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「#エロ」のBL小説を読む
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部活帰りにいつも寄るコンビニに、1ヵ月前くらいから新しい女の人が入った。歳は俺とあまり変わらないくらいに見えるけど、うちの学校にはいないし近くにバイトOKな高校もないから勝手に大学生かと推測してる。
名前は名字さん。名札がついてるから勝手に確認した。名字さんの透き通った声や指先まで神経が行き届いてるような丁寧な所作は、俺の男心を的確にくすぐってきた。コンビニの店員さんがこんなにも魅力的に見えてしまうのは工業高校で女子が極端に少ない生活を送ってるからなのか……いやいや、普通に可愛いだろ。黄金川もコンビニのおねーさん可愛いって言ってたし。
だからって別にどうこうするつもりはない。コンビニの店員さんをナンパするなんてめちゃくちゃチャラいじゃん。出来なくもないけど、名字さんにはチャラい男だと思われたくなかった。どうこうなり得ない相手に見栄を張ってどうするんだと自分でも思う。


「わ、すごい!」
「えっ」
「3等ですよ〜。」
「二口さんすげーーッ!」


そんなことを考えていたらイレギュラーな出来事についていけなかった。
今日の練習試合でサーブミス一番多かった奴がアイス奢りという勝負を吹っかけて見事自分が奢る羽目になったクソダサい男がこの俺だ。全員分のアイスを名字さんのレジに持っていくと、くじ引きのキャンペーンの説明をされて言われるがまま用意された箱に手を突っ込んで紙切れを一枚引いた。
なるほど、3等が当たったのかと遅れて理解した。景品は俺が物心つく頃には既に当たり前のように存在していたゲームのキャラクター、テカチュウの掌サイズのぬいぐるみだった。


「おめでとうございます。」
「……ありがとうございマス。」


テカチュウを貰ったことよりも、名字さんといつもとは違うやりとりが出来たことに喜びを感じた。営業スマイルとはまた違った笑顔を向けられていとも簡単に落ちたのを自覚した。
めちゃくちゃ可愛い。好き。付き合いたい。













部活がない日曜日は久しぶりだ。こんな日は朝から夕方まで漫画を読んだりスマホをいじったりダラダラとしていたいものだが、いつもはスルーする母親のおつかいを聞き入れたのは名字さんに会いたいから。
そしてわざわざチャリを漕いで、家の近くのスーパーじゃなくて学校近くのコンビニへ向かったのは名字さんに会えないかと期待したからだ。
結果的に名字さんはいなかった。まあ現実なんてそんなもんだ。そこまで期待してたわけじゃないし。そう自分を納得させて、貰った小遣いの余りでからあげを買った。


「!」


からあげを頬張りながらチャリを漕いでいたら前方をバタバタと走る女の人を見つけた。後ろ姿だったけど、何故か俺はすぐにそれが名字さんだとわかってチャリから降りた。
名字さんが向かう先にはバス停があって、たった今ドアが閉まって走り出した。やがて名字さんの足は止まり、バスを見送るその背中からはどことなく哀愁が感じられた。


「どうしよう……」
「あの……」
「!」


俺は覚悟を決めて声をかけた。コンビニを出てしまえば店員と客という関係性にしばられることもない。ここで声をかけなかったら一生後悔すると思った。


「あ!えっと!あれですよね、よく来てくれる……テカチュウ当たった人!」


振り返った名字さんは目を丸くして俺を見上げた。可愛すぎだろ。
「テカチュウ当たった人」として名字さんの記憶に俺の存在が残っていたことがめちゃくちゃ嬉しい。今までたいして興味がなかったテカチュウに心の底から感謝した。


「二口っていいます。」
「あ、私は名字です。」


ぺこり。青根が烏野の10番にしていたようなクソ丁寧なお辞儀をした。鎌先さんに見られてたら「何猫かぶってんだ」って笑われていただろう。猫をかぶって何が悪い。好きな人に良く見られたいっていうのは当たり前の感情だ。


「バス乗れなかったんですか?」
「はい。ちょっと時間を勘違いしてたみたいで……あはは。」


自分の失態を笑う名字さんは、レジに立って仕事をこなす姿より幼く、可愛らしく見えた。テカチュウ当たった時も俺よりテンション上げてたし、大人っぽくてクールな第一印象はすっかり塗り替えられた。


「……駅だったら、俺今から向かいますけど。」
「え……」
「後ろ乗ります?」
「!」


どうにかして名字さんに近づきたくて、家とは真逆の駅に行くなんて嘘をついた。
俺の申し出に名字さんは戸惑った。そりゃそうだ、初対面で自転車の二人乗りなんてするわけねーだろ、アホか俺。


「ありがとうございます。」
「!」
「でも、私運動神経悪くて多分二人乗りできないので……遠慮しておきます。」
「あ、はい。こっちこそなんかすんません。」


「嫌」じゃなくて「出来ない」という理由で断られたことに多少救われた。嘘だとしてもその気遣いが嬉しかった。
……でも、これで終わるのは嫌だ。


「あの!」
「は、はい!」
「また今度……話しかけていいすか。」


いちいち許可をとるようなことじゃないのかもしれない。しかもこんな顔を赤くして言ってしまったら、ほぼ告白してるようなもんだ。


「え、あ、はい、ご自由に!」
「っしゃ!」
「!」
「呼び止めてすんません。また!」


別れ際、名字さんの赤くなった顔を見たら後悔なんてなかった。ようやく手に入れたチャンス、無駄にしてたまるか。明日の部活帰りが楽しみだ。





■■
・無意識に気品がある
・ピュアで人を疑うことを知らない
・大人な女性に見えて実は少女の心を隠し持っている
・トラブルに巻き込まれそうになる前に一歩身を引く冷静さがある
・ライバルを蹴落としてまで好きな人を手に入れようとは思わない
・恋愛にはどちらかというと消極的
・想い人は陰からひっそり想い続ける
・無意識のうちに男心は掴んでる


リクエストありがとうございました!