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「#エロ」のBL小説を読む
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「名前ちゃんお願い……!」
「いいけど……」


一生のお願いと言わんばかりに頼まれたら断れない。我ながら損な性格をしてると思うけど、眉を下げる優子ちゃんを見たらやっぱり力になりたいと思ったんだから仕方ない。
窓側一番後ろの席に座って無表情で外を眺める人物に目を向ける。確かに、影山くんはちょっと話しかけづらい雰囲気が出てる。背も高いから威圧感があって優子ちゃんみたいな内気な女の子は気圧されてしまうんだろう。一生のお願いの内容は、朝集めるように言われた数学の宿題を出してもらうこと。朝のHRから居眠りを決めていた影山くんの分が足りないらしい。数学の佐藤先生は提出物には煩い。影山くんだけならまだしも、教科委員の優子ちゃんの評価まで下がってしまうのはよくない。これも学級委員の務めだと腹をくくった。


「影山くん。」
「……?」


影山くんと話すのはこれが初めてだ。影山くんは孤立してるってわけじゃないんだけどあまり社交的なタイプではないと思う。特に女の子と話してる姿は印象に無い。
声をかけると切れ長の目が私を見上げた。座っていてくれてよかった。確かにこの鋭い視線を上から落とされたら怯んじゃうだろうなぁ。


「数学の宿題まだ出してないよね?」
「あ……すんません、後で自分で出し行くんで。」
「今持ってない?多分先生も早めにチェックしたいだろうし、集めるように言われてる教科委員のためにも今出してあげてほしいんだけど。」
「……」


……しまった、少し言い方がキツく聞こえてしまったかもしれない。全部言い終わってから後悔した。私は小さい頃から良くも悪くもものをはっきり言ってしまうことが多くて、その言葉が知らないうちに人を傷つけてしまったこともあった。


「そうか。悪い。」


怒らせてしまったかもしれないと内心冷や汗をかいてると、影山くんはあっけらかんと素直に謝ってくれた。どうやら特に気にしてないみたいだ……良かった。


「最後の問題だけ空欄だけどいいすか。」
「佐藤先生、空欄許さないタイプだから間違っても何か書いた方がいいよ。」
「うす。」


影山くんって、意外と素直でいい子なのかもしれない。私に言われた通り最後の解答欄に書いた「x=5」の文字は年相応の男の子らしくて少し可愛いと思った。
















半年も経てばクラスメイト同士もだいぶ打ち解けてきていい雰囲気のクラスになったと思う。影山くんも最初こそとっつきにくい印象があったけど、意外とおバカさんだったり天然だったりという素の部分が見えてきてクラスの愛されキャラ的なポジションに落ち着き始めている。


「名字さんこれ影山に渡しといて〜。」
「いいけど……自分で渡せばいいんじゃ……」
「だって名字さん、"影山係"じゃん?」
「何それ。」


そして私はいつの間にか「影山係」というよくわからないポジションを押し付けられていた。今みたいに影山くんへのおつかいを頼まれたり、伝言を頼まれたり。挙句の果てには先生からも影山くんの勉強の面倒を見るように頼まれることもある。私=「影山係」という認識は私が思っているより広く伝わってしまっているらしい。


「名字さん、勉強教えて。ください。」
「うん、いいよー。」


影山くんも影山くんで、何か困ったことがあると私を頼ってくるようになった。勉強のこととか、提出物のこととか。別に全然嫌とかじゃない。むしろ生まれたての雛鳥に懐かれてるような感覚があって嬉しいと思う。……今の例えは失礼だったかな。口に出さないように気を付けよう。
私自身、あまり男子と仲良くするタイプではないから影山くんという存在は新鮮で特別に思えた。


「影山くんって勉強あまり好きじゃなさそうだけど、ちゃんとやるよね。」
「勉強はあんまだけど……バレーやれなくなるのは困るんで。」


影山くんはバレーが上手らしい。観に行ったことはないけど夏の大会では1年生ながらにユニフォームを貰って大活躍だったんだと友達から聞いた。次は秋くらいに大会の試合があるらしいから今度は観に行こうと思ってる。
赤点を心配する程苦手な勉強もバレーのためなら頑張れるらしい。「バレー好きなんだね」と言ったら素早い反応で頷いた。可愛い。好きなものを自信を持って好きと言えるのは、簡単そうに見えて誰もができることじゃない。


「バレーのためだったら勉強するのもメシ食うのと同じで、必要な過程だって思える。」
「あはは、そういう考え方好き。」
「!」


影山くんの考え方には共感することが多い。苦手だからと最初から諦めようとはせず、好きなもののために真摯に向き合うっていう考え方は好きだ。また思ったことをそのまま言ってしまってハッとした。男の子に対して「好き」なんて、変に捉えられちゃうかもしれない。……いや、鈍感な影山くんに限ってそんなことあるわけないか。


「俺も……名字さんのこと好き。」
「え……んん?」


チラリと影山くんを見ると、熱っぽい視線を向けてとんでもないことを言ってきた。私の想像を120%の勢いで裏切ってくるとは流石影山くんだ。影山くんの性格からして、からかってるっていうのは考えにくい。勘違いさせてしまったうえに突拍子もない告白までさせてしまうなんて……どうすればいいんだろう。真っ赤な顔でそんなまっすぐに見つめられたら、「何冗談言ってるの」ってからかうこともできないじゃん……。


「ちょ、ちょっと……!」
「付き合うってことで、いいすか。」
「へ!?いや、あのね!?」


影山くんの熱のこもった視線から逃げられない。尚且つ、影山くんは机の上でシャーペンを握る私の手を、大きな掌で包んできた。そこから影山くんの熱が移ってきたのか、私まで熱くなってきた。
どうしよう、影山くんが暴走してしまっている。「勘違いしてるよ」って、いつもみたいにはっきり言えばいいのに何故かその言葉が出てこない。影山くんの喜ぶ顔が見たいと……影山くんが望むものを与えたいと思ってしまっている。


「よ、よろしくお願いします……。」
「!」


返事を聞いてぱあっと表情が明るくなった影山くんに、私の気持ちはいとも簡単に奪われたのだった。




■■
・自分の考えを堂々と主張できる
・頭が良く論理的思考で説得力がある
・周りから慕われて中心人物になる
・気が合う相手と一緒にいることで安心感や安定を求める
・世話好きで自分のことよりも相手のことを大切にする


リクエストありがとうございました!