※注意※ 鉢屋三郎








「っひ」


深い森の奥の奥、荒れた廃村にそいつはいた。

ゴリゴリと原型のわからなくなったそれを先の尖った石で抉り削っている

思わず漏れた小さな悲鳴にそいつはこちらをゆっくりと振り向く

その顔は暗闇の中でもはっきりわかるほど赤黒い血で塗れており治まりかけていた吐き気がぶり返してくる

口元を押さえながらそいつを見ればその目はしっかりとこちらを見ており口元は三日月型
目はぽっかりと穴が空いたようでその中は墨でグリグリと塗りつぶされたようにまっ黒だ。

あちらから私のいる場所は死角になっており見えていないはずなのにこちらをしっかりと見つめるその瞳に身体がピシリと動かなくなる


しばらくこちらを黙って見つめていたそいつだがこちらが何もしてこないとわかったのかまた赤黒い死体、女の死体を細かい肉片にする作業に戻る


すとんと腰が抜けて尻もちをつく。

忍たまといえど4年生なのに情けない
じわりと目に涙がにじむ。あぁ、好奇心に駆られてこんな所に来なければよかった。
そうしたら今頃学園で風呂にでも入れていたのに。

しかし恐怖で動けなくなった身体は目だけはしっかりとそいつをとらえており逸らすことができない



「ぁ"、ぁ……」



するとまた余計なものが目に映り小さく喘ぎ声を洩らす

そいつの、抉る女の死体の傍に、傍に子供がいたのだ。

小さい小さいまだ赤ん坊の形をしたそれ

その臍には臍の緒がまだついており女の死体へと延びている


母の腹からかきだされた、産まれる予定だった命

その身体は自らの母の血で汚れている


すると今まで鳴り続けていたゴリゴリと死体を抉る音が止む

そしてそいつは自らが抉り取った肉片をかき集めて懐から出した血だらけの袋に入れる


これでこの、地獄のような時間が終わる、終わるんだ。
はんば祈るような気持ちでその動作を見つめているとそいつは少量の肉片を掴み傍らに転がしていた子供の死体の小さな口の中に詰めたのだ。

その横顔は先ほどと同じく三日月型の口に目は、目も三日月型に歪められていた
まっ黒で穴の空いていたそこは三日月型に細められている

目も口も三日月型で、口は裂けて、目の奥にはなにも映していない穴まっ黒な穴、三日月型の穴


ポロリと目から溜まっていた涙が溢れて落ちた

私はこの時自分と対して変わらない子供の皮をかぶった鬼を見た。




意識を手放した私が気がついた時にはあの鬼の姿はなく誰もいない廃村に1人いた。

その後もう何も覚えていない気付いたら学園の前にいて学園長の報告もせずに自分の長屋へ転がりこみ物音で目覚めてしまった雷蔵に縋りついて泣いた。











それから1年あの日以来見るようになった悪夢も見なくなってきた今日この頃
忍術学園に新たな編入生がやってきた。


それは忘れたくても忘れられなかったあの鬼で無意識に後ずさりそいつと距離をとろうとするが教室で席についている状態から距離をとると言ってもたかが知れている

大丈夫だ。自分はあの時顔を変えていた気付かれるわけない。
あいつは私の私のこの雷蔵の顔を知らない大丈夫、大丈夫だ。

そんな意識に反して身体はカタカタと震えだす



「名前はわしの知人の息子での。忍びの里出身者じゃから5年生に編入するのに申し分ないじゃろ。」



そう言ってそいつの隣に立つ学園長は言う

冗談じゃない同じ学園内、ましてや同じ教室にそいつがいるなんて



「初めまして苗字名前です。同じ年なのでぜひ仲良くしてください。」



救いがあるとすればあいつのあのぽっかりと穴の空いていたまっ黒な目が笑みで完全にふさがっていたことだ。

あの穴は、黒い底のない目はあの日の恐怖を呼び起こす


隣の雷蔵が私の違和感に気付いたのか「どうしたの三郎?体調悪い?」と小声でたずねてくる

それに「、大丈夫だ」とだけ返す。
私の目はそいつを見つめ続けて逸らすことができない


自己紹介を終えたそいつは私の前の席、八左ヱ門の隣に座る

「よろしく」と周りの席、八左ヱ門や雷蔵、私に話しかけてくる



「あぁ、俺は竹谷八左ヱ門!わからないこととかあったら聞いてくれ!」



やめろ八左ヱ門。ダメだそいつに話しかけるな。

学園長の知り合いだからって気を許すな。

ダメだ。そいつはそいつは鬼なんだ。



「三郎?」



隣の雷蔵が震える私の手に上から手を重ねる

そいつや八左ヱ門の目が俺の方を見ている



「私はこのろ組の学級委員長の鉢屋三郎だ。わからないことがあるのなら八左ヱ門じゃなく私に言うといい。」

「あっ、てめっ三郎!」



大丈夫か、何か不自然なところはなかったか。
いつもの私だ、いつもの私だったか。

表情に出ないように奥に奥に感情を隠す



「三郎……。」



机の下で雷蔵の手を震える手で握り締めているのは大目に見てほしい。




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