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「#エロ」のBL小説を読む
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「名字ノート見せて」
「は?何当たり前のように見せてもらえる思とんの?」
「俺と名字の仲やんか〜」

私と侑の仲を聞かれたらそこそこ仲の良い友達と答える。別にノートぐらい貸してあげてもいいんだけど当たり前のように催促されて少し腹が立った。侑にノートを要求されるのはこれが初めてではない。「いつもすまん」という言葉とかお詫びのお菓子くらいあってええ気がする。眠くなる気持ちはわかるけど、侑の場合眠気と戦う様子すらなくて「さあ寝るぞ」と言わんばかりに机に突っ伏すのだ。完全に自業自得なのにこの態度……侑が人でなしと周囲に言われる所以の一つである。

「おい、俺の英語の教科書勝手に持ってったやろ」
「!」
「あ」

双子の治くんとは大違いや……と思ったその時に治くんが現れて私はひとり勝手にヒヤっとして背筋を伸ばした。治くんは私と目が合うと軽く会釈をしてくれた。

「返せや」
「あー……すまん、5組の鈴木に貸してまったわ」
「はあ?」

どうやら侑に勝手に借りられた教科書を取り戻しに来たらしい。いくら兄弟でも人の教科書無断で借りといて尚且つ又貸しとかないわ。侑がこんなんだから、治くんは優しくて気の遣える人になったんやろな。そう思うと、私が想いを寄せる治くんは人でなしの侑の人格があってこそだから、私は侑に感謝しなきゃなのかもしれない。

「名字、英語の教科書サムに貸したってや」
「え、あ、うん」
「お前人の物又貸しとかマジないで。ごめんな名字さん」
「ううん、全然、だいじょうぶっ」

不自然なくらい何度も頷いていそいそと治くんに教科書を渡す。私の教科書を手に去っていく治くんの背中を見送って、私は心から侑に感謝した。

「うぐうぅ……」
「何やねん今の!急にしおらしくなりおって」
「だって!目の前に!治くんが!かっこいい!!」
「目の前に同じ顔あるんですけど」

全然同じと違うわ。確かに双子なだけあって顔のパーツは似てる。認めよう。でも「かっこいい」っていうのは、性格とか言動とか、全てをひっくるめての「かっこいい」だ。だから侑には当てはまらない。

「それより俺に言うことは?」
「人の物勝手に借りて又貸しは良くないと思う」
「違うやろ!めっちゃええアシストしてやったやん!!」
「ごめんて、わかってるよ」
「ノート見せて〜」
「はいどうぞ」

教科書を又貸ししたっていうのは、私と治くんの接点をつくるための嘘だったらしい。人でなしの侑ならやりかねないと思ってしまったことを謝って、ノートを差し出した。こんな見返りがあるんやったらノートなんていくらでも貸してあげる。


***


「名字さん」
「!?」
「これありがとお」

思わぬタイミングで治くんに声をかけられて、あからさまに驚いてしまった。侑なしでこうやって二人で話すのは初めてかもしれない。どうしよ、緊張してまう。

「どういたしまして……?」

間延びした語尾が治くんらしくてかわええなあと思いつつ、教科書を受け取ろうとしたらひょいと頭上高く上げられて私の手は空ぶってしまった。え、何これどういうこと。治くんの頭より高い場所に私の手が届くわけがない。

「侑、人でなしやろ」
「え……あ、うん」

今の治くんの行動もちょっと人でなしなのでは……?そう思ったけど口には出せなかった。そこまで私と治くんの距離感は近くない。
身長の低い私をからかうような行動をとった治くんに戸惑っていると、治くんポツリポツリといつもの落ち着いた声で話し始めた。

「アイツ、家で名字さんと仲ええアピールめっちゃしてくんねん」
「へ〜……まあ、確かに仲良い方やと思う」
「めっちゃ腹立つ」
「えっ」
「名字さんが俺より侑と仲ええの、腹立つ」
「治くん……?」
「あー……つまり、アレや。その……」

「腹立つ」という穏やかではない言葉に怯えることはない。だって、それってつまり、そういうことなのでは。思わせぶりなことを言ってきた治くんは、照れ臭そうに頭をがしがしと掻いた。セットしてるであろう髪の毛がぐしゃぐしゃになった。かわいい。

「俺も名字さんと仲良うなりたい」
「!」
「……頷いてくれたらコレ返す」

私が何度も大きく頷くと治くんは嬉しそうにはにかんで教科書を返してくれた。教科書を返してほしくて頷いたんじゃない。私も治くんと仲良くなりたいから必死で頷いた。

「あ、でもごめん。寝たからヨダレついてまったかも」
「いえ!喜んで!!」
「はは、何でやねん喜ぶなや」

つい口から零れてしまった変態じみた本音につっこまれた。おおお、仲ええって感じ!

「五十ページ、確認して」
「うん……!」

言われた通りに五十ページを開いてみると、身に覚えのない付箋が貼ってあった。そこに書かれたアルファベットの羅列を確認して勢いよく見上げたら、顔を赤くした治くんとしっかり目が合った。

「ツムの文句でも何でもええから……よろしく」
「こ、こちらこそ!!」

その日の夜、送信ボタンを押すまでに2時間かかった。