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「ちょっと、そこ私の席なんやけど。」


休み時間、名前がトイレから戻ってくると我が物顔で自分の席を陣取っている侑を目にして苛立ちを感じた。


「知っとる〜。もうちょい待って。」
「何でや。どいてよ。」
「ちょっとくらいええやんか。俺今鈴木と積もる話しとんねん。」


友達とお喋りするために空いている他人の席を借りるのは、侑に限らずまあよくあることだ。ただ、持ち主が現れたらゴメンと席を空けるのが普通なのに侑は名前が戻ってきたのを確認しても全く動く気配がない。その自分勝手な言動に名前は腹が立った。


「そんなん立ってすればええやろ。どーいーてーー!」
「フハハ、そんなんビクともせんわ〜。」


目の前で始まった痴話喧嘩に、鈴木は「またか」と呆れた。こんな感じのやりとりは今が初めてではない。名前に小言を言われるとわかっていながら、わざわざ侑がその席に座るのは名前に構ってほしいから。誰が見てもわかる中学生のようなアピールの仕方を見てバカだなあと思う。顔がいいのだからもっと正攻法でいけばいいものを。おそらく名前の方も満更ではない。


「……名字さん俺の席座る?」
「「何でやねん!!」」


傍から見たらイチャついてるようにしか見えない2人を見て、鈴木は「はよ付き合え」と心の中で吐き捨てた。
















「!」


放課後、名前が他のクラスの友人を校舎脇の花壇で待つの知っていた侑はなんとなくその場所を覗いてみた。いつものように花壇の端に座る名前を見つけてちょっかいを出してやろうと、一歩踏み出して思いとどまった。名前が見上げている視線の先には同じクラスの佐藤の姿があって、名前と何やらやりとりをしている。気になるが話の内容までは聞こえてこない。要件はすぐに終わったようで佐藤は優しげな笑顔で手を振って駐輪場へ向かっていった。


「今の佐藤?仲良かったっけ?」
「は……え、まあ普通かな。」


佐藤と入れ替わるように出てきた侑に名前は不意をつかれた。聞かれたことに対して簡潔に答える。その様子に侑はただならぬ雰囲気を感じ取った。どう考えても佐藤と名前はわざわざこんなところで2人きりで話す程仲の良いイメージはない。


「……え、告白されたんか。」
「違うよ。」
「やんなー!名字なんかに告白するわけないよなあ!」
「……文化祭の自由時間一緒にまわらんかって誘われた。」
「は!?」


確かに告白はされていないが好きと言われてるようなものだった。
佐藤といえば特に目立った顔立ちではないが優しくて柔らかい雰囲気を持っていて女子からの評価も高い。いわば侑とは対局にいるような優男だ。


「ふ、ふーん?佐藤って変な趣味しとんなー。もちろん断ったんやろ?」
「……さあ?」
「は……え!?」


自分以外の男と名前が距離を縮めることが侑は気に入らなかった。それはもちろん名前のことが好きだからではあるが、恋愛感情は置いといたとして名前と一番近い男は自分だという自負があったからだ。


「なんてね。断ったよ。佐藤くん優しくていい人だけど、私はもっとこう……お互い意見を気兼ねなく言い合える人の方が、いいし……」


ちらりと顔色を窺うように侑を見上げる。
いつもはクラスメイトの視線を気にして素直になれない名前だが、2人きりのこの状況では少しだけ素直になれた。


「名字と付き合う男は大変やろなー。かわいそ!」
「……」


だがしかし、佐藤の好意を断った事実に安心して浮かれた侑は名前の言葉に含まれたいじらしい気持ちに気付かず、ついいつもの減らず口が出てきてしまう。


「……アホ!バーカ!」
「はああ!?」


優しい佐藤と一緒にいるよりくだらない口喧嘩が絶えなくても遠慮せずものを言い合える人と一緒にいる方が楽しい……つまりは侑のことを言ったつもりだった。この2人きりの状況で「なら俺と」と言ってくれたら素直に頷けたのに。女心のわからない侑に腹が立って、名前はつい可愛くない態度を取って大股で去っていってしまった。


「まーた痴話喧嘩してる。飽きないの?」
「アイツがかわいないんが悪い!」
「名字さんかわええと思うけどな。」
「おおん!?」
「何でキレんねん。」


取り残された侑にHRを終えた治と角名が声をかける。途中からしか見ていないがいつもの痴話喧嘩をしてるのだとすぐに察しがついた。


「マジでかわいないやろ!?」
「いや、侑がアホなだけじゃん。」
「アホやなあ。名字さんかわいそ。」
「何でやねん!!」


経緯を聞いても2人が侑に共感することはなかった。バレーの時はタイプの違うスパイカー達を巧みに使い分けて相手チームを翻弄する技術と頭の良さを持っているのに、何故それが私生活での大事な局面に活かされないのか。残念な男だと哀れんだ。


「何でそこで『なら俺と』って言われへんねん。」
「……!!」
「てか明らかにそれ待ちでしょ。」
「そうなん!?」


治と角名に言われてようやく名前のいじらしい乙女心を理解した侑は遅れて顔を赤くした。これはもう「好き」と言われたようなものだ。今までの可愛げのない態度も照れ隠しなんだと思うと侑は居ても立っても居られなかった。


「ちょお行ってくる!」
「おー。」


ニヤニヤする口元を押さえて友人と合流した名前の後を追った。


「名字!!」
「!」
「名字がそこまで言うんやったら、文化祭一緒にまわってやっても、ええけど?」
「! そ、そんなん言っとらんけど!?」
「は……」


しかし隣にいる友人はもちろん、下校中の生徒の注目を集めてしまっている侑の言葉に名前が素直に頷くはずがなかった。


「なっっんであかんねん!!」


侑渾身のツッコミが空を切る。その様子を遠目に見て、今日も平和やと稲高生徒達は思うのであった。





■■
・真面目で負けず嫌い。一番になりたいという思いが強い
・時として他のことが見えなくなってしまうことも
・リーダーシップのある頼れるお姉さん
・なかなか好きな相手に本心を見せることができない。恥ずかしがり屋
・後で「何であんな可愛げのない態度をとってしまったんだろう」と落ち込む
・人前でツン。二人きりになると甘える
・なよなよした男性は嫌いで男らしい人に惹かれる
・自分と対等に意見を言い合える人が好き


リクエストありがとうございました!