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「名前ってさあ、本当に角名くんと付き合ってんの?」
「え。付き合ってるけど……何で?」

朝教室に入るなり、待ち構えていた友人にデリカシーのないことを聞かれた。

「昨日一緒に帰ってんの見かけて後つけたんだけどさ」
「おい」
「手ェ繋いでなかったし」
「うん」
「別れ際ちゅーもしなかったじゃん?」
「……」
「何で?」

確かに昨日は倫太郎と一緒に帰って、手も繋がずキスもせず別れたけれども。我が友人ながら本当に遠慮がないというか……デリカシーがないの一言に尽きる。見かけたならそっとしておいてくれればいいのに。

「人前でベタベタするの苦手なんだよね」
「え?」
「わざわざ外で手を繋ぐ理由って何?」
「……名前は荒んでるね。どうやって角名くん落としたの?」
「いいじゃん、ちゃんと好きだもん」

倫太郎とは付き合って3か月くらいが経つ。別に喧嘩をすることもないしやることはやってるし、好きだし。倫太郎との付き合いに不満はない。
手を繋がないのかと不思議に思われてるみたいだけど逆に聞きたい……外を歩く恋人は手を繋がなきゃいけないものなのかと。
私は人前でベタベタするのが苦手だ。手を繋ぐという行為もわざわざ外でする必要はないと思う。小さい子どもが逸れないように親の手を握っている姿はとても可愛らしいけど、いい歳した男女が人目も憚らずベタベタとくっつくのは良識が無いように見えてしまう。そんな見方しかできない私は友人の言う通り荒んでるんだろう。否定はしない。

「でもさ、周りから見たら隙だらけかもよ?」
「え?」
「4組の鈴木さん、角名くんに告白するって息巻いてたらしいよ」
「!」

倫太郎が結構モテるということは付き合う前からわかっていたことだ。4組の鈴木さんって、けっこうギャルっぽい感じの子だった気がする。倫太郎の好みではないから断るだろうとは思う。けど……まあ、いい気分ではない。私の見えないところでやってくれますように。


***


テスト週間は部活がないから毎日倫太郎と一緒に帰ることになる。いつものように靴箱のところで待とうと思ったら、今日に限って3階の空き教室に来るようにと倫太郎に呼び出された。

「どうしたの?」
「ん? 会いたくなった」
「……はあ?」
「はは、ちょっと話そうよ」

倫太郎は空き教室の一番奥の席に一人座ってスマホをいじっていた。私が来ても特に何をしようとかではないらしく、私は促されるままに倫太郎の正面の席に座った。

「来週の日曜日空いてる?」
「! うん、空いてる」

デートの話だとわかった途端嬉しくなって食い気味に返事をした。
強豪である男子バレー部に所属している倫太郎は、普通の男子高校生に比べてなかなか忙しい。ここ最近は土曜日は部活、日曜日は試合ってスケジュールが続いていたから丸1日デートに使えるのは久しぶりだ。素直に嬉しい。

「どこ行こっか」
「映画観たい!カンナちゃん出てるやつ」
「あー、少女漫画のやつ?名前持ってたね」
「あれマジいいよ。あとさ、VR体験できるとこ知ってる?この前テレビで見たんだけど……」
「ははは」
「? 倫太郎……?」

私が話す途中で倫太郎がいきなり笑い出した。え、そんなウケを狙ったこと言ったつもりないんだけど。

「そんなに俺と行きたいところあるの?」
「!」

言われて、自分が久しぶりのデートにはしゃいでしまっていたことに気付いた。

「可愛い」
「か、可愛く、ないし……!」

別に悪いことじゃないのに、わざわざ指摘してくるなんて倫太郎は意地が悪い。恥ずかしがる私に追い討ちをかけるように、倫太郎は机の上の私の手に自分の手を絡めてきた。指と指の間に倫太郎の指が入り込んでくる。
恋人と触れ合うことが幸せなことくらい、知ってる。実際これだけで、私はこんなにも簡単に腑抜けてしまう。捻くれたことを言っておきながらしっかりと私の中には乙女がいるのだ。

「……今日友達にさ、何で手ェ繋いで帰らないのって言われた」
「へえ」
「私は人前でベタベタするの苦手だから気にしないけど……倫太郎はどう?」
「ん? 俺も別に気にしないよ」

倫太郎に触れた瞬間、もう倫太郎のことしか考えられなくなってしまう。こんな姿、他人に見せられるわけがない。わざわざ人前でくっつかなくても、私と倫太郎だけの空間があればいい。

「でも……」
「!」

段々と倫太郎の触り方がいやらしくなってきた。手の甲や手の平を優しくなぞられて少しくすぐったいというか、ゾクゾクする。

「見せつけておくことも大事だと思うよ」
「!」

そして何を思ったのか、身を乗り出してキスをしてきた。

「な、何を……!」

空き教室で誰もいないとはいえここは学校だ。誰に見られてるかわからない。焦って廊下の方を確認すると走り去る人影が見えた。翻った短いスカートを視界の端に捉えて、ようやく倫太郎がここにいた理由を理解した。

「よし、帰ろうか」
「……倫太郎、ここで何してたの?」
「ん? 呼び出されてたんだけど……来ないからもういいよ」
「……うん」