×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



思い出した。
あの日私が城を抜け出そうとしたのは、ワカトシくんのところに行こうとしたからだ。


ワカトシくんは誰もが知っている、シラトリザワ王国の皇子様だ。
お父さんと国王が古くからの友人らしくて、私とトオルくんは小さい頃よくお城へ連れていってもらった。
お父さん達がお喋りしてる間、私とトオルくんとワカトシくん3人でよく遊んだ。
幼い私にとって2つ上のワカトシくんはとてもかっこよくて優しくて、まさしく絵本に出てくる「おうじさま」だと思っていた。


「私、ワカトシくんのお嫁さんになりたいなあ。」


10歳にも満たないお子様な自分がそう言ってしまったのを今でも覚えている。
何も知らない子供だから言えた言葉。少し大人になれば、一国の皇子と気軽に結婚できるわけがないことには気付いた。


「無理だ。」


私より大人だったワカトシくんはそのことを理解していたのか、いつもの淡々とした口調で返事をした。
少なくともワカトシくんに嫌われてはいないと思っていた私は、ワカトシくんに「無理」と言われたことがショックで頭が真っ白になった。
それ以降、ワカトシくんとは適度な距離感を保つように気をつけてきた。
それなのに……いきなり結婚の申し込みをされて意味がわからなかった。あの時断ったくせに、何で今更。
頭がうまく働かなくて、ついトオルくんの「お断りだよ!!ねっ、リツ。」という言葉に頷いてしまった。
その夜お断りの電信がいったと聞いて、ぐちゃぐちゃした気持ちで一晩を過ごして翌日。私は直接ワカトシくんの言葉を聞きたいと思って城を出ようとしたんだった。その結果落ちて記憶喪失になってしまったと……。
そのせいで色んな人に迷惑をかけてしまったなあ。ここまで一緒に来てくれたアキラにツトムくんにアカアシさん。ネコマ村の人達とイナリ族の人達……そして、たくさん心配してくれたトオルくんとワカトシくん。
早く会って、記憶が戻ったって報告したい。


「リツ!!」
「!?」


城が見えてきてあと少しだと早足になる私を呼び止めたのはワカトシくんだった。
え、何でシラトリザワ御一行がここにいるんだろう。


「何でワカトシくんがいるの……?」
「! 記憶が戻ったのか。」
「う、うん。」
「ワカトシくんてばアオバ城でリツちゃんの帰りを待つって聞かなくてネ〜。明日はどうしても外せない面会があるからなくなく帰ろうとしてたってわけ。」


私の質問に答えてくれたのはワカトシくんではなくてテンドウさんだった。
……ということは、私が城を出てから今日まで、ずっと待っていてくれたってこと……?


「無事に帰ってきてくれて良かった。」
「!」


ワカトシくんはわたしの記憶が戻ってことよりも、私の身の安全を心配してくれていたようだ。
優しい笑顔を向けられて胸の奥がきゅんとした。


「リツ……返事を聞かせてくれ。」
「!」


記憶をなくしていた時のことは覚えている。
イナリ族の情報を貰うためにアキラが出した交換条件……婚約の件は私の意志が最優先って話だ。


「リツが俺のことを想っていないのなら諦める……そういう約束だ。」
「……」


私の意志を伝える前に、まずワカトシくんの意志を確認したい。
10年前に無理だって言ったくせに、何で今更そんな話を持ちかけるのか。


「……小さい頃、私がワカトシくんと結婚したいって言ったこと覚えてる?」
「ああ、覚えている。」
「その時ワカトシくん、無理だって言ったじゃん。」
「……そんなことは言っていない。」
「言ったもん!絶対言った!」


やっぱりワカトシくんは自分がどう返事したかまでは覚えていないみたいだ。
ショックだったから私の記憶には鮮明に残っている。絶対、あの時ワカトシくんは「無理だ」って言った。


「あの時無理って言ったくせに、今になって結婚してくれとか……意味わかんない。」
「俺は約束を守っただけだ。」
「え?約束?」
「あの時はお互いに子供だから結婚は無理だと言った。だから、10年経って大人になったらしようと言った。」
「え……え!?」


何それ、そんな約束なんてした記憶ない。
もしかして……「無理だ」という言葉の後に、その約束が続いていたんだろうか。ショックすぎて頭が真っ白になって全然聞いてなかった。
っていうことは「無理だ」っていうのは、年齢を考えて現実的に不可能だってこと?


「俺は昔からずっとリツを愛している。」
「!」


自分がずっと勘違いしていたことと、ワカトシくんのストレートな告白のせいで顔に熱が集中する。


「な、何それ……!紛らわしい言い方しないでよ……私、ワカトシくんに嫌われたんだと思って、悲しくて……!」
「嫌いだと思ったことは一度もない。絶対幸せにする……結婚しよう。」
「……うん。」




■■
牛島ルートでした。




≪ | ≫