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「#エロ」のBL小説を読む
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「この前名字さんが教えてくれた映画観たよ。」
「本当?どうだった?」
「すげー良かった。泣いた。」
「ふふ、黒尾くんが映画観て泣くの、想像できないなあ。」
「俺も人並みに涙腺はありますよ。」


口元を隠して上品に笑う女の子の名前は名字さん。その笑顔に俺以外の視線が集まっているのを感じて嫌だなと思ってしまう。牽制したい気持ちは山々だが今の俺にその権利はないし、何より名字さんにガキだと思われたくない。
名字さんは同い年の他の女子と比べてもずば抜けて大人っぽくて、ほとんどの人が「おしとやか」とか「育ちが良さそう」という印象を持っているだろう。年相応の顔立ちをしていても立ち振る舞いやちょっとした仕草からそういう雰囲気が溢れ出ているんだと思う。


「他のオススメも教えてよ。」
「うーん……」


大人っぽいのは雰囲気だけではなくて、その趣味や嗜好にも表れている。オススメの映画を聞かれて誰もが知ってるタイトルではなくて、映画好きの中での評価が高い隠れた名作を挙げてくる名字さんを改めていいなと思った。
少しでも名字さんとの会話のきっかけがあればという邪心でレンタルショップへ行き、背伸びした気持ちで自分が生まれるより前の古い洋画を手に取り、その日のうちに観終えた。
名字さんが言った通りの名作で泣いたのは本当だ。そしてそれ以上に、この映画を「良い」と思う名字さんのことをますます好きになった。名字さんの感性に少しでも触れられたような気がして嬉しかったんだと思う。


「おーい黒尾ー、消しゴムサッカーやんねえ?」
「あー……パス。」


名字さんはきっとガキっぽくはしゃぐ男子は好きじゃない。名字さんの目に「いい男」として映りたい俺は精一杯大人の男を演じることを心掛けた。














そんな俺の密かな努力は意味がなかったんだと思い知らされる時が突然やって来た。
人気のない廊下の隅で、去年赴任してきた20代の男の先生と話す名字さんを見つけて思わず身を隠して覗き見た。


「ありがとうございます。」
「いいえ。帰る時声かけてね。」
「はい。」


先生が名字さんに渡したのはおそらく鍵。名字さんはそれを受け取ると嬉しそうににっこりと笑った。その様子を見て、2人の間にただならぬ雰囲気を感じ取ってしまった。人の感情を読み取るのは得意な方だ。こんなこと、知りたくなかったのに。


「あ、黒尾くん。」
「今の鈴木先生だっけ?音楽の。」
「うん。」


先生が去ったのを確認して名字さんに声をかけた。俺を見上げる名字さんの顔を見て相変わらず「好きだ」と思ってしまう。そう簡単に気持ちの切り替えができるわけがない。
高校生である時点で俺は名字さんの恋愛対象にはなり得なかったってことか。「あんな奴やめて俺にしとけよ」みたいなクサいことが言えるような相手だったら良かったのに。大人が好きなんて言われたら成す術ねぇじゃん。


「意外だなー。」
「え?」
「名字さんって、生徒と先生みたいな禁断の恋楽しんじゃうタイプだったんだ?」
「……!」


違う、本当はこんなこと言いたくないのに。こんな大人の男とは程遠い態度、名字さんに好かれるわけがないとわかってるのに。
侮辱ともとれる言葉を聞いて、優しい名字さんは何を思うんだろうか。顔を赤くして怒るだろうか、それとも泣いてしまうんだろうか。胸が痛むのには気付かないフリをして、悪者として名字さんの記憶に残るのもいいかもしれないと自暴自棄に思った。


「黒尾くんは……もっと賢い人だと思ってた。」
「!」


いつも穏やかな名字さんの表情が不快そうに歪んだのを見て、身体の中心がブルっと震えた。あと少し何かきっかけを与えれば泣いてしまいそうな名字さんに欲情している自分がいて本当にバカだと思う。


「はは、そうだな。高校男子なんてただのクソガキにしか見れないよな。」
「……ばか。」
「え?」
「ばかばか……ばあーーーかッ!!」
「!?」


か細く震えた声が零れた直後、急に名字さんが声を張り上げて思考が止まった。度肝を抜かれるとはこのことか。あの大人っぽくてお上品な名字さんがこんな幼稚な悪口を吐き捨てるなんて……。
名字さん渾身の「ばか」を頂いて満更でもない自分がいた。変態か。いやだって名字さん可愛いんだもん。顔真っ赤にして睨まれても全然怖くない。むしろずっと見てられる。


「鈴木先生からは、ピアノの練習室の鍵を借りただけだもん。」


尖った唇から真相が告げられた。なんだ、あの鍵は鈴木先生の家の鍵じゃなかったのか。そういえば夏にピアノのコンクールがあるからたくさん練習しなくちゃって言ってた。


「私が楽しみたいのは……く、く……」
「……!?」


勝手に変な誤解をして名字さんを傷つけてしまったことを反省しなきゃいけないはずなのに、名字さんにこんな反応されたら期待して浮つく気持ちの方が勝ってしまう。
顔を真っ赤にして何かを一生懸命伝えようとしている。「く」?え、もしかして「黒尾くんとの恋」とか言ってくれちゃうの?色んな衝撃が重なって、情けないことに俺は名字さんの言葉をそわそわと待つことしか出来なかった。


「高校生同士の、普通の恋愛……だし……」


名字さんの口から俺の名前は出てこなかったけど、こんな態度もう言われてるようなもんだよな。さっきまで蔓延していたどす黒い気持ちが嘘のように晴れ渡った。本当男の子ってヤツは単純だ。


「じゃあ、来週俺と映画とか、どうですか。」
「……楽しそうだと、思います。」


名字さんがここまで頑張ってくれたんだから、今度こそ俺のターンだ。「高校生同士の普通の恋愛」だったら提供できる。俺の持てる力全てを使って名字さんを楽しませてみせると決意した。そしてあわよくば名字さんの一番近い男になって、今度は呆れた笑顔で「バカ」と言ってもらいたい。





■■
・礼儀正しく品がある
・心のどこかに余裕を持っていて他人に乱されることもない
・人のペースに合わせることもできる
・草食系からもモテる。モテることを鼻にかけない。
・面倒くさく思うことなく「私を好きになってくれてありがとう」。振られても嫌な気がしない
・優しすぎてライバルに譲ってしまうことも
・一度好きになると持ち前の粘り強さで深く相手を愛する
・決してあきらめることなく、相手の気持ちを大切にしながら関わっていく我慢強さと実直さ


リクエストありがとうございました!