「まあ今見てもらった通りなんだけど……うちの一族は猫の姿に変身することができるんだよね。」
「「「!」」」
人が虎に変身する瞬間を目撃してしまった。
見間違いかとも思ったけど、どうやらそういうことらしい。
「基本的には自分でコントロールできんだけど、アイツの場合女に免疫がなくてね。興奮して変身しちまったんだろ。吃驚させてごめんね。」
「いえ……」
「……だから外部との接触を避けてきたんですね。」
「……まあねー。こんな珍しい体質なもので、金儲けに使おうってずる賢い奴も世の中にはいるわけよ。」
「……」
クロオさんは何でもない感じに話してくれたけど、あまり外部の人には知られたくなかった事実なんだろうな。
悪いのはネコマの人達じゃないのに、外の世界に対して警戒心を持たざるを得なかったんだ。
そう思うと胸が苦しくなった。
「イナリ族もウチと似たようなもん。」
「?」
「あいつらは狐に変身できる一族なんだよ。」
「!」
「そんで警戒心はウチ以上。近づくよそ者がいたら術を使って寄せ付けないって話だ。」
イナリ族も同じような民族なんだ……。
今回はアカアシさんのおかげですんなりと話が通ったけど、イナリ族に対して同じようにはいかないだろう。話どころか、姿を見せてくれるかもわからない。危害を加えられる可能性だって十分にある。
「……それでも行く?」
「はい……!」
私は自分の膝の上で力強く拳を握りしめた。
心配してくれるトオルくんの反対を押し切って、色んな人に協力してもらってここまで来たんだ。今更引き返せない。
「……わかった。呪術の知識がある奴が俺らの村にもいるんだけど……ちょっと行方不明みたいなんだよね。」
「え!?」
「あー大丈夫。いつもフラっとどっか行ってフラっと帰ってくるような奴だから。」
イナリ族が使えるという呪術に関して何か対策ができるんだったら心強い。
詳しい人が行方不明らしいけど心配する必要はないらしい。
フラっと帰ってくるって……もしかしていつになるかわからない感じなのかな……。
「けどケンマさん知らない人いたら出てこないんじゃないすか?」
「……確かに。」
「え……」
「極度の人見知りでね。まあそこらへんは俺が説得するから、ゆっくりしてってよ。」
「は、はい……。」
私としては出来るだけ早く出発したいんだけど……早く見つかるといいな。
ゆっくりしてと言われてもどうしても落ち着かない。
よそ者が外をウロウロしてたら村の人が怖がるということで用意してくれたお部屋でひたすら待つことになった。
アキラは部屋の前で見張ると言ってくれたけどさっき見たら座り込んで寝てた。アカアシさんはケンマさんと知り合いだからと捜しに出てくれた。ツトムくんは持ってきた魚を捌くのを手伝わされている。
……部屋には私一人だ。
「やっほー!」
「リエーフくん!」
退屈だなあと思っていたら、背の大きな青年……リエーフくんがノックもなしに部屋に入ってきた。
「何か欲しいものとかして欲しいこととかある?」
「じゃあ、話し相手になって欲しいな。」
「! うん!」
話し相手をお願いするとリエーフくんは元気よく返事をして私の隣に座った。
「俺、お姫様ってもっとワガママな生き物だと思ってた!」
「うーん……記憶がないからなぁ。」
「アッそっか!ごめん!」
「ううん、気にしないで。」
私もお姫様っていうとワガママで高飛車なイメージがある。記憶が戻る前の私もそんな感じだったのかな。全然想像できないなぁ。
「リエーフくんも変身できるんだよね?」
「うん。見たい?」
「え、いいの?」
「いいよ!」
あまり外部の人間に見せていいものではないと思うんだけど……リエーフくんがすごく協力的で好奇心に負けてしまった。
ボフン!
リエーフくんが変身したのは大きなライオンだった。
一口に猫と言っても人によって変身できる種類は違うみたい。
「す、すごい!かっこいい!」
「へへへ!」
こんな間近でライオンに触れる機会なんて滅多にない。私はリエーフくんが優しいのをいいことに柔らかい毛並みを思う存分撫でた。
「寝ていいよ!ケンマさんとかヤクさんにもよく枕にされるし!」
「え、でも……」
「リツあんま寝てないだろ?隈できてる。」
「!」
確かに……フクロー谷で一晩過ごした時は色んなことを考えてしまってあまり眠れなかった。
もふもふのリエーフくんのお腹を枕にしたら気持ちいいだろうなあ。
「じゃあ……ちょっと横になるね。」
「どーぞ!」
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