×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
 
若利くんと付き合うことになったのは十月の始め。部活が忙しくてなかなかじっくりデートできない日々が続いたけど、部活を引退してからは意識的に私との時間を取ってくれてると思う。別に不満はなかった。バレーを楽しそうにやっている若利くんを見るのが好きだし、時折このタイミングで?っていうところでストレートに好意を伝えてくれていたし。きっと自惚れではなく大事にされていると実感できているから、私はとても幸せな彼女だと思う。
ただ、もし、多くを望んでいいのなら……ワガママを言ってもいいのなら、もっと触れたい。手を、繋ぎたい。

「くだらねェーー」
「ひ、ひどい!私は真剣に……!」

この件について天童くんに相談してみたら盛大に呆れられてしまった。若利くんのマブダチと見込んでの相談だったのに、こんな感じで一蹴されるとは思ってなかった。ひどい。

「繋ぎたいなら繋げばいいんでない?」
「男の子って、あまり手を繋ぎたいとか思わないのかなって……」

付き合って2ヵ月……何も進展がなかったというわけではない。キスとかは、したし。だから天童くんも「今更何言ってんの」って思ってるんだろう。
これは男女の考えの違いなのかもしれない。女の子にとって『手を繋ぐ』という行為は、お付き合いをしていく中で重要なステップなのだ。少なくとも私にとっては。

「嫌ってことはないでしょ。いつもみたいに恥じらいながらぎゅってしたら若利くんもきっとムラっとするよ!」
「ムラっとさせたいわけじゃないよ!」

天童くんからのアドバイスは適当にあしらわれた感が否めなかったけど、背中は押してくれたんだと思う。今週末のデートでは思い切って私から手を握ってみよう。


***


「……」

そして映画デート当日。待ち合わせてから映画館に到着するまで、私は何度も手を繋ごうとトライしてみたけど未だに繋げないでいた。作戦としては隣を歩いてる時にさりげなく手をぶつけてお互い意識して……みたいな感じを考えていた。しかし。私と若利くんの身長差ではどう足掻いても手の甲同士がぶつかることはなかった。盲点だった。

「気分でも悪いのか?」
「え!ううん大丈夫だよ!」

結局手を繋げずに映画館に到着してしまったことに落ち込む私を、若利くんが心配そうに覗き込んだ。いらぬ心配をかけてしまって更に後悔する。純粋に映画を楽しもうとしてる若利くんに対して邪念だらけな自分が恥ずかしい。

「楽しみだね!」
「……ああ」

今は若利くんと一緒に映画を観ることに集中しなくちゃ。若利くんは背が高いから毎回一番後ろの席を選ぶようにしてる。それから、映画を観始めたらお互い夢中になってしまうからポップコーンなどのフードは頼まず飲み物だけっていうのが私達のスタイルだ。私はオレンジジュース、若利くんは黒烏龍茶。
今回の映画は私の好みで選ばせてもらった。中学生の時に読んだ小説が映画化されるということですごく楽しみにしていた。このことを話した時、若利くんは映画を観る前に小説を読みたいと言ってくれた。好きな人が自分の好きなものに興味を持ってくれるのは幸せなことだ。きっと映画も真剣に観てくれるに違いない。若利くんのこういうところが大好きだ。

「あ、始まるね」

上映時間丁度にブザーが鳴り響き、段々と照明が落ちてスクリーンの明かりが鮮明になっていく。これからしばらくCMが続いて物語自体は始まらないけど、わくわく感が蓄積されていくこの時間も私は嫌いじゃない。若利くんもこういうのは真剣に観るタイプだ。

「……!」

隣に座る若利くんをチラリと見上げたらしっかりと目が合って驚いてしまった。スクリーンを真剣に見つめる横顔を盗み見ようとしたのに。何か話すべきか迷っていると膝の上に置いた私の手に若利くんの手が覆いかぶさった。

「!?」
「こうしたいのかと思ったんだが……違ったか?」
「っ、ううん」

なんと、今日一日私が手を繋ごうと試行錯誤していたのは若利くんにバレバレだったようだ。なんとも言えない恥ずかしさがこみ上げてくると同時に、天童くんに「くだらない」と一蹴された私の望みをあっさり叶えてくれた若利くんへの好きが止まらない。

「よかった」
「!」

若利くんは首を振る私を見て笑った後、指を絡めてしっかりと私の手を握ってきた。
そっか、別に手を繋ぐって歩いてる時じゃなくてもいいんだ。むしろこっちの方が若利くんの掌を実感できる気がする。というか、完全に意識がそっちに持っていかれる。
気付けばCMは終わっていた。果たして私はこの2時間半、映画に集中することができるのだろうか。