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「#エロ」のBL小説を読む
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「名字さんこれありがとお」
「いいえー。どやった?」
「おもろかった!名字さん趣味合うわ
「だよね!私も思ってた」
「またオススメあったら貸してな」
「うん」

貸していた映画のDVDを受け取って鈴木くんに手を振る。最近仲良くなった鈴木くんは好きな俳優が同じだったり、笑いのツボが似ていたりで話していてとても楽しい。やっぱり趣味が合うって大事やなあと思う。自分が好きな物を肯定してもらえたら普通に嬉しいもん。

「鈴木と仲良かったっけ?」
「ううん、この前の文化祭でちょっと仲良くなった」
「ふーん……好きなん?」
「どうやろ。まあそういう目では見てるよね」

自分の席に戻ると、さっきまで腕を枕にして寝ていた治が私を見上げていた。おでこ赤なってる、かわええ。
聞かれたことに対して正直に答えると何とも言えない視線を向けられた。何を思われとんのかはなんとなくわかる。治とは2年間同じクラスや。

「前佐藤のことええな言うてなかったっけ」
「佐藤くんなー、かっこええよなー!私ツーブロ好きやねん」
「俺もツーブロやし」
「治がかっこええのはみんな知っとるよ」

私は多分恋愛に関して気が多い方なんだと思う。言うても今は誰とも付き合ってないから浮気にはならんし、咎められるのは心外や。彼氏候補を見逃さないようにアンテナを高く張ってるだけだ。鈴木くんも佐藤くんもそれぞれいいところがあるし、仮にどちらかと付き合うことになってもそれなりに上手くやっていける自信はある。

「ねえ、治的には誰がオススメ?」
「……は?」
「男がオススメする男って間違いないって言うやんか。このクラスで付き合うなら誰がオススメ?」
「自分の好みで選べや」
「参考にするだけやって〜」

人を見る目がないわけじゃないけど、ふと気になった。私がそうであるように、男の子も最初は猫を被ってるもんや。付き合い始めた途端に連絡が少なくなったとか、扱いが雑になったって話はよく聞く。男目線で見た時、どういう人がええのかは興味がある。

「…… 名字は目移り激しいからな。寛大な心の持ち主しか付き合えんやろな」
「失礼な。付き合うたらめっちゃ一途やもん」
「ほんま?」
「マジマジ」

さすが2年の付き合いなだけあって治のアドバイスはなかなか的を射ていた。確かに私と付き合うなら寛大な心は必須条件かもしれない。浮気したことなんてないけど、多分男友達は多い方だ。過去にもあらぬ誤解をされてフられたことがある。そういうのを笑顔で受け止めてくれる人がええんやろなとは自分でも思う。

「で、誰??」
「……角名はやめといた方がええ」
「ああ……うん、それはわかる」
「とんだとばっちりなんだけど」

なんかはぐらかされた気がするけどその意見には同意した。角名くんってなんか、好きな子にめっちゃ意地悪しそう。両想いって知っていながらわざと焦らしてきそう。知らんけど。


***


「ありがとう、めっちゃ助かったわ
「……今の高木?」
「うん。高木くんめっちゃ優しくて吃驚したわ」

私と美術部の高木くんという組み合わせを珍しく思ったのか、部活に向かう高木くんを見送る私に治が声をかけてきた。普段あまり話さん高木くんは、ゴミ袋を2つ抱えた私を見兼ねて手伝ってくれる心優しいクラスメイトやった。正直ヒョロくて男らしいイメージはなくて、まあそれはその通りなんだけど、こうやって気遣ってもらえることは素直に嬉しかった。ええ人や。女慣れもしてなさそうだし、高木くんみたいな人と付き合うたらきっと一生懸命大事にしてくれるんやろな。治はこういうことを言っとったのかもしれない。

「治が言ってた寛大な心の持ち主って奴やな」
「違うわ」
「え?」

秒で否定された。治は高木くんみたいな人をオススメしてくれたんと違うんか。珍しく強めの語気で否定されて少し怯んでしまった。気付けば思ったよりもずっと近くに治がいて、慣れない首の角度が少し辛い。

「優しいだけはつまらんやろ?」
「あー、確かに……そうだけど……」

ただでさえ近い距離をまた詰められる。背の高い治にこんな詰め寄られたらもはや顔が見えない。思わず一歩後ずさったら、腕を掴まれてこれ以上動くなという無言の圧力を感じた。

「なあ、俺にはいつ目ェ向けてくれんの?」
「……!?」

腰を屈めて顔を近づけてきた治に目を向ける。いつも眠たそうにぼんやりしている治の目の奥に、ギラギラとした何かを見つけてしまった。脅迫でもされてるかのような威圧感さえ感じる。ふと、「治は大人しそうに見えるけど結局DNAは侑と同じ」という角名くんの言葉を思い出した。
そして治の熱の籠った瞳を見つめながら思う。さっき治が言った「目を向ける」は、きっと別の意味だ。

「オススメ、俺なんやけど」

確かに、おっとりしていて優しいだけの男はつまらん。今まで形を潜めていた治の獰猛な瞳から目を逸らせられない。ドキドキと煩い心音が、私に芽生えたばかりの恋心の存在を教えてくれた。