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01

 
「おらへんやないか。」


カーサ丸山202号室。治の部屋はここで間違うとらんはずなのにドアノブを回しても開かんしピンポン押しても出てこん。今日泊まり行くて言うたやんか。少しイライラしながらスマホを開くと「もうすぐ着く」と連絡が入ってた。もうすぐってあと何分やねん。こんなんだったらスタバでも寄ってけばよかった。


「あ、宮くんこんばんは。」
「……どーも。」


部屋の前の手すりによりかかってゲームアプリを開いたところで知らない女子に声をかけられた。


「どうしたの?……あ、もしかして鍵なくしちゃったとか?」
「んー、そんなとこ。けどもうすぐ友達が持ってくる言うてたから気にせんといて。」


多分俺と治を間違うてんのやろな。まあよくあることやから適当に対応しとこ。
女子の手にはスーパーの袋とキーホルダーのついた鍵。おそらく201号室の住人や。


「私も前にやっちゃったことあるよー。あれ、宮くん髪色変えた?」
「え?あー……どう、似合てる?」
「うん、その色も似合うね。」


タメ口てことは同い年か年上か。年上っぽくは見えなかったからとりあえずタメ口で返しといた。
それにしても治のやつ、隣の部屋の女子と交流があるなんて聞いとらん。俺なんか隣の部屋むっさいおっさんやで。
早く部屋に入ればええのに女子はなかなかこの場から動こうとしない。鍵なくして外で待つ俺に気ぃ使てるんやろか。もしかして治に気があるとか?そんなんやったらめっちゃ面白いやん。


「えっと……今から"めし"作るけど、一緒に食べる?」
「!」


すまん治、面白そうだから誘われてみるわ。
俺は治に「お隣さんの女子んとこにおる」とだけ送ってスマホをポケットにしまった。


「って言ってもカレーの残りなんだけど。」
「カレー!最高やん!」
「ふふ、よかった。」


中は治の部屋と全く同じ間取りやったけど、やっぱり女の子の部屋って感じで新鮮やった。
それにしても……仮にも年頃の男と二人きりなのに何の動揺も見られへん。なんやこれ、もしかしてもう付きおうてるん?だとしたら彼氏間違えるてやばない?


「……」
「……」


じっと女子を見てみる。外だとわからんかったけど、よくよく見てみると女子には見覚えがあるような気がした。女子も女子で、明るい蛍光灯の下で改めて俺の顔をまじまじ見て何かを思とるようやった。


「……!」


そして何かに気づいたようにハッとして、そっから顔を赤くさせた。もしかして気付きよったんかな?


「あ、あの、もしかして……」


ガチャ


「名字さんアホ来とる!?」


めっちゃええところで治が来よった。ナイスタイミングやで。



+++



(夢主視点)


部活帰り、スーパーに寄って家に戻ったら宮くんが部屋の前に佇んでいた。声をかけたら鍵をなくしてしまったんだという。いつもならここで「めし」って言われるのに今日の宮くんからその一言は出てこなかった。ちょっと違和感は感じてたし、宮くんが双子だってことも知ってたんだけど……


「ほんとごめん!間違えちゃって……!」
「名字さんが謝ることなんもないわ。コイツが悪い。」


まさか、もう1人の宮くんが来ているなんて。


「にしてもあん時のアメちゃんの子やったんかー!えらい偶然やなあ!」
「あの時も間違えちゃって……ごめんなさい。」
「それは気にせんといて。よくあることやし。」


そう。実は私は高校生の時に2人とは会っていたのだ。
春高の応援で東京に1人で行って、満員電車から降りられなくて困ってる私を助けてくれたのが宮治くん。その後会場で見かけて、治くんと間違えて全力でお礼を伝えたのが宮侑くん。2日目の試合の時に気付いて1人客席で懺悔していたのを思い出した。


「あん時な、結局アメは侑が食ってん。意地汚いよな。」
「やかましいわ、もう時効やろ。」
「あはは。」


アメっていうのは私がお礼として渡したものだ。道中口寂しくないようにと買った、どこにでもあるようなアメ。助けてもらったお礼がそんなもので釣り合うわけないとは思ったけど、急なことでその時の私にはそれしかなかった。


「コイツな、あん時名字さんのこと犬みたい言いよったんやで。」
「えー、何それ。」
「……それは今でも思とる。」
「えっ。」
「名字さんたまに捨てられた子犬のような目ェすんねん。」


満員電車から降りられないであたふたしてる私を見て宮くんはそんなことを考えていたのか。いや、今もそんな風に思われていたのか。


「私からしたら宮くんの方が犬っぽいと思うけどなあ。」
「「ん?」」
「あ……えっと、治くんの方。」


ついいつものように呼んでしまったけどそっか、2人とも「宮くん」なのか。


「会うたび"めし"って言うんだもん。犬に餌付けしてる気分だよ。」
「ぶっは!」
「それちょっとひどない?」
「お前そんなしょっちゅう名字さんにたかっとんの?」
「会うた時だけやし。めし作んのめんどいし。」


基本的に私も宮くんも部活で夜遅かったり土日は家にいなかったりするからそこまで頻繁に会うわけではない。月に1,2回程度かな?
夜も遅いと料理する気になれないのは私にもよくわかる。宮くんは男の子だから余計だよね。


「宮……侑くんは別の大学だよね?」
「そーそー。神奈川の大学行っとるけど明日こっちで試合だから治に泊めてもらお思て!そしたらコイツ遅刻しよってなー。」
「アホ、来るなら前日までに連絡せえや。今日の昼言われても知らん。」
「……」
「どした?」
「ううん、なんかテンポがよくて圧倒されちゃった。」


さすが関西の人と言うべきなのだろうか。2人の会話はテンポが速くてなかなか私が口を挟む隙がない。まるでバラエティ番組のやりとりを見てるみたいだ。


「まあ、東京で関西の会話聞くのもなかなかないか。」
「名字さんはのんびり屋さんやもんなあ。」
「えっ。」
「ちょっと訛ってるし。」
「東北弁や〜」
「えっ!?」


え、私、訛ってるつもりないんだけど……!





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