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「佐久早くん」

朝練を終えて教室に入ると早々に名字さんに話しかけられた。内容は何でもない、英語の宿題やったかという話だった。相手は別に俺じゃなくてもいいはずだし見せてほしいというわけでもなく、「今日も一日頑張ろうね」と会話が終わった。正直、どうでもいい話だ。
俺と話してる時の名字さんは終始ニコニコしている。勘違いじゃなくて、好かれてるんだと思う。誰かから好意を寄せられること自体は初めてじゃない。まあ嫌な気はしないけど、申し訳ないって気持ちの方が勝つ。名字さんが悪いとかじゃなくて、俺は名字さんの気持ちに応えられないからだ。早く諦めてもらった方が名字さんのためにもなる。ただ、告白されたわけではないから俺からはどうしようもないってのがもどかしかった。さっさと告白でもしてくれればきっぱり諦めてもらえるのに。


***


「!」
「……」

土曜日の部活帰り。古森の誘いを断って一人で家に直行していたら、信号待ちで名字さんと遭遇した。

「え、と、こんにちは」
「……うん」

名字さんは目を丸くして驚いた後わかりやすく喜んだ。前世は犬なんじゃないかってくらいのわかりやすさだ。
こんな街中で偶然会うってどんな確率だよ。もしかして後でもつけられてたんだろうか。そんなストーカーじみたこと名字さんがするとは思えないけど、人間誰しも周りに隠してることはあるし俺はそこまで名字さんのことを理解してるわけでもない。

「あ……そうだ、佐久早くんに伝えたいことがあって……」

名字さんが改まって口を開いた時、ついに告白されると直感で思った。無意識に身構えて、できる限り波風立てない断り方を探した。俺の言葉は意識してなくても人を傷つける時があると、古森に説教されたことがある。

「インターハイ、頑張ってね!」
「……は?」
「え?」
「……それだけ?」
「う、うん……あ、応援行くね」

顔を真っ赤にして、一世一代の大告白のような雰囲気を醸し出しといて何を言ってるんだ。「部活頑張れ、応援してる」なんて挨拶のように日々言われる言葉だ。そんなんで終わるわけないといくら待っても、名字さんから次の言葉は出てこなかった。

「他に言いたいこととかないの」
「え? うーん……」
「……俺のこと好きなんじゃねェの」
「えっ」
「あ」

早く白黒つけたくてつい俺の方から言ってしまった。なんかすげぇ自意識過剰野郎みたいじゃねえか。いやでも言ってることは間違ってはいないはずだ。

「あ……の……」

きょとんとしていた名字さんの顔が段々と赤く染まっていき、急にしおらしくなった。

「……は?」

嘘だろ、まさか今気付いたとか言うなよ。今の言葉がきっかけで自覚したんだとしたら、俺はとてつもなく余計なことを口走ってしまったのでは。

「何でもねえ。聞かなかったことにして」
「ううんっ」

今言ったこと全部なかったことにしたい。そんな俺の気持ちとは裏腹に、名字さんは勢いよく首を横に振った。勢いが良すぎて髪の毛がぐしゃぐしゃだ。女子ってそういうの気にするんじゃねえの。

「き、気付かせてくれてありがとう……!」

顔にかかった髪を耳にかけて、真っ赤な顔で俺を見上げてくる名字さんは、俺自身よくわかっていないムズムズとした感情を掻き立ててきた。
そんなつもりじゃねえ……とは何故か口に出せず、横断歩道を走っていく名字さんを呆然と見送った。我に返った時、青い歩行者信号は点滅していた。