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「ふんふんふーん」

鼻歌を気持ちよく歌いながら花壇に向けて水を撒く。毎週水曜日の放課後は緑化委員として花壇の水遣りをしなければいけない。私がお世話するようになって3ヶ月。このお花たちもだいぶ大きくなってきた。私が一から育てたわけじゃないけど、植物の成長を見届けるのは気分が良いし達成感もある。この先一人暮らしをする機会があったら家庭菜園とかやってみようかな。トマトとか育ててみたい。

「うわっ」
「あ!!」

ノリノリで水をあげていたら、花壇の脇から出てきた男子生徒に思い切り水をぶっかけてしまった。なんてこった。ちょうどサビのところでテンションが上がっていたせいで水の軌道が花壇を外れていたことに気付けなかった。

「ご、ごめーん!!」
「……」

被害者は同じクラスの研磨くんだった。派手な金髪に反して性格はけっこう大人しめ。最初の頃は人見知りを発揮してなかなか目を合わせてくれなかったけど1年と4か月、同じクラスで過ごしてきてようやく仲良くなれたと私は思っている。全然知らない人じゃなくて良かった。

「ハンカチしか持ってないけど……」
「いい……自分のタオルある」
「ほんとごめんね〜」

研磨くんは怒りを露わにすることなく、自分の鞄から出したタオルで顔や身体を拭いた。怒る通り越して呆れられてるのかもしれない。ものすごく大きなため息はつかれた。

「ふふふ、びしょ濡れ研磨くんだ」
「……何笑ってんの」
「あはは、ごめんなんか面白くて」

なんだか濡れてる研磨くんが面白くて笑っちゃったら研磨くんの眉間の皺が深くなった。うん、水ぶっかけといて何笑ってんだよって感じだよね、わかる。私もそう思う。

「意味わかんない……反省してよ」
「してるしてる!今度研磨くんの好物買ってあげるね」
「うん」

今回の件は好物を献上すれば許してもらえるらしい。なんだかんだ研磨くんは優しいし、私に甘いのだ。隣の席になった時は3日連続で教科書を忘れた私に呆れながらも机をくっつけて見せてくれたし、数学の小テストができなさすぎて教えてほしいと頼んだら何がダメだったか的確に説明してくれた。ついでに私の性格についてもダメ出しされた。
そう、つまり何が言いたいのかというと、私と研磨くんは仲良しだ。だからこのくらいのことで研磨くんが私のことを嫌いになることはない。
……そういえば研磨くんの好物って何だろう。


***


「ねえねえ、もう食べた?」
「まだだけど」
「えー!」

翌日の昼休み、昨日のお詫びとして献上したりんごチップスの感想を聞きたくてお弁当を食べ終わった研磨くんにそわそわと声をかけた。まだ食べてくれていないらしい。私はお菓子貰ったらすぐに開けちゃうのに。

「ていうか何でりんごチップスなの?」
「え? 研磨くんりんご好きでしょ?」
「……ちょっと違う」

研磨くんの好物ってりんごじゃなかったっけ?まあいいや、「ちょっと違う」ってことはちょっとは合ってるってことだから問題なしということで。

「コンビニで見てずっと気になってたんだよね〜。味の感想教えてほしい」
「……感想とか伝えるのめんどいから今食べてよ」
「! いいの?」

私がこれを選んだのは研磨くんの好物がりんごだというおぼろげな記憶と、私が食べたかったっていうのが半々の理由だ。
遠慮なく物欲しそうな視線を向けたら研磨くんは目の前で袋を開けて私に差し出してくれた。感想伝えるのがめんどいからなんて言ってるけど、これは紛れもなく研磨くんの優しさだ。私はニヤニヤする口元を抑えようともせず袋の中に手を突っ込んだ。

「美味しい!やっぱり青森産は間違いないね!」
「ん……けっこうガチなやつだ」
「ね!」

さすが某鉄道会社がプロデュースしてるだけあって、りんごの素材そのものを存分に活かした味が口に広がった。研磨くんもなかなかお気に召したようでもぐもぐとお口を積極的に動かしている。可愛い。

「……はい」
「! いやいや、研磨くんにあげたものだし……」
「いいよ別に。こんないらないし」

もぐもぐ研磨くんを眺めていたら物欲しそうに見えたのか、袋の口を向けられた。そんなつもりじゃなかったんだけど……くれるというならありがたく頂こう。子どもでもぺろりと平らげてしまえるくらい内容量なのに。

「ふふふ、研磨くん優しい」
「優しくないし」

わかりにくい研磨くんの優しさにまたしても頬が緩む。研磨くんはお世辞にも愛想が良いとは言えない。そんな研磨くんが昼休みにこうやって一緒にお菓子を食べる女子は、おそらくこの学校で私だけだと思う。その事実がたまらなく嬉しい。

「研磨くんさ、私のこと嫌いじゃないよね。むしろ好…」
「そのポジティブ思考羨ましい」
「褒められた!」
「褒めてない」

いつか研磨くんに「好き」と言ってもらえる女の子になりたいな。そんな野望を胸に秘めつつ、私は今日も研磨くんの隣で笑うのだ。