「なあなあ、ぼっくんのこと好きなん?」
「!」
セッターとして長年やってきたから洞察力にはそこそこ自信がある。
同期で入社した名字さんはいつも落ち着いていて、クールでミステリアスな女性として魅力を感じる人もいればロボットみたいで冷たい人やと敬遠する人もいる。俺は多分どっちでもない。強いて言えばいつもすましたその顔を何らかの形で動揺させてみたいとは思っとった。
そんな好奇心をもって始めた暇つぶしの観察を続けること1ヵ月。俺はあることに気付いてしまった。基本的にパソコンから動かさない名字さんの視線が、ぼっくんを追っていることが多々あることに。
おそらく名字さんの核心に迫るであろう質問をしてみると、電卓を叩く名字さんの右手が止まった。
「……好きっていうか、興味がある。」
「?」
「私には理解できない思考回路をしてるからだと思う。」
「ふーん……?」
俺の期待とは裏腹に名字さんの落ち着いたペースが乱れることはなかった。この様子を見る限りほんまに好きとは違うんか、残念。確かにぼっくんは名字さんとは正反対の性格やと思う。ぼっくんがたまにしでかすぶっ飛んだ言動は名字さんには到底理解できないんやろなあ。俺もまだ完全に木兎光太郎というじ人物を掌握できたとは思っとらん。
好きと違うにしてもぼっくんのことを考えとることには違いない。いつしかそれが恋愛感情に発展する可能性もある。それを想像するとなんだか面白くなかった。名字さんの興味を俺に向けたい、なんて幼稚な思考回路に自分でも笑てまった。
「おっ。」
休日に街で名字さんを見つけた。見た感じ一人や。へーえ、けっこう私服かわええやん。
「名字さーん!」
「!」
「何しとんの?」
「買い物。」
「へー、何買うん?」
「……それ本当に必要な情報?」
「えー、教えてくれたってええやん。」
迷わず声をかけると、マナーとして最低限の対応はするけど早くどっか行ってほしいオーラがダダ漏れや。嫌悪感に関してはわかりやすいんよなぁ。
「一人?」
「うん。」
「俺も今日適当にブラブラしよかなー思てん。」
「……」
「一緒にメシでもどう?」
「やめとく。」
「即答!?」
決して俺が嫌われとるってわけではなくて塩対応が名字さんの通常運転なんや。でも、相手がもしぼっくんやったら誘いを受けてたんやろか。思考回路がわからんから気になるって言うなら、俺の思考回路はわかりやすいってこと?心外や。そんな反応されたら余計に意地悪したなるだけなのに。意地でもついてったろ。
「……外出る時は帽子被るとかしないの?」
「んー?」
メシの件はもう名字さんの中で行かないということで終わったらしく、何の脈絡もないことを言われた。絶対逃がさへんけどとりあえず乗ってみるか。名字さんが言いたいことは俺が女子の視線を集めてまってるってことやろな。
「えー、俺ってばそんな有名人?」
「でかい金髪なんてただでさえ目立つし。」
「ちょ、言い方ひどない?」
「今の時代誰が見てるかわからないんだから。」
ああなるほど、俺と噂になるのが嫌なんか。確かに今の時代、この状況をSNSなんかで拡散されたらあらぬ噂なんてすーぐ広まるやろな。俺を心配してってのもあるんやろけど、まあ単純にそんなことになったら自分がめんどくて嫌なんやろな。
「まあまあ、見せつけたったらええやん?」
「!」
そうとなると、嫌がる顔を見たなるやんか。
油断しとった名字さんの手を握ると案の定反射的に振り払われそうになって、グッと力を入れて押さえ込んだ。
「は、放して……」
「……へっ」
眉間に皺を寄せて嫌悪感を露わにしとんのやろな〜と期待を込めて見下ろすと、眉を下げて顔を真っ赤にした名字さんがおった。
え、何やねんその反応。そんな顔されたら期待してまうんやけど。え、そういうこと?それはそれで……悪くない展開かもしれん。
「名字さん俺のこと好きなん!?」
「っ、違う!! て……」
「て?」
「……手フェチなだけなんだから……!」
えええ何やねんそれ意味わからん。わからんけど……名字さんむっちゃかわええ……!
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・計算されつくした行動ができるかなりの頭脳派
・プレッシャーに負けない強さ
・ロボットのようだと人の目に映る
・神秘的な大人レディ
・自分と真逆の男性に惹かれる。ワイルドなタイプ
・どんな思考回路をしているんだろうと相手のことを考えているうちに恋心へ
・考えすぎてしまいチャンスを逃す
・自分のテリトリーに人が入ってくることを嫌う
・相手があまりに自分に執着してくると逃げ出したくなる
リクエストありがとうございました!