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私は才能がある人間ではないから、みんなの『標準』に追いつくには人一倍の努力が必要だった。こんな私でも努力すればそれなりの結果が得られる……それを実感したのは高校受験に受かった時だった。元々厳しいと言われていた都内の音駒高校に合格できた時の喜びは多分この先忘れないと思う。
その経験を経てから何事にもちゃんと取り組むように意識している。宿題は必ず期日までに終わらせるし部活でもマネージャーとしてできることを探して自ら動くようにしている。

「名字さんって真面目だよね」
「あ、うん」

そんな私を真面目だと言ったのは梟谷の赤葦くんだった。「真面目だなあ」と笑われることはよくあるけど、赤葦くんのその言葉はまっすぐで他の人とはテンションが違った。

「名字さん見てると、俺も頑張らないとなって思うよ」
「!」

そんな赤葦くんに私は簡単に恋に落ちた。お世辞かもしれないけど、こんな私が誰かの原動力になれてると思うとすごく嬉しかった。
それから赤葦くんとは部活外でも連絡をとったり一緒に出掛けたり勉強したりするようになって、夢のような時間を過ごしてきた。

「名字さんのことが好き」

そして先日、赤葦くんから告白を受けた。

「時間を、ください……」

私の中で答えは決まっていたのに、喜びと驚きでテンパってしまった私はそんなことを口走っていた。
赤葦くんのことが好き。でも、大事だからこそ失敗したくない。いつか訪れるかもしれない別れが怖い。高校2年生の付き合いが一生続くなんて、滅多にあることじゃないと思う。私はすごく可愛いわけでも超絶性格が良いわけでもない。今は好きだと思ってもらえていても、その熱がずっと続くとは思えない。

「本当、名字ちゃんって損な性格してるなあ」
「黒尾さん……」

このことを部活の先輩の黒尾さんに相談してみたら案の定笑い飛ばされてしまった。私にとっては今後の人生を左右する重要なターニングポイントなのに、黒尾さんはフライドポテトを食べる手を止めないしもう片方の手ではスマホをいじっている。器用な人だからちゃんと聞いてくれてるのは分かってるけど。

「私、何て言ったらいいんでしょう……」
「思ってることそのまま言えばいいじゃん、私も好きですって」
「それだけでいいんですか?じゃあ何で『時間ください』って言ったんだとか思われません?」
「ははは、めんどくせー」
「ごめんなさい……」

自分でもそう思う。行動を起こすまでに時間がかかるのは自分に自信がないから。たくさん頭の中でシミュレーションしてみてからじゃないと怖くて一歩が踏み出せない。今回もたくさん考え始めたら悪い方向にばかり思考がいってしまって気分は沈むばかりで、本当にめんどくさい奴だと思う。こうなることが目に見えたから研磨くんには断られてしまったんだろう。

「まーまー、ダメになった時は俺がいるじゃん」
「黒尾さん……!」

こんな私をからかいながらも、なんだかんだ励ましてくれる黒尾さんはとても優しい。失敗してしまっても黒尾さんが慰めてくれるんだと思うと勇気が出てきた。

「じゃ、赤葦呼んどいたから頑張って」
「!?」

窓の外に向いた黒尾さんの視線を辿ると赤葦くんがいた。黒尾さん、いくら何でもそれは荒療治です……!


***


「……」
「……」

黒尾さんの爽やかな笑顔に見送られた後、私は今赤葦くんと2人で公園をブラブラと歩いている。
確かに決心はしたけど、こんなすぐになんて無理。私には普通の人以上の時間が必要なんだってば。ちゃんと一回家でどんな言葉を伝えようかじっくり考えようと思ったのに、考えがまとまらないうちに放り出すなんてスパルタすぎる。

「え、と……あ、暑いね!」
「うん。走ってきたから汗かいた」
「へ、へええ……」
「……ちょっと座ろうか」
「うん」

赤葦くんは合流した時既に汗をかいていた。黒尾さんが赤葦くんに何て言ったのかはわからないけど、私のために急いで来てくれたんだろうか……そんな自惚れたことを考えてしまって一人勝手に恥ずかしくなった。
並んで歩くより並んで座る方が距離が近い感じがするのは何でなんだろう。汗かいたとは言っても赤葦くんからはいいにおいがした。

「俺は……まだ黒尾さん程名字さんのこと理解していないかもしれないけど……」
「え……」
「ちゃんと名字さんのことを見てきて、本気で好きだなって思ってるから」
「え、う、うん」

ただでさえ緊張でいっぱいいっぱいな私に、赤葦くんは追い打ちをかけるような言葉をたたみかけてきた。何でまた改めて告白みたいなこと言ってくるの。今日は私が返事をしなきゃいけないのに。
私と違ってスラスラと言葉が出てくる赤葦くんを尊敬した。赤葦くんみたいに綺麗な言葉は並べられないけど、赤葦くんの気持ちに私の等身大で応えたい。

「赤葦くんのことが好きです」
「!」

日本語の学習帳のような簡単な言葉には、私の想い全てを乗せることはできなかったかもしれない。もっといろいろ考えたはずなのに「好き」という事実を伝えるだけで精一杯だった。赤葦くんの好きなところなんて両手の指でも足りないくらいなのに、きっとうるさい心音に全部かき消されてしまったんだ。

「本当に?」
「うん。テンパって時間欲しいなんて言っちゃって……ごめん」
「……」
「もっと伝えたいこと、いろいろ考えたんだけど……ダメだね、緊張して忘れちゃった」
「いいよ」

赤葦くんがにっこり笑ってくれると、しどろもどろな言葉でも伝えて良かったんだと思えた。嬉しい。

「いくらでも時間かかっていいから、これからひとつずつ教えて」
「は、はい……!」
「ふふ、何で敬語なの」

人より時間がかかる私だけれど、待ってくれる人がいる。こんなにも優しい人が私の好きな人なんだと思うと、赤葦くんのことを好きになった自分まで好きになれるから不思議だ。これから少しずつ、自分の言葉で伝えていきたい。