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「わあ……」
「キョロキョロしすぎ。」


というわけで、私はアキラと一緒にお城を出てカラスノ城下町へやってきた。
記憶喪失になった私にお姫様の感覚なんてなかったけど、実際にこうやって城から出てみると真新しいものばかりでワクワクしてきた。
ヤハバさんはこの町に私の行きつけのカフェがあるって言ってた。


「どこかわかる?」
「うん。リツの行くところは大体把握してる。」
「あ、そうなんだ。」


こっそり抜け出してたはずなのにアキラには全部バレていたらしい。
記憶を失くす前の私の詰めが甘かったのか、アキラが優秀だったのか。多分後者かな。


「リツちゃんいらっしゃい!」


アキラが案内してくれたのは大通りから一本外れた小道にある、こじんまりとしたお店だった。
中に入ると笑顔が素敵な男の人が親しげに私の名前を呼んでくれた。記憶喪失の私にとっては初対面だけど何でだろう、笑顔を向けられた瞬間ドキっとした。


「あれ、今日は執事くんも一緒なんだね。」
「実は……」


事情を知らずに話しかけてくれる男の人にアキラが事の経緯を説明をしてくれた。


「記憶喪失……」
「はい、すみません……」
「……じゃあ改めて自己紹介しないとね!俺はスガワラ。このカフェの店長だよ。」


以前親しくしてくれていた人程、私が覚えていないことを申し訳なく思う。
そんな私の心情を察してくれたように男の人……スガワラさんは明るく振る舞ってくれた。優しい人なんだな。


「こっちはシミズ。うちの常連。リツちゃんとよくここでお喋りしてたんだよ。」
「……リツにはキヨコって呼ばれてた。よろしくね。」
「は、はい!」


そしてさっきから視界に入って気になっていた美人さんも私の知り合いだった。カップを持って口に持っていく姿がとても様になっている。


「俺のことはスガさんって呼んでくれてたよ。」
「スガさん……」
「うん。」


名前を呼ぶとスガさんがにっこり笑ってくれて、またドキドキしてしまった。
きっとスガさんも私にとって大事な人だったんだろうな。


「いつも飲んでたコーヒー飲めば思い出すかな?リツちゃんのにはちょっと蜂蜜を入れてるんだよ。」
「……すごくおいしい。私これ大好きだと思います。」
「うん、ありがと!」


スガさんが入れてくれたコーヒーはほんのり甘くて懐かしい味がした。
もしかして記憶を失う前の私はこのコーヒーを飲むために……スガさんの笑顔を見るために、城を抜け出そうとしてたのかな……。


「……リツ、スガワラのこと大好きだったんだよ。」
「!」


キヨコさんにこっそりと耳打ちをされた。
それを聞いて妙に納得してしまった。スガさんの笑顔を見ると心がフワフワした。




■■
スガワラ…カラスノ城下町のカフェの店長
キヨコ…図書館司書





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