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「……」


白鳥沢の試合DVDをまわすために古森のクラスに来た。教室の奥にいる古森はお喋りに夢中でこちらに気付かない。別によそのクラスに入っていくことに抵抗はないけどなんとなくやめといた。お喋りの相手は女子。最近よく古森と一緒にいるのを見かけるし、俺が一緒にいる時も古森が積極的に声をかけていたから顔は覚えてる。大人しそうでほわほわした印象で、古森とお似合いだと思った。


「あ、おーい佐久早ー!」
「……」


ぼんやり見ていたら古森が気付いて手招きをしてきた。何でだよ、嫌に決まってんだろ。DVDは近場の奴に預けて自販機に向かった。


「佐久早くん……!」
「……」


階段を降りようとしたところで声をかけられて、振り返るとさっきまで古森と楽しそうに話していた女子がいた。だから何でだよ。近くに古森の姿はない。喋ったこともない俺にいったい何の用があるっていうんだ。


「あの、私、名字っていいます。」
「あ、うん。」
「えっと……よろしくお願いします。」
「……うん。」


自己紹介をされた。意味わかんねぇけど、古森の彼女だとしたら無視するのは良くないと流石に思った。古森に挨拶してこいとでも言われたんだろうか。いや別に俺に挨拶する必要なんてないだろ。考えれば考える程わからねぇ。名字さんは自己紹介だけしてすぐに去っていった。……何だったんだ。



























「おっすおっす〜。最近名字さんとどうよ?」
「……」


どうもこうも、そのことについて古森に聞こうと思っていたところだ。


「連絡先聞かれたんだけど……」
「おおお!」


あれから度々名字さんから声をかけられるようになって、今朝連絡先を聞かれた。名字さんの柔らかい雰囲気に絆されて古森に聞いてとか言ってしまったけど……何のために聞かれたのかわからない。よからぬことに利用されるとかないよな……。


「何企んでんの……?」
「いやいや何でそうなるんだよ!」
「は?」
「お前名字さんにアピールされて何も思わねーの?」
「……古森の彼女なんじゃねぇの。」
「違う違う、俺はただの友達!」


俺はアピールされてたのか……いやまあ、連絡先聞いてくるのは普通に考えてそういうことか。古森の彼女だと思ってたから可能性としてあがってこなかった。
でも何で、全然知らない俺のことなんか……誰にでもそういうことしてる女なんじゃねぇの……。


「俺、名字さんとは去年も同じクラスだったけどいい子だよ。」
「……」
「優しいし可愛いし、結構人気あるよ?ほら、あそこ。」


古森が指さした方を見ると名字さんと一人の男子が話していた。何を話してるかは聞こえないけど、なんとなく男の方は名字さんに気があんのかなと思った。やけに距離が近いし下心見え見えの顔してる。


「……」


距離をつめてくる男に対して名字さんはさりげなく距離をとってるのがわかった。表情も無理して愛想笑いを作ってるように見える。だって、俺に向ける笑顔と全然違う。


「……佐久早くん!」


じいっと観察してると目が合って、名字さんは男との会話を切り上げて俺の方に駆け寄ってきた。さっきとは打って変わって明るくなった笑顔を見て、あの男と俺は名字さんの中で違うんだと確信した。


「朝言い忘れてたんだけどね、今週の試合の時差し入れとか持っていっていいかな?」
「……手作り以外なら。」
「うん!」


顔を赤くする名字さんの奥で、さっきまで話していた男が悔しそうな視線を向けてるのが見えて優越感を感じた。ここまで顕著に違いを見せつけられたら余程のアホじゃない限り気付く。差し入れはできればお断りしたいけど、名字さんが渡しに来るんだったら貰ってもいいと思えた。軽い足取りで教室に向かう名字さんの背中を見て、今週末にまたあの笑顔を見るのを楽しみに思った。


「名字さんって意外と積極的だな……」
「おっ、気付いた?てかおせーよ!」
「……」




■■
・おっとりした中にも芯を持っている
・一緒にいると落ち着けるし自分もしゃんとしなきゃと思う
・引き寄せられる男性は多い
・自分から好きになった相手としか恋愛をしたいと思わない
・好きな相手にはすぐ行動するからいつもの雰囲気とのギャップがある


リクエストありがとうございました!