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01

東京都、池袋。4月6日……今日は来神学園の入学式。
残念ながら先週降った雨のせいで桜は半分くらい散ってしまっていた。
まだ少し中学生の幼さが残る新入生達が次々と校門をくぐっていく。緊張をしている者、期待に胸を膨らませている者、面倒くさそうな者……入学式に臨む姿勢は人それぞれだ。
新入生の一人、名字名前は緊張・期待・不安…いろいろな感情を抱いて来神学園の門をくぐった。




















埼玉から引っ越してきた彼女にもちろん知り合いは誰一人いない。そういう境遇を選んだのは紛れもない彼女自身であり、後悔はしていない。
名前は普通の女子高生に憧れていた。
そのためには一緒にお昼ご飯を食べたり、学校帰りにファミレスに寄ったり、相談事をしたりする相手……すなわち、友達が必要だ。今まで友達を作るという経験が少なかったため、今日という日は名前のこれからの高校生活を左右する決戦日と言っても過言ではない。
何回も頭の中でシミュレーションした作戦をついに実行するとなると緊張も生まれるし、新しい友達ができることへの期待、もしできなかったらという不安も抱いてしまう。


「(頑張るぞ……!積極的にアプローチしなきゃ!)」


しかし名前の決意は固かった。
その作戦の第一関門として、名前はとりあえず「隣の席の人と友達になる」ということを決意していた。まずは近場から攻めていこうという戦法だ。
入学式が終わり、新入生は列を作ってそれぞれの教室に入った。名前の席は窓側の一番後ろの席だった。そうなると左隣がいないので、必然的にターゲットは右隣の人に絞られる。それはそれで助かる気がした。
名前が自分の席について心を落ちつかせていると、隣の席の椅子を引く気配がした。急速に早くなる心音を聞きながら、名前は恐る恐る隣に視線を向けた。


「………!!」


名前は隣の人物を見て衝撃を受けた。
何故なら隣の席に座ったのは男子生徒だったからだ。彼女のシミュレーションでは隣の席に座るのは女子で、男子生徒である可能性をすっかり排除してしまっていた。


(ど、どうしよう………ううん、隣の人と友達になるって決めたんだ……男子だろうが女子だろうが関係ない!私は今日この人と友達になる!!)


思わぬ事態にうろたえたはしたものの作戦は続行するようだ。名前は更に決意を固くし、担任の先生が話している間隣の男子生徒を観察することにした。


「!」
「……」


しかし目を向けた瞬間その男子生徒とバッチリ目が合ってしまい、名前は条件反射的にバッと俯いてしまった。


(うわああ最悪だ私!何目ェ逸らしてんの!目が合ったらニコッて笑いかけようって思ってたのに……!)


いくら頭の中でシミュレーションしてはみても咄嗟の事態に対してはどうしても理想通りにはいかないものだ。
一人顔を赤くする名前に対して隣の男子生徒は特に気にもとめず、退屈そうに大きな欠伸をしていた。


「では今から一人ずつ自己紹介をしましょうか。」


担任のその言葉だけ、名前に耳にはっきりと入ってきた。
自己紹介でその人の第一印象が決まる。もちろん名前はこれに対しても相当なシミュレーションを積み重ねてきた。


(えーと……あれ、何言おうと思ってたんだっけ?)


しかしいざ本番となると、前もって考えてきていた自己紹介文が全く思い出せない。更に窓側からスタートしたため自分の番まであまり時間がない。そのことが更に名前を焦らせて、名前の頭はすっかり真っ白になってしまった。


「では次、名字。」
「は、はい!」


そうこうしているうちに自分の名前が呼ばれて桃香は勢いよく立ち上がった。
……のはいいものの、なかなか言葉が出てこない。


「名字名前です。えっと……好きな食べ物はちくわです……よ、よろしくお願いします!」


結局シミュレーションしていた内容の1割程しか伝えられずに終わってしまった。
前の生徒達が出身校やら入ろうと思っている部活などを述べる中、好きな食べ物しか言わない名前の自己紹介は浮いていた。本人も着席してから脳内で大反省会である。本当は頭を抱えて机に突っ伏したい気分だが変な人とは思われたくない。俯いて、思い通りに振る舞えない自分に対して小さくため息をついた。


「次、平和島。」
「っす。」


いつの間にか順番は隣の席の男子生徒にまわっていた。名前は落ち込むことは一旦やめにして、彼の自己紹介に全神経を集中した。
まず名前をインプットする。それから、自己紹介の内容に関して質問するなどの口実で休み時間に話し掛ける。


「平和島静雄っす。よろしくお願いします。」


しかしまたもや名前のシミュレーションに反して、隣の男子生徒は名前しか言わなかった。一瞬呆気にとられたが、今聞いた名前を忘れないように頭の中で呪文の如く繰り返した。


(へいわじまくんへいわじまくん……)
(何こいつブツブツ言ってんだ?)





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