全部思い出した。
私はあの日、森で怪我をした狐を拾った。本物の狐を見るのはその時が初めてで、すごく可愛かった。マッツンに相談したら銃弾が前脚を掠めていて1週間は安静にした方がいいって言ってた。動物図鑑を読み込んで、1週間私が守ってあげないとと一生懸命お世話をした。
最初は警戒して近づいてもくれなかったけどご飯を食べた後は少し気を許してくれたように思えた。
今思い返してみると、私のどうでもいい独り言に反応してくれたり落ち込む私を慰めてくれたり、不思議な狐だった。
今ならわかる。あの時の狐は、イナリ族のオサムくんだったんだ。そして昨日お風呂まで案内してくれたのも、アツムくんではなくてオサムくんだ。
あの時、何で私の記憶を戻してくれないのかと聞いたらオサムくんは「嫌われたくないから」と答えた。私がオサムくんを嫌いになる要素なんて何もないのに。お礼とか、伝えたいことがたくさんあるのに。
「オサムくん!!」
「!」
人目も気にせず走り回って、ようやくオサムくんの姿を見つけた。
「記憶、戻してくれてありがとう。」
「……おん。」
振り返ったオサムくんは目を合わせてくれなかった。
「あの時の狐はオサムくんだったんだね。」
「……俺のこと、嫌いになってへんの?」
「何で?オサムくんにまた会えて嬉しいよ。」
「!」
嫌いになんてなるわけがない。たった3日間だったけれど狐のオサムくんと過ごした時間はすごく楽しかった。
「俺も……リツに会えて嬉しい。」
「!」
やっと目を合わせてくれたオサムくんは幸せそうにはにかんで、手を伸ばして私の体を引き寄せた。
「あ、あの……」
同じ歳くらいの男の人に抱きしめられるのは初めてでどうしたらいいのかわからない。イナリ族はスキンシップが激しい民族性なんだろうか。
「また会いに行ってもええ?」
「うん、もちろん!」
■■
治ルートでした。
続き書けたらアップしますがとりあえずここまで!
昔のボツネタをなんとか形にすることができて満足です。
閲覧、応援コメントありがとうございました!
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