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03

東京の友達と遊ぶ約束をして駅で待ち合わせてると、数メートル先に名字さんを見つけた。名字さんも誰かと待ち合わせやろか。声でもかけようと思った時、名字さんは嬉しそうに笑って俺とは反対側へ小走りしていった。そこにおったのは烏野のリベロくん。一言二言喋った後、名字さんはくしゃっとめいっぱい笑った。
え、何なんその顔。



+++



(治視点)


「知っとるか治……名字さんの笑顔には第二段階があんねん。」
「はあ?」


終電逃したから泊めろと押しかけてきた侑の様子がなんとなく変やったから聞いてみたら意味わからんことを言いよった。何やねん第二段階って。進化か。フリーザか。最終形態とかあるんか。


「こう……くしゃってな、嬉しそうに……例えるならそう、飼い主に駆け寄る犬のような……」
「……お前も名字さんのこと犬扱いしとんな。」


俺が名字さんのこと犬みたい言った時は「やめたれや」みたいな感じやったのに、結局お前も犬みたいって思っとるやん。


「その笑顔がな、めちゃくちゃ可愛かってん。」
「……」


最近、明らかに侑の話は名字さんのことが多くなった。本人気付いとるかはわからんけど。


「何なん、名字さんのこと好きなんか?」
「えっ……わからん。でもあの笑顔を俺にも向けさしたいとは思た。」
「……」


相変わらず歪んだ思考をしとる片割れにため息がでる。何やそれ。お前名字さんの飼い主にでもなりたいんか。変態か。


ガタッ
パリーン!


「「!」」


ドン引きしていると隣から物音が聞こえた。何かが割れる音やったな。どうしたんやろか。そう思ってると俺の携帯に名字さんから電話の通知がきた。


「どしたん?すごい音したけど。」
『みっ、みみ宮くんあのね…っ…ど、どうすればいいかな…!?』
「……おん?」
『私、は、初めてで……こ、怖くて……!』
「うん、落ち着き。どしたん?」


電話口の名字さんの声は震えとった。とりあえず落ち着かせて、しどろもどろな言葉を相槌を打って促す。
……なるほどな。


「名字さんどしたん!?」
「今から名字さんとこ行くけど来るか?」
「行く!」
「まあ役に立たんと思うけど。」
「?」



+++



(侑視点)


「みっみみ宮くんありがと……っあ、侑くんも……」


ピンポンを押して、俺たちを出迎えてくれた名字さんは眉を八の字に下げて今にも泣きそうな顔をしていた。声も震えてるし手も震えてる。こんな弱弱しい姿を女子に見せられると守ってあげたくなるやんか。
いったいどうしたんやろか。治は何も教えてくれず、「お前は役に立たん」とまで言いよった。何でやねん。


「で、どこにおるん?」
「あそこ……キッチンの床……」
「新聞紙とかチラシある?」
「うん、ちょっと待ってて。あっ、コップ、割っちゃったから気をつけてね…!」
「おう、名字さんも気を付けてや。」


名字さんが指さしたキッチンの床を覗き見て納得した。確かに俺は役に立てそうもないわ。


「あ、あの、もしかしてこれで……」
「ぶっ叩く。嫌なら見ん方がええよ。」
「!?」
「ここは治に任せよー。」


キッチンの床にいたのは小さくても大きな存在感を放つ黒々とした生き物。普通に生活しとれば誰もが対峙したことのあるであろう、気持ち悪いアイツやった。



+++



「ありがとう、助かったよー。」
「こんなんいくらでもええよ。めしのお礼。」
「ふふ、ありがとう。」


Gは治が淡々と処理して、名字さんはだいぶ落ち着きを取り戻した。


「ゴキきもいよなー。」
「うん……話には聞いてたけど初めて見てビックリしちゃって……。」
「初めて!?」
「うん。宮城では見たことなかったから。」
「マジか!」
「あー、寒いとこにはおらんて言うもんな。」


そうやったんか。そんなら、さっきのは人生初のゴキやったんか。そらビックリするわな。俺もゴキはきもくて無理やわ。


「ビックリしてマグ落としちゃった。お気に入りだったのになあ……。」


そういえば割れる音してたもんな。キッチンの床にはまだ破片が散らばっていた。


「片すの手伝おうか?」
「侑くんは指切ったら大変だから触っちゃダメ。」
「!」


サムばっかええかっこして俺ええとこなしやん、って思ってせめて片付けくらい手伝おうかと申し出たら当たり前のように返された名字さんの言葉に、心臓が急に煩くなった。





■■
秋田と仙台出身の友人はG見たことないと言ってました。地域によるんでしょうが。




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