝に思うことはあってもイライラの要因になることはないはずだ。基本的に国見くんはあまり物事に執着しない。

「ねえ、国見くんの好きな女の子のタイプ知ってる?」
「……は?」

そもそも国見くんって恋とかするんだろうか。好きな女の子に夢中になる国見くんがどうしても想像できない。我ながら難しい人を好きになってしまったものだ。
今更もう遅いかもしれないけれど情報はあるに越したことはない。金田一くんを国見くんの親友と見込んでの質問だったのに、金田一くんは「何を言ってるんだ」という表情で私を見てきた。

「あー……俺先輩に呼ばれてるんだった。じゃあな」
「え、ちょっと……」

金田一くんは私の質問に答えることなく一方的に去ってしまった。そんなに変な質問をしただろうか。もしかして恋愛関係のことは国見くんに口止めされてるのかな。

「金田一と何話してたの」
「!? び、吃驚した……!」

気配もなく私の背後から声をかけてきたのはまさしく国見くんで心臓が飛び出るかと思った。金田一くんと何を話してたかって、そんなの本人に言えるわけない。

「二人きりになるなって言ったのもう忘れたのかよ」
「金田一くんはそういう感じじゃないもん。そのくらいわかるよ」
「ふーん……」

金田一くんが言っていた通り、国見くんはなんだかイライラしてるように見えた。男子と二人きりになるなっていう国見くんの忠告を無視したから?いやいや、金田一くんにそういう心配は一切無用だってことは国見くんもわかってるはずなのに。何をそんな神経質になっているのかわからない。

「じゃあ俺は?」
「!」

そんなの私が聞きたいくらいだ。今国見くんが何を思ってそんな質問をしているのか……何を思って、こんなに距離を縮めてくるのか。威圧感とバクバクと煩い心臓に怖気づいて一歩後ずさると、これ以上動くなと言わんばかりに腕を掴まれた。

「俺、名字の手に負えないと思うけど……どうする?」
「!?」

どうするも何も、両想いだったら最高なんですけど。核心的な言葉をくれないことにもどかしさを感じて見上げると、国見くんは満足そうに笑っていた。確かに、この人は私の手には負えない。ずるい、好き。