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高校2年の4月くらいに、北さんと仲よさげに喋る女子を見た。彼女の名前は名字さん。恋人というわけではなくて普通に仲が良いってだけらしい。彼女だったら面白かったのにと少し残念に思ったけど、仲の良い友達だったら北さんの弱点を知ってるかもしれない。後日、名字さんと一緒の委員会だったことが判明して俺は迷わず声をかけた。

「角名くんって北くんのこと大好きやんな」
「……」

北さんに関しての探りを入れまくっていたせいであらぬ誤解を生んでしまった。いやまあ嫌いではないし良い先輩だとは思うけど大好きとまではいかない。名字さんってもしかして『そういう世界観』を好む女子なのかな……変な想像をされてたら嫌だ。
北さんの弱点を知るために近づいた名字さんは、掴めない性格でマイペースな人だった。北さんのことを聞いてもなんやかんやはぐらかされて、明確な答えが返ってきた試しがない。単に知らないからなのか、知らないフリをしているのか、今の段階では判断できなかった。北さんに対しても本当のところどう思ってるんだろう。恋愛感情があればそれはそれで面白いのに、名字さんの真意は見えてこない。俺が言うのもなんだけど食えない人だと思う。

「いやー、北さんの弱点を知りたくて」
「北くんの弱点?わからんなぁ」

これ以上探ったところで名字さんは情報を零さないんだろう。ストレートに聞いて知らないって言うんだったら、本当に知らないのかもしれない。これ以上は不毛だ。

「なーんだ」
「?」
「私目当てで来てくれてたんと違うんかぁ……残念」
「!」

何すかそれ。急にぶっこまれていつもの調子で返答できなかった。頭の回転の速さにはそれなりに自信があるのに。
名字さんを見てもニコニコと笑みを浮かべていてやっぱり真意はわからない。どこまで本気なんだか。あえて聞かないようにした。女子にこんな感じでドキドキさせられたのは初めてで少し悔しいけど、俺だって簡単に掌で転がさるようなタイプではない。そっちがその気なら、今度は名字さん目当てで会いに行ってやる。


***


「治くんほんまかわええ。癒し」
「どうも」

『小悪魔』ってこういう人のことを言うんだろうなあと思う。
俺にあんな思わせぶりな発言をしておいて、もう名字さんの興味は他に移ってしまったようだ。最近の名字さんは治がお気に入りらしい。治の何がそんな名字さんのツボに入ったかはわからない。こんな図体でかい男のどこに可愛さを見出せるんだか。名字さんは男相手にも平気でスキンシップとれる人だし、治も治で基本的に来る者拒まずだから周りから見たらそういう関係に見えてしまう。その様を間近で見せつけられる俺の気持ちにもなってほしい。腹立つ。これを計算でやってるんだとしたら、小悪魔通り越して魔性の女だよ、本当。

「名字さん」
「あ、角名くん」

治に手を振った後の名字さんを捕まえた。治に向けたのと同じような笑顔にまた腹が立った。他の奴と同じ対応が気に入らないなんて決定的だ。

「何?私本当に北くんの弱点知らんよ」
「はい。名字さん目当てで来ました」
「ふふ、ありがと」

動揺させてやろうとストレートな言い方をしたのに、名字さんは大人っぽく笑うだけだった。どうしたらこの人のペースを崩せるんだろう。……なんて、こんなこと考えてる時点で俺はもう名字さんの術中にハマってしまっている。

「名字さんのこともっと教えてください」
「彼氏はおらんよ」
「……」
「あれ、そういうことと違う?」

どこまでわかって言ってるんだか。こういう駆け引きは楽しむ方だけど、両者仕掛ける方じゃあ埒が明かない。どちらかが折れないといつまで経っても平行線のままだ。モタモタしてるうちにどこぞの勘違い野郎が出てきてめんどくさいことになるのはごめんだ。

「名字さんって性格捻くれてますね」
「えー何それ酷ない?」

この人からの愛が欲しいと、本気で思わされた。「惚れた方が負け」っていう先人の考え方は間違っていなかったらしい。

「好きな人に振り向いてほしくて必死なだけなんよ」

あーもう本当そういうとこ。はいはい、俺の負けでいいっすよ。ただ、煽って火をつけたのは名字さんの方なんで責任はとってもらいますからね。